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転生令嬢は恋がしたい  作者: 海瑠トワ


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第10話

 お父様の執務室に着くとクロード様がノックをして声を掛ける。彼が持ってくれていたバスケットは今は私の手にある。


「フローレス殿、入ってもいいだろうか?」


 中から「どうぞ」と聞き慣れた声が聞こえホッと息をついた。エスコートが完璧すぎてさっきからドキドキが止まらないのだ。お父様の顔を見たら少し落ち着く気がした。


「クロード殿、感謝するよ。……ああ、メル。よく来たね」


 お父様はクロード様の後ろに立つ私に視線を移すと部屋の中に手招いて「クロード殿も」と声をかけた。

 何かお仕事で用事があったのだろうか?お父様を見上げると、ニコリと笑って頭を撫でられる。


「メル、一緒に昼食にしようか。沢山用意してくれたんだろう?そうだ、クロード殿もどうだ?」


 大きめのバスケットを見たお父様はそう言うと、有無を言わさぬスピードでテーブルに三人分のお茶を準備し始めた。


「えっと……俺は……」


「いいから、いいから。昼食の時間だろう?ほら、座ってくれ」


 遠慮がちに口を開いたクロード様にお父様は向かいのソファを勧める。かなり強引だ。けど、クロード様も戸惑っているだけで嫌という訳ではなさそう?案外押しに弱いのかな?


 彼は少し思案したあと諦めたようにソファに腰かけた。


「メル。おすすめはどれ?」


 静かに座っていた私を見下ろしてお父様はニコニコとしている。


「そうですね、カツサンドは今ならまだ出来たてなので、先に食べるならこれですかね」


「おお、そうか。じゃあ……ほら、遠慮せず食べてくれ」


 クロード様にカツサンドを手渡したお父様は自分でもひとつ手に取って食べ始める。


「うん、相変わらず美味しいね。メルは料理上手だな」


「……作ったのか?」


 驚いたように私を見て呆然と呟かれた彼の言葉にあたふあたとしてしまう。


「ええっと、はい……と言っても趣味の範囲なので、不快でしたら食べなくても……」


 他人の手作り、ダメな人もいるもんね。

 えへへ、と力なく笑うと、クロード様は手に持っていたカツサンドを食べ「美味しい……」と小さく零した。


「良かった」


 褒めて貰えたことが嬉しくてほっと胸を撫で下ろす。

 安心したことで少しお腹がすいた。私も食べようと手を伸ばしてハッとする。


「メル?どうしたんだい?」


「あ……お父様、これ……」


 動きを止めた私を不思議そうに見たお父様を見上げて、ヴェールをどうしようかと考える。


「ここには3人しかいない。外していいよ」


 許可が出たことに少し驚く。けど、確かに警戒する人たちではないしいいのか。


 お腹も空いていた私はそっとヴェールを外した。

 はぁ、結構視界が悪くて鬱陶しかったのよね。良好になった視界を確かめるように顔を上げれば、赤いルビーのような目をぱちくりとしたクロード様がいた。


 じっと見られていることに気まづくて、エヘ、と笑って首を傾げると、じわじわと耳を赤く染めてフッと目を逸らした。


 え、なにそれ。照れてるの?可愛い。


 思わず目に焼きつけるように見てしまうと、お父様がわざとらしく咳払いをする。そうだわ、お父様もいるのよね。浮かれていたわ。


「んんっ!……メル、今日は何も無かったかい?」


 唐突な質問に首を傾げる。


「うん?大丈夫ですよ」


「といっても、メルは誘拐されることが多いから心配なんだよ」


 いや、確かにそういうこともあるんだけど、何もここで言わなくても良くない?ほら、クロード様も険しい顔して黙ってしまったわ。


「でも最近はヴェールのお陰で大丈夫ですよ?」


 実際顔を隠し始めてからはそういう事態は減っているし、出かけることも控えている。鬱陶しく思うこともあるけど、こればかりはしょうがない。


「でもヴェール無しで出かけたいだろう?」


 お父様の言葉に言い淀む。

 確かに。そう思うこともある。やっぱり薄いレースとはいえ邪魔なものは邪魔なのだ。


 口を噤んでしまった私に落ち込んだと思ったのか「ごめんね、メル」と謝られてしまう。


「護衛は?」


 静かに問いかけたクロード様にお父様が答える。


「え?ああ……それがね、メルに懸想して仕事にならないんだよ。逆に護衛が誘拐犯になってしまうからね」


 困ったようにお父様が言うと、クロード様は「そうですか」と気の毒だといった視線を向ける。

 そうなのよね。護衛だった人が私を担ぎ上げて連れていこうとした時はかなり焦ったわ。全力で叫んで暴れて、箒を持ったステラがすぐに助けてくれたけど。


 それから、納得はしないけど、自分の顔は危険なものだと頭では理解しているつもりだ。


 お父様とクロード様が考え込んでいるのを横目に、手に取ったたまごサンドをもそもそと食べていると、お父様が閃いたように「そうだ」と声を上げた。


「クロード殿!貴殿さえ良ければメルをエスコートして貰えないだろうか?」


「……っ!?ゴホッ、ゴホッ」


 急な提案に、何を言っているのだと驚いてたまごサンドが器官に詰まった。私が何も言えない間にも背中をトントンとしながらお父様は続ける。


「君は信用できる人だ。それにメルも君を慕っているようだ」


「お、お父様っ!」


 お父様にばらされて顔が赤くなるのが止められない。

 どうしよう!私の気持ち知られちゃった……!


 チラ、とクロード様を見ると驚いた様子で私をじっと見ている。信じられないというような疑うような視線。


 ここで否定したら、次告白した時に信じて貰えない気がする……。


 だからといって今告白する勇気なんてないよー!!


 オロオロと視線を彷徨わせていれば、クロード様は「俺で良ければ……」とご機嫌なお父様へ返事をした。


 お父様!ありがたいけど、恥ずかしいです……。

 交流前から想いが筒抜けなんて、私はここからどうしたらいいのか分かりません。

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