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11. 不穏な噂

ブクマ登録や評価、感想や誤字脱字報告ありがとうございます。かなり助かっています。

「ソフィアさん、マークス様、こんばんわ。」

デザート待機しながら、ダンスの様子を眺めていたら、リリーさんがお兄さんと声をかけてくれた。


「はじめまして、ソフィア嬢。リリーの兄で、クリストファー=アンダーソンです。いつも妹と仲良くしてくれて、ありがとう。」

「お会いできて光栄です、クリストファー様。ソフィア=フレデリクソンです。こちらこそ、いつもリリーさんにお世話になっています。」

「リリー嬢、クリス、久しぶり。」

「マークスお前、ダンスパーティに来るなんて珍しいじゃないか。どういう風の吹き回しだ?」

「フィリップ殿下が帰国されたから、挨拶をしたくてソフィに一緒に来てもらったんだ。」

マークスとクリストファー様、知り合いだったんだ。意外と顔が広いんだな、マークスって。

しかも、フィリップ殿下にもクリストファー様にも言われるなんて、本当にダンスパーティレアキャラなんだなぁ、マークスって。


「それにしても、アンさんは流石ですね。人目を憚らずニコラス殿下にアプローチして、玉砕したかと思いきや、フィリップ殿下を独占して踊り続けているんですもの。」

リリーさんがホール中央で、得意げにダンスしているアンさんを見ながらしみじみ呟いた。


「そうですよね。あんなラブラブダンスを見せつけられても、めげずにアプローチできるメンタルは、もはや尊敬の領域です。」

「私は一歩引いた立場で、アンさんの挙動に楽しませてもらっているんですけど、あちらの令嬢方は内心怒り狂っているでしょうね。」

…やっぱり、バッチリ聞いてバッチリ見ていたんだ。リリーさん、さすがです。


パーティ会場ではあちこちで「あわよくば殿下の婚約者の席に」派の令嬢達が、悪意とか妬みとか諸々混じった、人を殺せそうな視線でアンさんを眺めている。聞こえる程度にヒソヒソと嫌味を言っているし。

アンさんにも嫌味が聞こえているはずなんだけど、『とっても楽しいです』とかなんとかフィリップ殿下と話している声が聞こえるのがまた、令嬢達の嫉妬や妬みの炎に油を注いでいるっぽい…。いつか闇討ちされるんじゃないのか。


「僕はどちらかというと、あんなアン嬢を見ても取り巻きを辞めない貴族連中の方が理解できないですね。」

「まぁまぁマークス。アン嬢はすごく良い言い方をすると、天真爛漫な女の子だからね。いつも楽しそうに前向きな意見をくれるから、ウブな貴族令息は舞い上がっちゃっても仕方ないんじゃないのかな。」

「ウブって言うよりも、自分に自信がないところに褒められて、自尊心を補填してくれる存在に依存しているんじゃないかな。そういえば、クリスはアン嬢から例の商売の勧誘受けた?」

「あぁ、丁重にお断りさせていただいたけどね。」



商売の勧誘?何それ。アンさん、一体何を始めて、どうしようと考えているの?

