13. 噂話
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先の見えない情勢の中、少しでも皆さんを楽しませることができれば光栄です。
5月1日、内容を微修正しました。
グリュックス王国の冬は寒くて、暗くて、雨が多い。
北方に位置するせいで冬の間は太陽がなかなか登らず、学園に登校する時間にようやく明るくなり始め、お昼が過ぎてしばらくすると夕暮れになる。
天気も基本曇りか雨で、晴れの日なんて2週間にいっぺん有ればいい方だ。
基本的に、冬至祭以降は2ヶ月ほど社交はオフシーズン。学園も休みになるので(課題は大量に出るけど)、みんな領地に戻ったり、王都でそのまま過ごしたりと、思い思いに冬を乗り切る。子爵家は基本的に半分は領地に戻って過ごすかな。
ていうか、この時期学園があっても暗すぎて学業なんてやってられない。太陽って、健康的な生活に欠かせない必須アイテムだったんですね。知らなかったよ。
寒くて暗い冬の間、冬至祭のダンスパーティや新年のお祝いなど一通り娯楽イベントも過ぎてしまうと、ちょっと鬱屈した気分になってくる。
間食をとって気分をあげることが多くなり、カロリー摂取量も比例して多くなる。しかも、寒くて雨が多いために地面もぬかるんでいるし、なかなか外で体を動かさなくなる。
…何が言いたいかと言うと、体のラインが少しふっくらしてくる。毎年のこととはいえ、由々しき事態なのだ。
と、言うわけで、長い冬休みを終えて危機感を募らせたリリーさんと一緒に、有志の学生(令嬢限定!)と放課後体操教室を始めた。
打倒ふっくらボディ。せめて、ふっくらしちゃうにしても、体のラインをキレイに保たないと。
そのためには体を動かして脂肪を燃やして筋肉をつけ、ストレッチをしてむくみを撃退せねばっ。
「ソフィアさん。明日は昼で授業が終わるので、体操教室の後はサウナに入りません?」
「サウナ?サウナがあるんですか?」
リリーさん何ですかっ、その聞き捨てならない素敵な情報。
驚くことにこの学園、令嬢専用の体育館のみならず、サウナまで併設されているらしい。体育館はダンスの練習で使ったりするから分からなくもないけど、何故にサウナまで?
リリーさん曰く、過去の学生がプロジェクト立ち上げから建設(流石に業者を呼んだらしい)まで、長い年月をかけて完成させたらしい。
ありがとう、そしてグッジョブです先輩方。あなた方の英断とその実行力に敬意を示しますっ。シャワールームを設置するよりも、サウナとシャワールームがセットで併設されている方が良いですもんねっ!
「ほら、サウナってリフレッシュして汗を流せるだけじゃなくて、美容効果やダイエット効果があるでしょう?」
「なるほど。美容は大切ですもんね。プロジェクトが実行されるのも納得です。」
「じゃぁ、明日は体操した後にサウナに入れるように告知してきますね。ソフィアさんは先生方にサウナ使用許可と使い方を聞いておいてもらっていいですか?」
「任せておいてください。」
ビシッと(心の中で)敬礼して、先生を探すミッションを開始した。
サウナはグリュックス王国で、一般的に親しまれている。というか治水技術がそこまで発達していないから、浴槽よりはサウナのほうが設備や資源的に設置が容易なのだ。実際に王国内に公共浴場はいくつかあるが、公共サウナの方が数は圧倒的に多い。
さすがに子爵家の屋敷にサウナはついてないから、入る時は1番近い街の共同サウナに行くんだけど。高位貴族の家にはプライベートサウナがあるらしい。簡易浴槽なら子爵家にもあるけどね。
その後、無事にサウナ使用許可をもぎ取り、使い方も聞けたので、明日はランチ後に体操してサウナ女子会だ。ワクワクするなぁ。
「ソフィ、明日学校のサウナに入るんでしょう?試作品の精油を持って行って、宣伝してきてくれない?」
「え?使ってもいいんですか?お母様。」
「えぇ、精油の販路が定まってきたんだけど、貴族顧客の販路を広げたかったから、ちょうど良かったわ。」
そう、高位貴族向けの高級品思考なハーブ製品や、平民が自分たちで自作するハーブ製品は広く普及しているので、子爵家のハーブティーと精油は、その間の客層にむけて市場開拓したのだ。お父様とお母様が事業を始めた当時、そこの客層向けの製品が手薄なことに狙いを定めたらしい。今ではちょっと裕福な平民からそこそこの爵位の貴族まで販路が開拓出来つつあるらしい。
