第18話
「はぁ、今日もいい天気だわ」
ピクニックから数日。結局、お兄様たちに邪魔をされたデートとも言えないお出かけは終始賑やかな会話が続き、何事もなく穏やかな空気で終わりを告げた。
帰ってからお兄様たちに感謝をすると、「次も任せろ」と元気な返事があったので丁重にお断りしておいた。
今日は温室で暖かな陽の光を浴びながら日光浴をしている。クロード様に先日送った手紙の返事が来たのでつい浮かれているのだ。
「ふふ、次は街歩きに連れて行ってくれるって」
綺麗な文字で綴られた手紙をなぞれば不思議と胸が高鳴った。
「良かったですね、お嬢様。その日はうんと綺麗にしましょうね」
「うん、よろしく頼むわ、ステラ」
ステラは乙女心をよく分かってる。
例え鏡の中の私が地味だとしても、少しでもよく見られたいと思うのは仕方ない。
「ふふ、楽しそうね、メル。わたくしも混ぜて欲しいわ」
そう言って優雅に微笑んだ水色の髪の女性。
「お母様、もちろんですわ!」
「ありがとう。 あら、それは恋文かしら?」
「いえっ!そ、そんなんじゃなくて……私が街を歩きたいと言ったら連れていってくれると……えへへ」
母親と恋バナなんて少し照れる。
お兄様たちは単純に相談って感じなんだけど、お母様の場合は純粋に私がその時に感じたこととかの話を聞きたいみたい。いくつになっても恋バナって言葉で言い表せない楽しさがあるよね。
「良かったわねぇ」
ニコニコと笑うお母様に釣られて私も「うん」と笑ってしまう。そうして手紙の内容やこの間のピクニックの出来事などを楽しく語る。
お母様は聞き上手で気付いたらペラペラとなんでも口にしてしまっていた。
「メルはクロード様のどこが好きなの?」
「えっ!? あの、えっと……」
唐突な質問にテーブルに乗せた手をモジモジといじる。
チラリと見たお母様の瞳にはなんだか揶揄いというよりも、見極めるような真剣なものが感じられた。
「そう、ですね……クロード様は責任感が強くお優しい人なのです……彼を蔑む人々にも、その態度は変わらないのです」
私は彼と並んで初めてこの世界の厳しさを知った。
彼に向けられた視線には明らかに侮蔑や嘲笑を含んだものが多かった。私が感じたことの無いもの。
それを知った時、彼はこんなに冷たい世界で生きていたのだと悔しさに涙が滲みそうだった。
周囲から愛されて育った私は想像もしていなかった。
「クロード様は諦めているのです……愛されることを」
自分が愛されることを一切考えていない。
私がこうして交流しているのを、自身が都合がいいからだろうと思っているみたいなのだ。私の好意など一ミリも伝わってない。その事に驚いたけど、今までの境遇を考えて察してしまった私は何も言えなかった。
「寂しそうな顔を私が見たくないのです」
仕方ない、という表情が嫌だった。
顔を顰める人々を前に当たり前の光景だ、という態度が気に入らなかった。
もっと怒っていい。文句を言っても、睨みつけてもいい。そう思ってしまう私は心が汚いのだろうか。
あたかも普通にされると、隣にいる私の方が苦しかった。
「…………そう。メルちゃんは本気なのね」
ゆっくり紅茶を口にしたお母様はスッキリしたように微笑んだ。私がこくりと頷くと、お母様はカップをソーサーに戻してテーブルの上で手を組んだ。
「分かったわ……では、婚約を進めましょうか」
「……へ?」
「あら、そんなにグズグズしていてはメルちゃんが断れない求婚がきてしまうわよ? それに……クロード様にも、ね?」
「……っ!た、確かに!それはいけないわ! で、でも、婚約って、クロード様は受けてくれるかしら……」
お母様の言葉に納得しかけたが、私なんかの申し出を彼が受けてくれるとは限らない。なんたって彼とは十一も年が離れてる。お子様すぎるだろう。
「ふふっ、大丈夫よ? 受けざるを得ない状況に持っていけばいいだけの話なんだから♪」
おちゃめに笑うお母様になんだか黒いオーラが見えた気がした。
ん?受けざるを得ない状況? それってほんとに大丈夫?
「まぁまぁ、お母様に任せておきなさい」
「は、はい……お願いします」
なんだかそれ以上は聞けなくて、「早速準備をするわ」と楽しげな背中を見送ることしか出来なかった。
お母様……一体何を企んでいるの?




