第12話
「ねぇステラ?私、おかしいところない?大丈夫?」
鏡の前でくるりと回って最終チェック。
いつも通り地味な顔に綺麗な青いドレス。露出はダメだと言われて、首元まで白いレースで覆われたフリルが多めの女の子らしいデザイン。
クロード様に合わせて大人っぽくしたかったのだけど、見兼ねたお父様が釘を刺しにきたのだ。
「お綺麗ですから落ち着いてください」
「だって……ヴェールをしないでお出かけなんて、それに!クロード様が迎えに来てくださるのよ!?」
あわあわと落ち着かない手を動かして言い募る。
ずっと楽しみにしていた。今日はクロード様付き添いもとい、デートなのだ。
それも、私の行きたいところに連れていってくれるという優しい申し出もあり、ずっと行ってみたかった観劇デート!
観劇くらいで、なんて思うかもしれないけど、私、実は大きな舞台でのお芝居なんて前世合わせても経験がない。
前世では正直あまり興味もなくて、それよりも趣味だったアニメ鑑賞や友人たちとの外出やらとそれどころではなかった。
今世では、お金持ちだし?令嬢教育も落ち着いていて?暇な時に遊ぶような友達もいなくて?時間と資金は余裕があったけど、ヴェール越しにお芝居を見るなんてなんだか無粋な気がしていた。
だから浮かれるくらい許して欲しい。
「あらあら、そんなにソワソワしていては疲れてしまいますよ?座ってお茶でも飲んで一息ついてください」
苦笑するステラに「それもそうね」とソファに腰掛けた。
しばらく待っていると、お父様付きの執事であるハリソンが呼びに来る。
「お嬢様、クロード・リオレンド様がお見えです」
「ええ!すぐ行くわ……じゃあ、ステラ、行ってきますわ!」
「はい、お気をつけて」
ニコリと笑って見送ってくれるステラに手を振って玄関ホールへ早足で向かう。いつもは注意されるのだけど、楽しみにしていたことを知っている使用人たちから生暖かい目で見られるだけで済んだ。
曲がり角を曲がってホールに続く階段下、吹き抜け風になっているそこに彼は立っていた。
艶やかな黒髪は後ろに撫で付けられ、額に落ちる数束の前髪が色気を醸し出している。長いまつ毛に縁取られた切れ長の赤い瞳が怪しく光り、黒いスーツに金の細工が施された衣装と相まっていけないオトナの雰囲気がする。
思わず見惚れてしまえば、目が合ったクロード様も一瞬息を飲んだように見えた。
「……お迎えにあがりました」
「あ、ありがとうございます……」
控えめにお辞儀をした彼に胸が高鳴って手が震える。
素敵すぎて顔も熱い。
待ってくれているクロード様のもとへゆっくりと階段を下りると、そっと手を差し出された。
「……今日の、フローレス嬢も可愛らしい」
「……っ!」
貴族として教育を受けた彼が令嬢を褒めるのは当たり前だ。それなのに真っ直ぐ私を見て言うからドキリとした。
あ、挨拶よ……!これは、挨拶!
自分に言い聞かせて深呼吸をして微笑む。顔は赤いかもしれないけど、それはもう仕方ない!
私は開き直ることにした。
「リ、リオレンド様も、すごく、素敵ですわ」
「……ありがとう」
チラリと見上げると少し複雑そうな顔をして「では」とそのままクルリと馬車へ向かう。
そっぽを向いてしまったクロード様の手がほんの少しだけ震えた気がした。




