フレアのパーティ
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桜双樹
国営ギルドに所属する10代の若手冒険者だけで構成された5人の女子パーティ。某クラン(???)にも所属し、主に護衛や遠征討伐など貴族からの依頼を中心に受ける。メンバーの背景は多様で、レイド・クラウンとともに行動する機会が多い。リーダーはフレアで、彼女が不在のときはフィオナがリーダーを務める。
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「ごめん。フードファイターはフレアの方だったね」
レイドさんが得意げにそう呟いて視線を向けた瞬間、フレアは「違うし!」と艶めいた不機嫌さを滲ませながら、彼のお尻へビシッと軽く優美な蹴りを当てた。
彼女もまた、この妖艶な顔立ちに似合わず相当な大食いタイプのようだった。
◇◆◇
「こっちがチャチャちゃん。
それで、こっちがシャシャちゃん」
フレアの紹介の先には、あまりにも対照的な個性を放つ2人の少女が控えていた。
そのうちの1人は、木製のシンプルなアンティークチェアの上で窮屈そうに“下駄”を脱ぎ捨て、両膝を豊満………とはとても言えない控えめな胸元の山へと、ぐっと引き寄せてはすっぽりと丸くなっている。
「獣人………だ」
「───狐ですね」
シオンが小さく息を呑み、私の耳元へとそっと囁いた。獣人とは初めての接触だ。言葉を失うほどに心臓が跳ね、自分が今ドキドキしていることが口の中まで伝わった。
その少女の顔は、不可解にも奇妙な仮面によって完全に隠されていた。
まるで深く豊かな新緑の茶畑の底から零れ落ちた雫のように、鮮烈なライムグリーンの短髪が彼女の小さな頭部を飾っている。
「私の正体は──華ノ国の女侍なのです」
ふわりと漂う夜気に揺れるその瑞々しい髪色は、まるで甘い抹茶を練り込んだ艶やかな羽二重餅のように、肌の白さを引き立てる力強い存在感を放っていた。
その顔立ちは──むしろ隠されているという事実そのものが、彼女の秘められた美貌をより一層際立たせている。背は低く小柄で、華奢な印象ではあるのだがいっときでも油断すればその魅力に騙され、虜にされてしまうだろう。(※狐の獣人は人を騙すことで有名)
彼女の顔面を覆うのは、濡れたような艶を放つ黒漆に、鮮烈な萌黄色の隈取が施された、不気味でありながらどこか妖しい愛嬌を湛えた「狐」の仮面だ。
その無機質な仮面に絵がれた狐の瞳は、あらゆる光を吸い込むように深く、それでいて底知れぬ煌めきを宿した魔の物を思わせる。
小柄な狐の少女が、微かに身じろぎをしながらゆっくりと仮面を外した。
その頭頂部で、緑茶色の柔らかな獣の耳がぴこぴこと愛らしく、しかしどこか生々しく動く。
「っ……!」
その神がかった神秘的な気配に、私は思わず息を呑んだ。
仮面の下に隠されていたのは、赤い化粧の目尻に、長い陰影を落とす豊かな睫毛と、少し開いた紅い唇から微かに覗く濡れた白い歯、そして熱を帯びた小さな舌だった。
「驚きましたか? お客さん」
意外にもその声は少女のようにあどけないものに変わっており、どこか楽しげで、仮面を脱ぎ捨てた彼女の姿は愛らしい小動物のようだった。落ち着きなく瞬く野性的な瞳は、見る者の心をあっという間に鷲掴みにすることだろう。
その服装は、伝統とモダンが混ざり合ったライムグリーンの巫女装束をベースにしていた。
ふわりと波打つ白とグリーンの着物クロスには、重厚な金の留め具が眩しく光る帯がしっかりと締められ、小さな山のある胸元では茶筅のような繊細な房飾りが色っぽく揺れている。
「2人とも とても驚いてるみたいだよ」
「にしし」
すらりと伸びた健康的で白い太ももに、純白の足袋を合わせることで、抜群の動きやすさと上品さを完璧に両立させていた。
おまけに、ドレスの裾から覗く彼女の尾ていあたりには、ふさふさとした明るい緑茶色の尻尾が生えていて、それが感情のままに揺らめくたび、私たちの視線は完全に釘付けになってしまう。
そして、彼女の最大の個性とも言えるのが、その華奢な背中に背負われた二振りの大きな日本刀だ。美しい鞘には異国の呪文のような文字だけでなく、可愛らしい狐やお茶、さらに小さなお団子のぬいぐるみやキーホルダーがなぜか無造作にくくりつけられており、卓越した武芸の腕前と、親しみやすい彼女の性格との間の強烈なギャップを物語っていた。
「私は希少な狐の侍です。レベルも4に上がりました。一流の証です。どうぞよろしく」
「その自己紹介はちょっと盛りすぎね。ただのチャンバラ初心者な冒険者狐でしょ?」
「うーん。まぁいいんじゃない?
