20 ピンクブロンド騒動その2
更新が遅れがちですみません。
お待たせいたしました。
お茶会の話は別の話で詳細を書くので省きました(2021.6.19)
「その商人については詳しく分かっていないんですの。そもそも、一貴族の商業について、そこまで私たちが介入できるわけでも無いですし。ただ、経済の混乱や商業ギルドでの反乱が大きくなると厄介なので、取り敢えずは情報を絶やさないようにしておりますが。」
「アン嬢への監視と警戒が無ければ、王族が直々にそこまで気にすることではないしな。他でも同じ商売をされては困るから、警戒は続けようと思ってな。もちろん、国王にも報告済みだ。フラワートン男爵が宮廷に出仕する日に、それとなく話を聞き出せれば良いんだが。」
あ、フラワートン男爵家もフルタイム宮廷人では無いんだ。子爵家と同じだ。
「ニコラス殿下、質問を良いですか?」
「構わないよ。何だい、マークス殿」
「そもそも、アン嬢はニコラス殿下の愛妾になるための成果を上げるために、その商売とやらをしているって吹聴しているんですが。殿下から直々にその気は無いことを伝えるか、愛妾になるための努力の方向性が間違っていることを伝えたら、足を洗うのでは?」
そう、愛妾になるために必要なのは『何か成果をあげること』では無い。
基本的にグリュックス王国では -というか近隣諸国も大体同じだが- 一夫一婦制だ。王侯貴族の場合は愛妾を持つことも珍しく無いが、基本的に愛妾の産んだ子どもに相続権や王位継承権は発生しない。たとえ、認知されていたとしても。
そもそも、政略結婚とは家同士の結びつきを強くするための契約だ。正妻以外が産んだ子どもに相続権を認めてしまうと、政略結婚の意味がなくなる。
だから、アンさんも「フラワートン男爵令嬢」ではあるが、婿をとってその婿に後を継がせることはできない。お義兄様がいらっしゃるようだから問題はないだろうけど。
それに、王族が愛妾を持つ場合、貴族と結婚して「夫人」の称号を手に入れる必要がある。一国の王が独身の淑女に手を出すことは罪とされているからだ。なので、歴代の国王の愛妾は、まず適当な貴族と結婚してしばらくしてから宮廷に侍ることになる。
…その『適当な貴族』となる夫は完全に空気になるが、王から褒美を貰えるし、良い役職を与えられるのでメリットがないわけでは無い。しばらくの間は夫婦生活を送れるわけだし。
なので、アンさんが本気でニコラス殿下の愛妾になりたい場合は、娶ってくれる貴族令息を探して結婚し、愛妾になるための根回しをする必要がある。
のだが、
「勿論、言っているとも。私はマリアンヌ一筋で愛妾を迎える気は無いと。愛妾になる方法は、必要がないから伝えていない。下手に言って期待を持たせるのも何だしな。そもそも、貴族なら一般常識だろう?淑女コースでも教えられているんじゃないのか?」
確かに、この国や王侯貴族の歴史を習うときに、教わったな。前世の感覚からしたら、凄い制度だとは思ったけど。まぁ、価値観も文化も違うんだから、いいんだけどさ。
「ただ、アン嬢に何を言っても『照れ隠し』だの『本当は私のことを想っている』と頑に思い込んでいてな。いくら言っても聞く耳を持たない。あまり接触して、これ以上勘違いさせたくないから、最近は距離をとってフィリップに動向調査を頼んでいる。」
「私のところにも、『愛妾になってマリアンヌ様と共に殿下を支えたい』と事あるごとに言ってきますわ。殿下が愛妾を迎えるのであれば、その方と良い関係を築けるように努めますが。何の根回しもなく宣言されても。事あるごとに説明をしているんですけど、彼女の中で『嫉妬して無視している』という事になっているらしいんですの。」
アンさん、マリアンヌ様に宣戦布告(?)するなんて、流石というか何というか。
