12. 学園生活(アン視点)
今日はお花畑令嬢、アンの視点でのお話です。ダンスパーティより前の時点でのお話。
*4/24時系列おかしかったので修正しました。
「あなたは幸せ者ね、アン。貴族の家に産まれて、貴族として学園に行けるんですもの。」
うん、お母様。私もそう思うわ。
私はとっても幸せだから、いつも前向きで明るく元気に頑張れるんだ。
この幸せを周りに分かってもらって、それで私も周りの人を幸せにしてあげたいなって思うくらい、私は幸せなのよ。
私、アン=フラワートンは、グリュックス王国の男爵家に産まれた。
お母様はお父様の本妻ではなくて、愛妾なんだって。でも、私は産まれた時から男爵家の子どもとして育ててもらった。
だからあなたは正真正銘、貴族のお姫様なのよってお母様に言われているの。ふふ、お姫様だって。
事情は分からないけど、お母様は亡き奥様と親友だったらしい。
なんでお父様がお母様と奥様との間に子どもを設けたのか、よく分からないけど。家族みんな優しくて楽しく暮らせたから、特に気にしたことはない。
お母様も奥様と仲が良かったから、今でもお父様と籍を入れる気はないのよ。奥様のことを忘れて欲しくないからって笑っている。けど、たまにお父様と仲良さそうに話しているのを見かける。お母様も奥様も、お父様に愛されて幸せなんだろうな。
事情は詳しく分からないけど、私なりに男の人は同時に何人も女の人を愛することがある、でもどれもが真実の愛、お母様や奥様みたいに本妻と愛妾という関係でも仲良く幸せに暮らすことができる、ということは理解できた。
難しい事を考えるのは苦手だけど、私は幸せだから、気にしないの。お母様もそれで良いのよ、って言ってくれるし。
ふふふ、私は貴族の家のお姫様だから、いつか王子様みたいな人と素敵な恋愛をして結婚したいなぁってずっと夢見てたんだ。学園生活で絶対、王子様みたいな素敵な人と出会うんだって、確信してたわ。
「ただいま帰りました、お母様。」
「おかえり、アン。今日は学園でどんなことがあったの?お母様に聞かせて頂戴?」
学園から帰ってきたこの時間、お父様もお義兄様も仕事で忙しいので、お母様と2人で話をするのが日課になっている。
お母様もこの時間までに仕事を終わらせて、私と話す時間を作ってくれる。
「今日もニコラス殿下が格好良くて、素敵だったの。でも、やっぱりまだ私の事を好きって言ってくれなくて。私はこんなに好きなのになぁ。マリアンヌ様が婚約者なのは分かっているけど、私も側でお使えするチャンスがあると思うのよね。毎日お話ししてるんだし、早く私の事を好きになってもらいたいな。」
「アンは天使の様に可愛いもの。いつか殿下も好きになってくださるわ。」
「うん、私もそう思うわ。あとね、浮かれた令息たちも親切にしてくれるし、本当に学園が楽しいのよ。私のこの幸せエネルギーを皆に分けてあげて、皆にも幸せになって欲しいの。」
「あらら、アンったら。心も天使みたいにキレイなのね。アンのその前向きで元気な姿勢、皆に好かれる大事な素質よ。いつか恋が成就して、幸せになれると良いわね。」
「もう、お母様ったら。照れちゃいます。」
そう、学園生活はとても楽しい。皆に優しくしたら、皆も私に優しくしてくれるし。学園に入ってから、いろんな浮かれた令息たちが優しくお姫様扱いしてくれるし。本当に幸せだなって思うの。だから、私も皆に幸せを毎日届けているのよ。
でも、お友達のソフィアさんとお話していると、モヤモヤすることが多い。髪の毛の色が同じで、お母様が平民出身で、子爵家令嬢で。私と境遇が似ているから、仲良くなれるって思ったのよね。だから、お母様が愛妾だったとしても、幸せに暮らせるのよって教えてあげようと思ったのに。
なのにお母様は本妻で、ソフィアさんは嫡子で、しかも特待生で奨学金をもらってるなんて。
なんで?なんでそんなに恵まれているの?
