21.ピンクブロンド騒動その3
更新遅れました。
王立学園の卒業ダンスパーティ。
国王陛下、王妃陛下直々に開始の挨拶や、卒業生への労いや期待の言葉をかけ、卒業生は各々の未来に向かって羽ばたいていく学生生活の中で最も重要なイベント。
しかも今年は、王太子であるニコラス殿下や、その婚約者マリアンヌ公爵令嬢が卒業生となるので、その華々しい舞台を見ようと在校生はこぞって参加する予定らしい(勿論パートナー同伴必須)。
「「お嬢様、素晴らしいです。お似合いです。」」
「あ、ありがとう。」
例によってメイド達に磨き上げられ、支度が終わる頃にはぐったりしてしまった。
今日、身に纏うドレスは、胸元で切り返すエンパイアラインにバルーンスカートが特徴的な、淡い黄色を基調とした可憐で可愛い印象のものだ。
この間、お母様とメイド達に選んでもらって、とても似合うと太鼓判を押してもらったのだ。装飾も控えめで、所々に刺繍をあしらって、胸元をレースで覆うシンプルなデザイン。
髪の毛も結い上げてもらって、ドレスと同色のかんざしをつけてもらった。
実はデザインに疎い私でも、一目見て気に入ったシンプルで可愛いドレス。こんなのが着こなせるなんて、異世界転生も悪くないな。
大広間に向かうと、お父様とお母様、あと遊びに来ていた前子爵夫妻が、口々に褒めてくれた。
「ソフィもこんなに立派な淑女になって。」
「えぇ、感慨深いですわ。」
あのー、お祖父様、お祖母様。今日は別に私の卒業式ってわけじゃないんですよ?ただの参列者ですからね?
「マークス、どう?」
「え。えっと、とっても似合ってる。」
「なんでそんなに、つっかえてるのよ。」
「いや、何かいつもと雰囲気が違いすぎて驚いてる。女の人って凄いな。」
「マークス、それって褒めてる?」
「え、勿論だよ。ほら、行こう。」
「うん。」
◇
「今宵、学園を巣立つ学生へ、心からのお祝いを。我が国の発展の為に、その能力を発揮してくれることを期待している。」
国王陛下のお言葉で、卒業パーティが始まった。
今日のドレスは胸の下で切り返しているから、ちょっと食べ過ぎてもお腹が苦しくならないかな。
いそいそと、立食パーティを楽しんでいると、卒業生が何人か、国王陛下に挨拶しに行っているのが見えた。
「将来有望な卒業生は、陛下に呼ばれて挨拶に行くんだ。もちろん、失礼にならない範囲で、自分から売り込みに行く人もいるけどね。」
ぼんやり眺めていたら、マークスが説明してくれた。
「そうなんだ。それにしても、華やかなパーティだけど、警備の数も物凄いね。王族の方が勢揃いしているから、当然だろうけど。」
「そうだね。国王陛下に王妃陛下、ニコラス殿下にフィリップ殿下がそろうと、壮観だよね。」
「ソフィアさん、ごきげんよう」
「この鴨肉のロースト絶品ですね。ソフィアさんも一口食べます?」
「リリーさん、こんばんわ。レイラさん、ありがとうございます。いただきます。」
リリーさんとクリストファー様、レイラさんと婚約者様(名前は知らない)も合流して、楽しくおしゃべりとご馳走を楽しんでいたら、ニコラス殿下とマリアンヌ様のファーストダンスが始まった。
「相変わらず、お綺麗よね、マリアンヌ様。」
「もう、神秘的だよね。あの美しさ。ニコラス殿下とも仲睦まじくて、王国の未来は明るいわね。」
「ここで、来場の皆に、報告したいことがある。この度、王立学園を卒業する王太子ニコラスと、婚約者であるマリアンヌ嬢だが、王太子教育と王太子妃教育もつつがなく完了し、好成績を修めてくれた。予定通り、来年の春に2人の結婚式を執り行うことを、ここに宣言する。」
ニコラス殿下とマリアンヌ様のファーストダンスが終わったタイミングで、国王陛下が声を張り上げて、お二方の結婚式の日取りを発表した。
「わぁっ、ついに結婚ですね、あのお二人。」
「ニコラス殿下も、待ちきれないでしょうね。」
「それにしても、好成績で修了だなんて、さすがですわ。」
会場のあちこちから、お祝いの言葉と拍手が巻き起こった。
この仲睦まじく美しい、未来の国王夫妻は貴族の間で人気が高いのだ。もちろん、国民人気も。
「ニコラス殿下。今日こそ、私とダンスを踊ってください。」
「アン嬢、申し訳ないが私は」
広間でダンスパーティが始まって、それぞれがダンスを楽しんでいた時、お騒がせ娘がニコラス殿下にアタックしに行った。
しかも、声が大きい。皆ダンスをしながら、食事や歓談を楽しみながら横目でチラチラ見ている。
「マリアンヌ様としか踊らないって仰るんでしょ?いくらマリアンヌ様が婚約者だからって、王族の方が社交を怠るのは良くないと思います。」
わぁー。アンさん、広間中の人が見てるよ。国王陛下も王妃陛下もいるのに…。
「社交が必要な場では、私も他の女性と踊ることはあるよ。でも、その必要か必要じゃないかは、私か国王が決めることだ。アン嬢ではない。」
丁寧に、でも冷たく言い返すニコラス殿下。
「そうかもしれないですけど、私、一度も殿下と踊ったことないんです。ニコラス殿下は私のこと、愛おしく思ってくれてるって言ったじゃないですか!だから、私はマリアンヌ様に愛妾としてお側に上がりたいって何度も言ったのに、無視されたり意地悪言われたりして…。目を覚まして、私のことをもっとちゃんと見て、正直にお心を向けてください!」