「マリアンヌ、いつも言っているし伝わっていると思うが、私はアン一筋だよ。愛妾を持つつもりもない。私はアンだけを愛しているし、これから側にいて欲しいのは君だけだ。」
「えぇ、伝わっておりますわ。殿下。」
「でも、何とかしないと経済の混乱が広がりかねないですね。そんな商売を続けられると、本当に必要な商品や人材が必要なところに回らなくなる。それに、利益が出ないなら早めに切り上げないと、どんどん深みにハマって抜け出せなくなりますよね。」
「そうだよね。利益を出せるところに課金するなら良いんだけど。それに、借金してしまうとさらに深みにハマりそうだし。」
ラブラブモードに入りかけたマリアンヌ様とニコラス殿下にめげずに意見するマークスと私。
現子爵家夫妻で慣れてるもんね、私たち。ラブラブモードのやり過ごし方。
「あぁ、今のところフィリップが借金に手を出さないように上手いこと言いくるめてくれているが。」
「あと、アンさんは何故かソフィアさんに対抗意識を燃やしているみたいでして。大丈夫だとは思いますが、巻き込まれないように気をつけてくださいませ。」
「わかりました。情報とアドバイス、ありがとうございます。」
「それと、こっちが本題なんだが。ジャガイモ栽培が軌道に乗ったらで良いから、他領にも栽培方法を教えて、種芋も少し流通に乗せて貰えないだろうか?もちろん、フレデリクソン子爵家には開発に時間とコストがかかっているから、金銭保証や売り上げの一部を子爵家に還元するように取り計らいたい。」
おぉ、なんか話が大きくなっている。
「遅れながら殿下。まだジャガイモは本格栽培を始めたばかりで、栽培方法が確立するのも、子爵領全体に栽培を行き渡らせるのにも時間がかかります。もちろん、ありがたい提案ではありますが、申し出を受けるには現子爵に相談する必要がありますし、もう少し先、早くても来年以降になるかと思います。」
「あぁ、マークス殿の言う通りだ。もちろん、今すぐどうこうという話ではない。長期スパンで考えておいて欲しい。」
「食糧備蓄の向上は、グリュックス王国では最重要と言っても良い課題ですからね。諸外国に比べて環境が厳しすぎますもの。色んな貴族、例えばソフィアさん達のフレデリクソン子爵家や、ニールセン伯爵家、アンダーソン伯爵家が取り組んでくれていて、国として注目しているんですのよ。」
アンダーソン伯爵家はリリーさんの実家だな。確か、交易で色んな食品を仕入れて、グリュックス王国で普及させられるか取り組んでいるって言ってたっけ。
ニールセン伯爵家はレイラさんの婚約者の家名だったかな。
「ニールセン伯爵家は、麦の品種改良を積極的に取り組んでますよね。」
「え、マークス知ってるの?」
「うん。クラスメートだから。よく領地経営の話をしてるんだ。」
「えぇ、国としては色々取り組んでくださっている家に声をかけさせて頂いているんです。もちろん、金銭や権利の保障はお約束します。」
「あぁ、王家だけでは出来ることが限られているからな。せっかく疫病を乗り切ったんだ。王侯貴族全体で、協力しながら我が国が発展できると良い。」
ニコラス殿下って、本当に臣下を使うのが上手いよな。こんなこと言われたら、悪い気がしないじゃない。
「そうですね。僕も、貴族の家を継ぐものとして、領のためだけじゃなく、国のためにも尽力したいと思います。義父上に相談してみます。殿下方も、もうしばらく軌道に乗るまでお待ちいただけると幸いです。」
「勿論だとも。期待しているよ。」
「「ありがとうございます。」」
◇
「はぁ、なんか話が大きくなっててビックリしちゃった。」
帰りの馬車の中、緊張をほぐすために体のあちこちを伸ばしながら呟く。
「そうだね。でも、期待されているってことだし。色んな貴族たちが食糧事業に取り組んでいるんだ。僕たちも、出来ることをやるしかないよ。」