お母様のこの商売に関する反射神経、すごいな。家族団欒の時間で『明日学校のサウナに入ってくる。』って言っただけでここまで判断するなんて。
ちなみに高位貴族の令嬢は明日の午後特別授業をとったり、家にサウナがあったりするので明日のサウナ会には来ない。
「ソフィ、お父様からも宣伝頼むよ。明日はゆっくりサウナでリフレッシュして、ちゃっかり宣伝してきておくれ」
「わかりました、お父様、お母様。ありがとうございます。」
「マリア、私たちもしばらくサウナに行っていないし、近いうちに一緒に行かないか?」
「あら、素敵。いいわねぇ。」
「プライベートサウナを予約して、一緒に入ろう。」
「うふふ、楽しみだわ。ソフィとマークスはお留守番ね。」
「…分かっていますよ。」
…ちなみにサウナはタオルを体に巻いて入るか、下着で入るのだ。つまり男女で一緒にサウナに入るっていうのは、一緒にお風呂に入る的な意味なのだ。小さいうちはマークスと両親と一緒に入っていたけど、流石にもう家族ができる年頃ではないしね。
久しぶりに両親のラブラブモードを見てしまった。
さっさと精油を受け取って、部屋に引っ込もう。
マークスの方に目をやると、いつもなら『やれやれ、全くだぜ』って目配せしてくるのに、なんか黙り込んでる。どうしたんだろう。
◇
「はぁ、サウナは久しぶりです。」
「皆で入ると楽しいですねっ。」
「たくさん汗をかいて、お肌をキレイにして、脂肪も燃やさないと!」
「この時期は気を抜くと、ストレスで吹き出物が出てしまいますからねぇ。今日はこのにっくきニキビにトドメをさしたいです!」
というわけで、放課後(と言っても昼過ぎだけど)に小1時間ヨガやストレッチ、軽い運動を終えて、友人達とでサウナを満喫している。
時代と文化が違っても、女子が集まるとキャッキャうふふな恋話や噂話、美容の話になるみたい。
「蒸気だしていいですかー?」
「「「あ、ソフィアさんありがとうございます。お願いしまーす。」」」
「任せてください。今日は特別にハーブの精油を持ってきたんですよ。」
美肌トークになったので、チャンスとばかりに水の入った桶に美肌とリラックス効果のある精油を垂らし、焼き石にかけて蒸気を出す。
そしてタオルをバッサバッサ振って、蒸気をサウナ内に満遍なく行き渡らせる。
「この精油はリラックス効果だけじゃなく、美肌効果がありますからね。蒸気にして浴びたり、毎日顔や髪に薄ーく伸ばすと効果が出るんですって。」
「えっ、そうなんですか。ニキビにも効きますかね。」
「肌質にもよりますので、良ければ試作品を使ってみますか?」
「いいんですか?ソフィアさん。」
ウィリアム伯爵家のレイラさんが、結構食いついてくれた。最近ストレス過多で、肌荒れに悩んでいるらしいのだ。
「あ、これスッキリして良い匂いですね。」
「はぁー、癒されます。」
リリーさん達は目を瞑って、精油の香りを楽しんでくれている。
宣伝をしながらきゃっきゃお喋りを楽しんでいると、やっぱりというかなんと言うか、話題はお騒がせ娘であるアンさんの噂話になった。
「アンさんの最近の噂、聞きました?」
え、アンさんまた何かしたの?
「最近マリアンヌ様に、一緒にニコラス殿下の側に仕えたいって纏わりついているみたいなんですよ。」
「えっ。愛妾になりたいってことですか?」
「そうみたいです。マリアンヌ様は笑顔でそつなく対応してあしらってらっしゃるみたいですけど。」
「あら、一応王妃になれないことは理解されているんですね、あの方も。」
リリーさんは相変わらず毒舌だなぁ。まぁ、完全に同意だけど、
「なんであの2人に割り込めるって思えるのかが不思議ですよね。ていうか、ニコラス殿下をロックオンしつつ、フィリップ殿下や他の貴族令息を侍らせていますよね。」
「でも、アンさんって本気でニコラス殿下が好きっていうよりかは、『王子様みたいに素敵な人と恋をして結ばれる』っていう自分の理想をニコラス殿下に重ねてるだけな気がするんですけどね。」
確かにアンさんがニコラス殿下の話をするとき、ニコラス殿下にというよりは『自分の理想の恋』に恋をしている感じなんだよなぁ。
「まぁ、王子様みたいな人っていうか、リアル王子様ですけどねニコラス殿下。」
「貴族令息を侍らせているのも、ちやほやされているのがお姫様扱いって思っているみたいです。」
「あのめげないメンタルは羨ましいんですけど、何であそこまで自信満々に殿下にアプローチできるかは謎ですね。」
「そういえば、私の婚約者がアンさんに商売の勧誘を受けたらしいんですの。」