目にいっぱい涙を溜めたアンさんが、手を組んで一生懸命懇願するその姿は、ちょっと守ってあげたくなる気持ちになる。もちろん、言動やその他が問題で、ほとんどの人はそんな気分にならないだろうけど。
「ニコラス殿下。恐れながら、アン嬢にお心を砕いてやってくださいませんか?彼女、必死に努力してお側に上がる努力をしているんですよ。」
そんなアンさんの肩を持ちながら、アンさんの取り巻きの1人で、今日の彼女のパートナーである男子学生が擁護にまわる。
「私は、マリアンヌ以外の女性を愛おしく思ったことがないが、どうしてそういう考え方になるんだ?」
「だって、以前中庭で、『アンが愛おしい』って言ってたから…、だから、私。それにマリアンヌ様が本当は意地悪な人なんだから。愛妾になりたいって言ったら『他の結婚相手を見つけろ』なんて言うんですよ。お前なんか、殿下のお側に侍れないっていう意味なんじゃないですか?」
「その『アン』とは君のことではなくて、マリアンヌのことだが?私のことだけでなく、愛しのアンのことまで君の妄想の世界の住人に仕立て上げないで欲しいんだが。」
「え…。嘘…。」
「殿下、マリアンヌ様の愛称は、『マリー』ではないのですか?」
茫然とするアンさんと、パートナーさん(名前は知らない)。
「あぁ、彼女の家族や国王夫妻はそう呼んでいるが。私だけの特別な呼称で、愛しい婚約者殿を呼んでいるんだよ。」
「私は、アンさんに意地悪をした覚えはありませんが。殿下が愛妾を迎えるのであれば、良い関係を築けるように努力を惜しまないつもりですわ。この国で王族の相性になるためには、『夫人』という称号が必要なんですの。なので、まずは別の殿方と結婚してから、殿下のお側に上がることになるんですよ。そう、アドバイスしていたつもりなんですが」
「まぁ、私はアン以外の女性は必要ないがな。」
「嘘…嘘よ。そんなの…。」
「アン嬢?だから僕に近づいてきたんじゃないのかい?僕はアン嬢と良い関係を築けると思うし、しばらく結婚生活を楽しんだらニコラス殿下にきちんと送り出すから、心配しないで。そのかわり、父上や兄上の役職や報奨金はお願いしてもらいたいけどなぁ。」
「そんなつもりは…!そんなの嘘よ!!」
なるほど、彼はアン嬢を娶ってニコラス殿下に愛妾として差し出すことで、一族の出世と報償金を貰うのが狙いだったのか。
「でも、私は商売を、家の事業を手伝っているんです。成果を出そうと、一生懸命頑張ってるんです!少しは私の努力を認めて、私を気にかけてください。」
「家の事業をうを手伝っている令嬢も、一生懸命頑張っている令嬢も、この国にはたくさんいる。とても、有り難いと思っている。王侯貴族が国のために尽くすのは、高貴な地位産まれた義務であるが、それでも各々が努力するということはとても難しいことだということも理解しているつもりだ。そんな貴族が多いことに感謝するとともに、誇りに思うよ。」
こんな場合だけど、ニコラス殿下のお言葉にじーんとしてしまう。他にも胸を打たれて「じーん」状態の学生もちらほらいる。
「そんな…っ。ソフィアさん、ソフィアさんも手伝ってください。私の恋を応援してくれるって言っていましたよね!?」
うわー、すんごい流れ弾来たよ。
やめてください、本当に。
「いえ、私は恋を応援すると言ったことはございません。恋愛感情を持ってしまうことは仕方が無いにしても、言動に気をつけて上手くその心と付き合わないといけないと忠告いたしました。」
ニコラス殿下に目で発言を促されたので、全力で弁明。本当のことだし。
「ニコラス殿下、恐れながら進言させていただきます。ソフィがそのような行動に出ることはありません。フレデリクソン子爵家総意で保証いたします。」
「ニコラス殿下、私からも。ソフィアさんはアンさんの恋心を相談された時に、『自分は応援できない』『上手く気持ちと向き合って、貴族令嬢としてふさわしい行動をするべき』と助言しておりました。アンダーソン伯爵令嬢として、証人にならせて頂きます。」
マークスとリリーさんが援護してくれる。2人とも、ありがとう。
「うむ。私もソフィア嬢の人となりは、少し把握しているつもりだ。」
「えぇ、わたくしも。ソフィアさんがそのような発言をするとは思えないです。」
ニコラス殿下とマリアンヌ様も信じてくれた。まぁ、信じてくれないとは思っていなかったけど、本当に良かった。
「って、あれ?」
場にそぐわない、アンさんのパートナーさんが間抜けな声を出した。
なんだこんな時に。
「え?あれ?」
「お?」
「あら?」
アンさん達の方に目を向けたら、私たちもそれぞれ間抜けな声を出してしまった。
流石にニコラス殿下とマリアンヌ様は表情も変えずに声も出さなかったけど。
アンさんが忽然と、パーティ会場から姿を消していた。
アンさんのサイレント離脱能力って、ある意味才能だよなぁ。
セルフ断罪パーティ、からのサイレント離脱。
次回からはアン母目線が少し続きます。