「うん。そうだね。一緒に頑張ろうね、マークス。」
「勿論。そういえば、卒業パーティ終わったら我が家でお茶会するんだろ?令嬢たちの集いだから僕は参加できないし、給仕するわけには行かないけど、準備は手伝えるから、何かあれば言ってね。」
「うんっ。とっても助かる。ありがとう、マークス。」
本当にマークスは有能だな。感謝の気持ちを込めて笑顔で応えると、マークスが固まってしまった。
「どうしたの。マークス、大丈夫?」
「…本当、ソフィってたまに。」
何やらぶつぶつ言っているが聞き取れない。どうしたのマークス。
いつもなら体を揺さぶってたんだけど、今日は何故か、なんとなく出来なかった。
なんでか、マークスに触れようとしたら緊張してしまったのだ。どうしたんだ、私。
どうしたもこうしたもない。多分、私は私の気持ちに気づき始めている。
だけど今はそっとその気持ちに蓋をして、いつも通りを心がけて家路についた。
◇
「ソフィ、タンポポの収穫に行くでしょう?ついでに衣装店に行って、卒業パーティ用のドレスを新調しましょう。」
「え、新調ですか?」
休前日のまったり寛ぎタイムに、お母様がウキウキと提案してきた。
「ええ、今回のコーヒーの発案者で、ジャガイモ事業も頑張ってるソフィへのご褒美よ。勿論、旦那様も同じ意見。いつも頑張ってるわね、ソフィ。誇らしいわ。」
お母様、ちゃんと見ててくれるんだ。
なんだろう、胸がじーんとする。
ドレス新調なんて、普段はあまり興味ないしリメイクすれば良いと思っていたけど。ご褒美って言われると少し、心が躍る。
本当に久しぶりだなぁ。ドレス新調。
「ありがとうございます、お母様。じゃぁ、お言葉に甘えて宜しいでしょうか。」
「勿論よ。」
ぱぱんっ。
ん?なんだ今の。
何でいきなり手を打つんだお母様。
「「「「お呼びでしょうか、奥様」」」」
え、なんでメイドたちが統率の取れた動きで集合しているの?
「明日、ソフィとドレスを新調しに行くんだけど、今持っているものと私の娘時代のとデザインが被らないようにしたいのよ。今後もリメイクしたりで使うだろうから。あなたたち、今あるドレスのリストを作って貰えないかしら。あと、明日は2人ほどついて来て頂戴。選ぶのを手伝って欲しいわ。」
「「「「お任せ下さい。それでは。」」」」
また訓練された動きで去って行くメイドたち。
えーっと、何がどうなっているんだ?
「あの、お母様、今のは?」
「うん?実はね、お母様もメイドちゃんたちも、ソフィを飾り立てたくて仕方がないのよ。あなた、いつも勉強や農業に掛かりきりで、なかなかその機会がないじゃない?卒業パーティが絶好の機会ですからね。皆、張り切っているのよ。」
「そう、ですか。」
まぁ、普段は学校の制服か室内用の簡素なドレス、もしくは農作業用の服ばっかりだしな。
「メイド長。奥様の娘時代のドレス、持ってきました。」
「こっちはソフィア様の今持っているドレスです。」
「ありがとう2人とも。うん、質が良いものばっかりだけど、数があまり多くないのよね。奥様もソフィア様も、基本的にその辺の欲求が少ないから。明日までに、リスト化と大まかな方針を立てるわよ。」
「シャルロッテを呼んで、マークス様の最近の動向と好みを聞き出しましょう。」
「「はい」」
「シャルロッテ、参上しました。」
「おっけーシャルロッテ。マークス様の好みってどの辺だと思う?」
その日は夜更まで、ソフィアのドレス選びに情熱を燃やすメイドたちの集いが続いたのだった。
おおっと、ソフィのようすが…?
ソフィは前世のアラサー女子の気持ちが結構残ってるから、気づかないフリも難しいのかしら。
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