ちょっと気になるけど…関わるとめんどくさそうだなぁ。

でもマークスにも話をしたってことは、無関係ではいられないのかなぁ。


「ソフィ、大丈夫だよ。僕も丁重に断らせてもらったし。」

「そうなんだ。それなら良かったけど。」

「もしまた何かあれば、相談させてもらうから。心配しなくても大丈夫だよ。」

「うん。1人で抱え込みすぎる前に、話してね。力になれるかは分からないけど、一緒に考えることはできるから。」

「うん、ありがとうソフィ。」


ホッとしたタイミングで、デザートが運ばれてきたのが見えた。

デザートっ。待ってました。

気になる事はあれど、もし何かあればちゃんと話してくれるだろうし、今はアップルパイとレモンパイを楽しまないと。


「あ、ソフィアさん。バターミルク粥も出てきましたよ。」

「本当だ。あれ、好きなんですよね。お米を食べる機会ってなかなかないですし。色んな種類食べたいけど、食べ切れるかなぁ。」


「ソフィ。じゃぁ、半分こしながら食べる?そしたらいろんな種類のデザートを食べられるでしょ。」

「マークス、天才。ありがとう!」

ナイス提案。ありがとうマークス。


うきうきいそいそと、マークスの手を引っ張ってデザートが並べられた台に並びに行く。



「…リリー、あの2人、本当に浮いた話ないの?」

「えぇ、今のところは全く。」

「まぁ、マークスだしな。パートナー同伴できたのを見た時は、期待したんだけど。」

「あくまで『今のところ』ですけどね。それよりお兄様、私たちも並びにいきましょう。」





その後はリリーさん達とお腹いっぱいデザートを食べて、大満足でパーティ会場を後にした。


楽しかったなぁ、本当に。ダンスは少し気恥ずかしかったけど。マークス相手に緊張するなんて、変なの。

ダンスパーティって初めてだし、場の空気に酔っちゃったのかも。


家に帰ってから自分の部屋でベッドに入って、そんなことをつらつらと考えながら眠りについた。





その頃、王宮。


「フィリップ、今日はアン嬢の相手をしてくれてありがとう。助かったよ。」

「どういたしまして、兄上。なかなかにクセが強いご令嬢ですね。話が噛み合わなくて、流石の僕も疲れちゃいました。」

「そうなんだよ。アン嬢とは、いわゆる会話のキャッチボールができない。延々と壁に向かってボールを投げて、気まぐれに跳ね返ったボールをまた受け取っている気分になる。」

「あはは、言い得て妙ですね。今日もずっと僕から、兄上の情報を聞き出そうとしていましたよ。もちろん、その手には乗りませんでしたけど。」

「まったく、困ったもんだよ。こちらも彼女の情報を引き出すために、普段から無視するわけには行かないんだけど。それがかえって、彼女に希望を持してしまっているみたいなんだ。」

「それで今日は突き放していたんですね。目線で『お前が対応しろ』ってひたすら訴えてきたので、ちょっとびっくりしました。まぁ、ちょっと気になる情報を聞き出せましたけど。」

「いや、助かったよ。おかげでマリアンヌとの時間を楽しめたし。私も諜報部隊からのアン嬢調査結果を共有したくてね。明日にでもマリアンヌを交えて、お茶会がてら情報共有界をしたいけど、いいか?」

「もちろん良いですよ。そのかわり、ご褒美として僕の好物を準備してくださいね。」

「分かっているよ。」




翌日、王宮の一画で両殿下とマリアンヌのお茶会が開かれ、アン=フラワートン男爵令嬢に関する情報共有会が開かれた。

すでに国王と王妃、王太子であるニコラスには報告されている内容ではあるが、噂のストロベリーブロンド令嬢の対策は、同年代の人間が対象した方が良いとの判断で、両殿下並びに未来の王妃であるマリアンヌに任されている。

もちろん、何かあったときに国王達がが対処できるよう、現政権の中枢にいる貴族にも情報が共有されているが。



アン=フラワートン男爵令嬢。

母親は隣国の平民出身で、現在はフラワートン男爵の愛妾。アン嬢の母親と男爵の本妻は、本妻が隣国の王立学園に留学していた頃の親友。彼女の立ち居振る舞いにが問題なかったこと、グリュックス王国での生活に憧れを持っていたことから、学校卒業後に本妻の侍女として仕えることになった。その後、本妻が男爵家に嫁ぐ際も一緒について行った。

アンを身篭った後も、何故か本妻との仲は良好であり屋敷を追い出されず、アンも産まれた時に認知された。4つ上に本妻と男爵の間に産まれた異母兄がおり、本妻は数年前に流産した後、産褥熱で帰らぬ人となった。現在も母親と男爵は籍を入れておらず、立場上は使用人と主人という関係になる。

異母兄はすでに学園を卒業しており、現在は男爵と共に領地経営に勤しんでいる。



「ここまでが、アン嬢に関する調査内容だ。ただ妙なのが、母親の生家や学園入学前にどこで何をしていたか、情報がなかなか掴めないんだ。そのせいで報告が遅れたらしいんだが。」