りょくちゃの好きにすれば」
フィオナさんとレイドの2人が苦笑いを浮かべる。
フレアさんはというと、その整った頬を困ったように軽くかいた。
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チャチャ
Lv.4《侍》
本名は狐緑茶々(チャチャ)。王都北部よりさらに北に出身地を持つ、華ノ国出身の狐の獣人。愛刀二本を掲げる不思議な雰囲気の冒険者で、パーティ内での最低身長であり圧倒的な不憫枠。趣味は甘味処めぐりと観光。苦手なものは幽霊とレイド。
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「りょくちゃの紹介が終わったところで、次は君の出番だよ」と言うように、レイドさんが最後のメンバーに無言の視線を向ける。
「………………ウチの紹介をさっさと終わらせて飯をよこせにゃ。お客さん待ってたらお腹すいたニャ」
もう1人の少女は、赤と白のコントラストが眩しい金縁の豪華なソファの上で、その艶めかしい身体を横たえて気怠げに寛いでいた。
「ウチは猫族。アホのチャチャも狐にゃけどウチの方が有能だから獣人の括りで一緒にはしないで欲しいにゃ」
「ア、アホって言わないでくださいッ!?
せっかく………かっこよく登場したのにッ!!」
「要件が終わったならにゃーはまた寝るにゃ」
圧倒的な自由人。気まぐれな猫の獣人は両膝を軽く折り曲げてソファの座面でゆったりと身体を沈めながら、片肘を背もたれにつきつつこちらを流し目で振り返る。
「自分で自分を猫って紹介するのは人生初の黒歴史にゃね?」と、レイドが彼女特有の気の抜けた口調を完璧に真似て揶揄う。
「おい、なんか言ったか? にゃ」
硬質な革のロングブーツを履いたまま、優雅に泳ぐように足をふり、身体をうつ伏せ怠けるアンニュイな体勢。そこからは、隠しきれない退屈そうな気怠さと、私たちの微細な動きさえも逃さず捉える野生の瞳の双方が爛々と覗いている。
鮮やかなマゼンタカラーのショートボブがぴょこんと跳ね、顔周りの柔らかな髪は耳の前で愛らしく三つ編みに結われている。
大きな猫耳をピンと立て、細い尻尾を背後に気だるげに揺らす。彼女の服装は、身体のラインに沿うグレーのルーズなキャミソールに、デニムショートパンツを合わせた、シンプルながらひどく刺激的でカジュアルな………部屋着姿だった。
ただ、その華奢で柔らかそうな身体は、背後から忍び寄ったフレアに力いっぱい捕まえられ、両腕を背中側へと固く回されている。
「んにゃぁ//」
「可愛い〜」
フレアにじゃれつかれて思わず細い眉を寄せ、ふっくらとした唇を尖らせた不機嫌かつ恥じらいの入り混じった表情は、まさに「いい加減にしてよ!」と言いたげな無防備な色気を放っていた。
お姉さん座りのような姿勢で覆いかぶさろうとするフレアに対し、身体を斜めに傾けて必死に抵抗するその姿は、猫ならではの底知れないしなやかさと、年頃の女の子らしい生々しい可愛らしさを完璧に同居させていた。
首元には引き締まった黒のチョーカーが巻きつけられ、お尻のあたりでは猫の尻尾が気怠そうにゆらゆらと揺れている。
「?───触りたいなら金をよこせニャ」
「……獣人さんも人間とあまり変わらないんですね」
とシオンが隠しきれない動揺を見せたので「そうね………」と私は慌てた仕草で相槌を打った。
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シャシャ
Lv.5《罠師》
本名はシャーク・シャーリー(シャシャは愛称)。出身不明の元旅する猫獣人で、パーティ最年少の14歳。特徴的な口調やマイペースな態度とは裏腹に、ソロでも行動可能な実力派の冒険者。苦手なものは水。
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「最後に。
この人が、あのフィオナ・フィオーネ」
先ほどレイドが「フィーフィー」と馴れ馴れしく呼んでいた、あの美しい女性が嫌そうに振り向く。
「“あの”って、いったい何のことかしら」
フィオナさんがレイドさんをジロッと睨むと、レイドさんは笑って糸目を紫髪の少女へと向ける。
「シオンに“10点負けてた人”だよ」
それがギルド学園における入学試験の点数の話なのだと気づき、私はわずかに息をのんだ。
シオンが興味を持って視線を向ける。
それを見て、私は鳥肌が立つのを感じた。
どうやったら入学試験で天才のシオンに追いつけるほどの点数が取れるのだろうか?