「あ、レイラさん。マークスも勧誘されたって言ってました。丁重にお断りしたみたいですけど。」
「私の兄も勧誘されたみたいなんですよね。ていうか、その商売って何なんですかね。勧誘って、どういうことですの?」
リリーさんの疑問はもっともで、私もダンスパーティの時から微妙に引っかかっていた。“商売の勧誘”ってなんなんだろう。
一般的に商売の勧誘って、ビジネスパートナーを探すか、市場参入に融通を利かすとかだと思うんだけど。
これだけ手当たり次第学園で、学生を勧誘をするって言うのは一体何なんだ。何をしようとしているのだ、あの娘は。
「そういえば、『絶対に儲かる自信がある』って言ってました。いつもの超ポジティブ思考からくる発想かと思ったんですけど。」
「それがですね、ソフィアさん。私の婚約者も丁重にお断りしたみたいなんですけど、商売の内容を詳しく聞いたらしくて。」
あ、レイラさん詳しい話聞いたんだ。気になる。
「フラワートン領地の歌劇場や商業施設に有志で資金援助をして、その見返りに利益の一部をもらうんだそうです。」
なにそれ。株式会社的なシステムってこと?斬新なことをするなぁ。
「レイラさん、それってどういう…?」
「えっとですね、リリーさん。例えば歌劇場や商業施設って、宣伝に人員やコストをかけて集客して、利益が出ればより良い出し物や製品を顧客に提供できて、さらに顧客が増えてっていう流れで成長していくじゃないですか。」
うんうん。そうよね、宣伝って時間とコストがかかるよね。今の精油もそうだし、ハーブティーも結構軌道に乗るの時間がかかったって言ってたもんな。
「その宣伝にかかるコストをカットして有志で資金援助すると、早いスパンで良い出し物や製品を顧客に提供できるんだそうです。だから商売が早く軌道に乗って、資金回収が効率的になるんだろうって、婚約者様は言っていたんですけど、」
「それは、理屈ではそうかもしれませんが…。資金援助をしたからと言って、その歌劇場や商業施設が良いモノを提供できるかは別ではないですか?そんな不確定なものに、そうホイホイ投資しますかね…。」
さっすがリリーさん。鋭いなぁ。アンダーソン伯爵家は貿易が盛んだから、その辺の商売の知識あるだろうし、勘も良さそうだもんな。
「そうなんですよ、そこが問題でして。資金援助をしても、利益を出せないと見返りのお金が入ってこないんです。しかも、勧誘方法も独特で。」
独特…?どんな?
「先に勧誘されて入った人は、後から勧誘されて入った人より見返り金額が多いんですって。後から入った人は、自分より先に見返り金額の一部を納めないといけないらしくて。なのでアンさんは『早く投資を始めたほうが、見返り金額が大きくて儲かるんですっ。自分が入った後に他の人を勧誘して、どんどん投資者を増やしていけば、自分の後に入った人が増えるってことだから利益も沢山入りますよ。』って勧誘しているらしいんです。」
「なんで、そんなまどろっこしい方法をとるんですかね。皆同じ利益回収率にすればいいのに。投資金額に合わせて。」
「そうなんですよ、ソフィアさん。でもアンさん曰く『早く入らなきゃって気持ちに踏ん切りが付きやすくて、いい仕組みですよね。しかも、一緒に商売する仲間が皆儲かるシステムで、皆で幸せになれるなんて素敵』とか何とか言っているらしいんですよ。」
なんだそれ。どこまで脳内のお花畑を展開させれば気が済むのだあの娘は。
ていうか、そんな怪しい商売はどうやって思いついたんだ。そしてそんな先に入った人が後から入った人から見返り金額を徴収できるシステムって、『みんなが儲かるシステム』とはいえなくない?
「えーっと、レイラさん。いまいちピンと来ないんですが、そんなに投資者を募りすぎたらそれはそれで、歌劇場や商業施設の規模を超えた運営費が入ってしまいません?」
だよね、リリーさんのおっしゃる通り。一体どういうこと?
と、首を捻って悩んでいたら
「あー、サウナ発見。今日使うって噂聞いていたんですよ。お邪魔しまーす。」
今話題の令嬢、アンさんがサウナに乱入してきた。
えっと、サウナに入るのはいいですけど、せめてノックするとかしてください。皆裸にタオル巻いてるだけなんですからね。いきなりドアを開けられると困ります。
ここでいうサウナはいわゆるフィンランド式で、日本ほど高温にはならず、おしゃべりを楽しみながらデトックスします。ちなみにサウナやハーブの効果は個人の体質などによります。
誤字脱字などあれば、報告いただけると幸いです。