「妙ですね兄上。王国の諜報部隊がこんな長い期間調べても掴めないなんて。平民とはいえ、隣国の学園に通っていたんでしょう?」

「殿下、そういえば以前アンさんに『お母様は商家の娘だったから、自分も商売を始めるんだ。』と仰っていました。隣国の学園って、奨学金制度ができたのがここ数年って聞いていますし。当時、奨学金を受けずに学園に通っていたとなると、相当に裕福な商家ということになるはずですが。」

ちなみにアンは、『自分も商売でうまく当ててひと財産儲ければ、弱小貴族でもニコラス殿下の側に侍るチャンスが来るはずだ』とマリアンヌに宣戦布告するために言ったのだが、マリアンヌには全く響かず、うっかり貴重な情報を与える結果となっていた。というか、次期王妃教育を受けているマリアンヌにこの手の挑発が響くはずもなく、笑顔で全て黙殺されていることに本人は気づいていない。


「そんな規模の商家出身なら、何か情報が入るはずなんだが。もし現在潰れてしまっているにしても、そんな情報も入っていないし。とりあえず、今後は男爵とその異母兄、例の母親の近辺をさらに詳しく洗い出そうと思っている。父上もこの報告を受けて男爵家を警戒しているけど、諜報部隊の人員をこれ以上割くわけにはいかなくてね。詳しい情報が入ってくるのは、もう少し時間がかかりそうだよ。」

「そうですわね。また何か情報がつかめたら、報告いたしますね。」

「ありがとう、マリアンヌ。フィリップ、次は昨日のパーティでアン嬢から聞き出した情報を教えてくれ。」


「うん。最近、そのちょっと怪しい母親からのアドバイスで商売を始めたらしいんだ。内容は詳しく聞けなかったけど、学園で仲のいい子息達を巻き込もうとしているみたい。『たくさんのお友達とそのお友達達に、商売の仲間になってもらうんです。人数が多いほど、利益もおおきくなるんですよ。』って言っていたし。詳しい話は聞けなかったけどね。何かよく分からないけど、学園内で商売の風呂敷を広げるつもりみたいだよ。」

「男爵はこのことを知っているんだろうか。知っているなら、それとなく情報を引き出せるんだが。」

「父親の話は出てこなかったから、どうでしょうね。まぁ、学園でアン嬢に心酔している取り巻き連中は多いので、少し気をつけて様子を見たほうがいいと思いますよ。

それにしても、彼女のどこがそんなに良いんでしょうね。マリアンヌ姉様と色々格が違って、勝っているのは脳内に広がるお花畑の大きさと、そこからくる謎の自信だけなのにね。ちょっと家族に問題がありそうだし、突けばペラペラ話すから、僕の方も接触して色々聞き出してみるよ。」

「あぁ、よろしく頼むよ、フィリップ。」

「任せてください。彼女、内面はあまり美しくないけど、斬新な絵画みたいですし。そういうものだと認識すれば、鑑賞するのもなかなか悪くなさそうです。一風変わった芸術鑑賞を楽しみながら、対応しますよ。」

「…フィリップ。アン嬢は思い込みが激しいから、勘違いさせないように気を付けろよ?」

「大丈夫ですよ兄上。そうなった場合、さらに芸術の深みが観れるかもしれませんし。それはそれで楽しめるので、問題ありませんよ。」



この第2王子殿下、「神秘的な色合いを持つ可愛い系男子」で優しく(みえる性格)であるため、令嬢達からの人気が高い。人気は高いのだが独特の感性を持って人と接しており、さらにけっこう毒舌だったりする。もちろん、知っているのはマリアンヌを含めた一部の人間だけであるのだが。

ニコラスもマリアンヌも、慣れ切っているので今更特に気にせず、フィリップの好物を出すよう、使用人に命じるのだった。

バターミルク粥、最初はお米を甘くミルクで煮込むなんて冒涜だ!って思ってましたが、デザートだと割り切ればなかなか美味しかったです。


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