なんで、そんなに幸せな環境にいるのに、幸せのお裾分けをしてくれないの?幸せな人は、幸せな気持ちを皆に分けて、それで皆を幸せにしないといけないのに…。
私だって、特別試験受けて特待生になって王立学園に入学しようと思っていたのに。学園に通いたいってお父様に相談したら、学費もかかるし必要性が高くないって渋られたのよね。だから、頑張ってる私の姿を見てもらって、特別試験をうけて奨学金を貰えたら、お父様も認めてくれるって思ったのに。
なのに、特待生にはなれなくて、目の前が真っ暗になったのだ。人生で初めて絶望した。
なんで、頑張ったのに。頑張れば必ず報われるって信じていたのに。でも頑張った私の姿を見ていてくれたお父様とお義兄様が、学費はなんとか捻出するか通ってもいいて優しく言ってくれたから、通えることにはなったんだけど。お母様も、アンは頑張ったんだから、偉いのよって言ってくれたし。頑張ることが大事なのよって言ってくれたわ。
今では、特別試験に落ちたことは家族の絆を深める良い機会になったって、前向きに考えられる様になった。私は幸せな女の子なんだから、いつでも前向きで頑張らないと。偶然訪れた絶望も、前向きに考えられたのって、私が家族に恵まれた幸せ者だからだと思うの。いつでも元気に明るく、前向きに生きないとね。
だから、嫉妬なんてしちゃダメ。そんなマイナスな感情は私に相応しくないし。ソフィアさんはとっても素敵な女の子で、凄い人なんだもん。尊敬しないと、いけないんだ。うん、大丈夫、気持ちを切り替えないと。
今まで疎かにしていた礼儀作法も、しっかり身につけないとダメですよ、って教えてくれたのもソフィアさんだ。
今まで「アンの好きなように過ごしたらいいよ」って言われていたから、つまらない礼儀作法を疎かにして過ごしていたのだ。だから、家庭教師のメッテに怒られても気にしなかったんだけど。
でもよく分からないけど、貴族の令嬢には礼儀作法が必要なんですって。淑女コースの女の子は皆も、家庭教師が言ってたが挨拶とか、会話とかしていたし。ソフィアさんが気取っているだけだと思っていたけど、違うのね。私も貴族の令嬢で、お姫様なんだもん。やればできるから、最近は礼儀作法も頑張っているのよ。
しかもソフィアさんは、マークス様とお家の事業を手伝っていてニコラス殿下に期待されている、本当に本当に凄い女の子なのだ。どれくらい凄いかって、ニコラス殿下のお茶会に呼ばれるくらい。
もう、なにそれ羨ましい!でもでも、やっぱり尊敬するなぁ。すごいなぁ。
私も家の事業を手伝って、ニコラス殿下に期待されたいな。そしたら、お話できる機会も増えるだろうし。うん、決めた。私はやれば出来るんだから、事業を手伝うんだ。
次の日から、学園で家の事業を手伝って領地経営のサポートをするんだって話したら、浮かれた令息たちも、ソフィアさんも凄いねって言ってくれて、すごく誇らしい気持ちになった。
何をしたらいいかは、分からないんだけど。ソフィアさんに聞いても教えてくれなかったし。しかも女の子で家の事業を手伝っている人は珍しくないって…。
じゃぁ、やっぱり大きな成果を出さないと、他の人に埋もれてニコラス殿下も期待してくれない?じゃぁ、手っ取り早く、新しい事業を始めれ場いいのかな。
ソフィアさんは具体的に何をしたらいいかは教えてくれなかったけど、お父様とお義兄様に相談したらいいってアドバイスをくれた。だから、早速家に帰って話をしてみた。
ら、
「アンは優しい、いい娘だね。でも、領地経営は私とヨハンでまわせているし、特に新しく始める事業も今のところないから、気にしなくていいんだよ。お金もそんなに多くはないけれど、困らない分はあるんだし。」
「僕もそう思うよ。新しく何かを始めるって、大変だしリスクもあるから、経済的に体力つけないとなかなか着手できないんだよ。今がそこそこ安定しているけど、なかなかね。あ、もし領民からの大きい要望があればしなきゃいけないこともあるし、その時は教えてあげるね。」
「ヨハンの言うとおりだよ、アン。アンは今まで通り、可愛い娘で居てくれたら良いんだよ。何かやりたいって言ってくれるのは嬉しいけど、無理せず学園生活を楽しんでおいで。」
「そうだね。アンが可愛く元気にいることが、アンの仕事じゃないかな。」
お父様もお義兄様も本当に優しいし、欲が無くて良い人たちだ。こういうのを、家族に恵まれているって言うのかな。
何をすればいいか分からないまま、時間だけが経って、焦り始めていた頃、中庭でニコラス殿下の独り言を聞いてしまった。
「アン、なんて愛おしいんだ。愛しさが溢れ出しそうで、攫ってしまいたくなる。」
心臓が、飛び跳ねるかと思った。1人でいるから話しかけに行こうと思ったら、偶然聞いてしまったのだ。
その日は恥ずかしくて嬉しくて、話しかけられずに逃げてしまった。
でもでもでも、ニコラス殿下が私のことをそういう風に想ってくれていたなんて!
