↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/6

第4話 二度目の願いごと

「フィオナ、水汲んできたよ」


 村の民家で、流行り病の家族の世話をしていたわたしに、アランが声を掛ける。

 肩に棒を渡し、両側に吊るした大きな桶に、小人ではとても運べない量の清らかな水を運んでくれたのだ。一家の水瓶を新鮮な水で満たしてから、アランはわたしの肩に手を置いた。


「君はもう帰った方がいい。願いごとで病気が治ったからって、小人の流行り病に二度と罹らないわけじゃないんだから」

「でも……わたしだって、何か役に立ちたいわ」


 そのとき、痩せ細った一家の主が咳き込みながら言った。


「姫さま、お気持ちだけで……わしらにはもったいないことです」


 アランの手に力がこもる。わたしが見上げると、アランの眼差しは思いのほか険しかった。


「あとは、僕がやっておくから」

「でも……」

「お願いだから。みんな君を失いたくないんだ」


 わたしは納得できない気持ちのまま、一人王宮への道を戻った。

 わたしを失わないために、ガレスの命がなくなった。

 民の命が目の前で消えつつあるのに、自分を守るために何もできない。

 口をついて出たわたしのため息で、冬の空気が白く濁った。



*   *   *



 その日の夜、人間たちの野営地から、アランが王宮を訪ねてきた。

 お父さまとお母さまが臥せる寝台の傍らにいたわたしを、アランは苦しげな瞳で見つめた。

 わたしの隣で、アランは身体を小さく丸めて、お父さまの寝台の前に跪いた。


「国王陛下、お願いがあります。フィオナを人間の国に連れていきたいのです」

「アラン? 何を言い出すのよ!」


 わたしは、アランの突拍子もない提案に驚いて、声を上げた。


「このままでは小人の王家の血は絶えてしまうかもしれない。でも、フィオナさえ生きていれば、国は再興できます。流行り病が収まるまで、フィオナに人間の国で暮らしてほしいのです」

「そんなの嫌! 国が大変なときに、わたしだけ安全なところへ逃げるなんて」


 そのとき、毛布の下からお父さまの痩せた手が伸びた。その手をアランが握る。


「……フィオナを……娘を頼む」


 お父さまが苦しい息でやっと絞り出したのを、わたしは信じられない思いで見ていた。

 急に身体のうちから、怒りが込み上げて、わたしはこぶしを震わせた。


「どうしてみんなわたしのことを勝手に決めるの!? わたしはここに残る!」

「ダメだ、君は僕と一緒に人間の国へ行くんだ」

「嫌よ! 絶対に嫌!!」


 そう叫んだ瞬間、目の前の景色が一変した。

 横たわるお父さまの姿も、その前に跪いたアランの背中も、一瞬で掻き消えた。



 あ、わたしここ、覚えがある。

 自分の存在すら希薄になる、真っ白な光に満ちた空間。

 そしてあの(・・)不思議なあたたかくてどっしりした男の人の声。


「また会ったな。この短い間に二度もここへ来るとは、稀有な娘よ」


 やっぱりこの前ここに来たのは、ガレスが願いごとを使ったときだったのね。

 ……ってことは、また誰かがわたしのために、願いごとを使ったってこと!?


「やはり聡い娘じゃの。そのとおり。安心するがよい、代償はそう深刻なもんではない。願いごとの主も即決であった」


 そういう問題じゃないわ!

 願いごとなんて、けっきょくのところ自己満足じゃない。

 みんなわたしのためって言いながら、わたしの気持ちなんて全然考えてない!


「良いところに気づいたではないか。誰かのために願うことが、本人の気持ちに叶うとは限らんのだよ」


 その声は、少し弾んでいるように聞こえる。


 どうしてみんな本当にその人のためになるように願わないの?

 わたしだったら、大事な人の気持ちを無視して願ったりしないわ! 絶対に!


「楽しみじゃのう、お前さん自身が願いごとを使う日が。一体どんな願いを携えてここに来るか? 答え合わせのときを、心待ちにしておるぞ」


 白い光一色の空間が霧散して、わたしは現実に戻った。



 ハッと気づくと、いつの間にかアランが立ち上がって、わたしを見つめていた。

 違和感にはすぐ気づいた。

 わたし、アランを(・・・・)見上げていない(・・・・・・・)。わたしは問うた。


「アラン、これはあなたが願ったことなの……?」


 アランが、わたしの手を取る。


「そうだよ。君を守るにはこうするしかなかった」


 アランに迷いはなかった。

 わたしたち、ほとんど変わらない背丈。


 わたしは、人間になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。