◆◇◆
フィオナ・フィオーネ
Lv.6《魔術師》
同じくギルド学園・A寮に所属する15歳の少女。美しい紫色のロングヘアと真っ白な肌が特徴で、王国貴族の間では有名な王国南部出身の平民。趣味はアパレルとビーチリゾート。苦手なものは魚。
◆◇◆
レイドが自らの白い首筋をふと指先で撫でる艶めかしい仕草に、私の視線は抗い難く引き寄せられてしまう。そんな熱な視線に気づいたのか、レイドは特に嫌そうな素振りも見せずに、涼やかな声で言葉を紡いだ。
「そして、このオレが───レイド・クラウン
オレのステータスが気になる?」
「あ、………ごめんなさい////」
すっかり呆然としていたところを不意に突かれ、私は慌てて顔を背け、視線を逸らすしかなかった。その視線の先では、いつの間にかこの妖しい空気に少しずつ馴染み始めたシオンが、冷静かつ知的な表情を保ちながら佇んでいた。
それを見計らったように、フレアが得意げな笑みを浮かべて言葉を継ぎ足す。
「私たちは、国営ギルド《聖海の女神》に所属する超一流の若手冒険者だよ! この4人が私の誇る自慢の女子パーティってわけ」
「略してフレパね」
レイドの軽いツッコミをよそにフレアさんが朗らかに笑うと、シオンがふと小さな疑問を口にした。
「通常、冒険者パーティは6人以上で組むものではなかったのですか?」と。
フレアのパーティメンバーが純粋に1人足りないことに気づき、私はわずかに首を傾げた。
「私たち、いっつもレイドくんと一緒に行動することが多いし……実質6人?」
フレアがどこか誇らしげに答えると、フィオナさんが「まぁ、どう考えても“過剰戦力”だしね」と淡々とそれに同調した。
◇◆◇
その時、「お2人は……?」という、この和やかな空気に少しだけ冷たい水を差すような声とともに、突如として全員の強い好奇心を帯びた視線が、私とシオンへと一斉に集まった。
「ご、ごめんなさい、何も知らなくて………………」
チャチャが気まずそうに小さく身体を縮こまらせる。これほどまでに圧倒的な美貌を誇る美少女たちから一斉に無言で見つめられるのは、たとえ同性であっても尋常ならざる精神的プレッシャーがあるはずで、それは想像に難くなかった。
レイドが場の空気を整えるように、低く落ち着いた声を響かせる。
「みんなにも、改めて正式に紹介するよ。この国の最上級貴族の………御令嬢のお二人だ」
「よ、よろしくお願いしますっ!?」
私は思わず、王族らしからぬひどく慌てた挨拶を情けなく漏らしてしまう。
「ミリア──“レオンハルト”です。
身分を隠して生活しているので、本当の自己紹介はこれが初めてですけれど…………実は、第三王女です。どうぞよろしくお願いいたします」
自分でも呆れるほど恥ずかしい下級貴族じみた挨拶になってしまったが、いま最も大切なのは彼女たちとの心理的距離を少しでも縮め、この背徳的な輪にしっかりと溶け込むことだ。
「へ?」
「………嘘だ」
室内から、何重もの驚愕の声が重なり合うように漏れ出た。
「はぁ……事前に何も言わなかったのね」
「最初から知ってたなら早く言えっての、にゃ」
本当に何も知らされていなかったのは、あの狐の耳を持つ少女と、きょとんとしたエルフの少女のほうだったが、パーティの他のメンバーは全員死んだような絶望的な顔になり、唇を痛いほど噛み締めたり、美しい眉間に深い皺を寄せたりしながら、レイドやフレアのほうをじっと鋭く睨みつけた。
「そんなに畏まらなくていいですよ」と私は無力に笑うが、泥臭い荒事をくぐり抜けてきた冒険者たちと、私たち王族とでは住む世界が違いすぎる。
そんな気詰まりな沈黙を恐れて私が身構えていると、シオンは微塵も動じない淀みない口調で挨拶を述べた。
「私はシオン・ラインハルトです。
職業は、一応錬金術師です。
私とミリアさんは、
皆さんとちょっとした“友達”になりたいんです」
「うちに専属の錬金術師なんていないよねぇ」
「じゃあ、友達になって頂けますか?」
フレアさんが珍しげに頬に手を当て、あからさまに話を別の方向へと逸らそうとするのを、シオンが追撃する。
「まぁまぁ、堅いことは抜きにしよう。
お互いにちょっとしたサプライズといった感じだよ」
「冒険者の方のコミュニティからすると、私たちとの交流はかなり希少なことですよね?」
レイドが軽く手を叩いてその場を仕切ると、シオンは心底嬉しそうに、そして純粋な光を瞳に宿しながらそう答えたのだった。