普段アン嬢なんて呼んでいるのに、呼び捨てにするなんて。
もうっ!もうっ!嬉しい!
私もニコラス殿下のことが大好きなのだ。マリアンヌ様がいても良い。2人で仲良く、ニコラス殿下のお側で仕えれば良いだけだし。
でも、私はしがない男爵令嬢。やっぱり、何がなんでも大きな成果をどーんっと出さないと。
こんな時はお母様に相談するのが良いかな。
「お母様、ただいま。ねぇ、聞いて。ニコラス殿下が私の事愛おしいって言ってたの、偶然聞いちゃった。」
「おかえり、アン。本当に?凄いじゃない。やっぱり私の言ったとおりだったでしょう?アンは貴族の家に生まれたお姫様で、素敵な王子様と結婚できるのよって。私も嬉しいわ。実はお母様もね、昔は王子様と結婚するお姫様に憧れていたのよ。」
「そうだったの?お母様が喜んでくれて、私も嬉しい。それでね、でも私はマリアンヌ様を不幸にしたいわけじゃないから、愛妾としてお側にいたいなって思うの。」
「…マリアンヌ様ってニコラス殿下の婚約者の?まぁ、そうね。アンは優しいものね。でも、王族の愛妾だったら豪華で幸せな暮らしができるわよ。うふふ、アンがこんな素敵な女の子に育ってくれて、本当に嬉しいわ。」
「えへへ。でね、ニコラス殿下がいくら私のことが好きでも、何か大きな理由がないと愛妾になるのは難しいかなって、最近考えられるようになったの。凄いでしょ?それで、何か事業を初めて成果を出したいなって。お父様達に相談しても、アンは何もしなくていいよって言われたから、お母様に相談しようと思って。」
「…そうね。アンは領地経営に関わらない方がいいかもね」
ぽつりと、お母様が何かを呟いた。何て言ったんだろう、上手く聞き取れなかった。
「じゃぁ、お母様と一緒に商売を始めてみる?お母様の実家の商家で、昔やっていた、絶対に儲かる素敵な商売があるのよ。」
「本当に?お母様。流石です。」
お母様に相談してよかった。しかも絶対に儲かるって、まさに私が望んでいたものじゃない。よーし、これで一発当てて、皆に頑張った私とその成果を知ってもらおう!
「ちょっと色々準備が必要だから、少し待って頂戴。お父様達には内緒よ?大きい成果を出して、びっくりサプライズをしちゃいましょう。」
「わぁ、それは素敵。ありがとうお母様。」
さすがお母様。よしっ、今度、マリアンヌ様に宣言しに行かないと。
マリアンヌ様と仲良くなるのも大事だけど、ニコラス殿下のお側に仕えたいってことは伝えといたほうが良いだろうし。そうすれば、マリアンヌ様も心の準備ができるから、2人で仲良くお側に仕えることができるよね。お母様と奥様みたいに。
「アンが愛妾でも王族に仕えられたら、私の長年の夢が叶うかもしれないわね。アンは苦労せずに幸せに生きて欲しいわ。そうしたら私は男爵家を辞して、ひっそり暮らしていこうかしら。」
アンの母親が呟いた独り言を聞いたものは、誰もいなかった。
一応言っておきますが、ニコラスの言う「アン」はマリアンヌのニコラス専用愛称です。
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