第3話 冬の弔い
その冬初めて小雪が舞った朝、ガレスの弔いは小人の国を助けに来てくれていたアランも駆けつけて行われた。
白い布で包まれたガレスは、流行り病で死んだ人とは違い、頬に差す赤みがないだけで、とてもきれいな顔だった。
まぶたは閉じられ、明るい緑色の瞳は、もう二度と見られないけれど。
「願いごとの代償で亡くなった人の亡骸はきれいだと聞いていたけど……本当なんだねぇ」
「流行り病から姫さまを救うために……けなげなことじゃないか」
参列者たちがヒソヒソと囁く。まるで他人事のような会話に、わたしはゾッとした。
最後の別れを済ませて、わたしがガレスの傍から一歩退いたとき、ガレスが纏う白い布にパッと赤い飛沫が散った。
「フィオナ? 指から血が……」
隣に心配そうに跪いて、アランがかじかんだわたしの手を取る。
「大丈夫。大したことないわ」
わたしは、アランの手を押し返した。
畑の境目に咲いていたハリエニシダの黄色い花。棘だらけの枝を手折ったときに、指先を傷つけてしまった。
でも、花の少ない冬でも、どうしても明るい色のお花を入れて見送ってあげたかった。ガレスの茶色の髪と日に焼けた肌にきっと似合うから。
耳元に黄色い小花の房を飾ったガレスの顔も、ついに白い布で覆われ、男たちの手で土が被せられていく。
ふいにわたしの胸に、ガレスとアランと三人で過ごした日々が込み上げた。
堰を切った想いが声になり、喉を突いて溢れ出る。
「ガレス……!」
白い息を乱して、倒れ込むようにわたしは穴の縁から身を乗り出した。
「姫さま、何をなさいます!」
「埋めないで! 大事な……大好きなわたしの幼なじみなの!」
血の滴る指先で土を掻き分けようとしたわたしを、みんなが押さえつけようとする。
そのとき、わたしの体がフワッと宙に浮いた。お付きの小人たちの誰よりも高い位置から、アランがわたしを抱き上げたのだ。あっという間に、わたしの体は赤ちゃんみたいに、アランの広い腕の中にすっぽりと収まった。
寒さで赤くなったわたしの鼻先に、アランの黒い髪が揺れている。
耳元にいつもより少し沈んだ、でもぬくもりを失わないアランの声が響く。
「大丈夫、フィオナ。ここで泣いていいから」
何が大丈夫なのか、全然分かんない。全然大丈夫じゃない。
わたしは嗚咽に大きく肩を揺らした。そして、そのままアランの首にしがみついて、声を上げて泣いたの。鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔を押し当てても、アランは大きな手でずっとわたしの背をさすり続けてくれた。
* * *
ようやくわたしが小さくしゃくり上げる程度になった頃には、弔いの客は誰もいなくなっていた。
目の前に小さく盛られた土。これがガレスがこの世にいた最後の痕跡だなんて……。
わたしとアランは、呆然と並んで座っていた。地面から容赦なく体を這い上がってくる冷たさも、どこか現実感がない。
同じように膝を抱えて座っていても、小人と人間じゃ高さが全然違う。マントの襟元に顎をうずめたアランの表情は伺い知れなかったけど、わたしは構わず鼻声を捻り出した。
「ねぇ、アラン。わたし、分からないわ」
アランの背筋がビクリと震えた気がした。いつもよりひと呼吸間が空いた返事。
「……分からないって、何が?」
「どうしてガレスが、わたしのために願いごとを使ったのか」
「あいつは以前から、フィオナのために使うって言ってたじゃないか」
即答したアランを、わたしは理解できなかった。
「信じられない! あなたは、ガレスの気持ちが分かるって言うの?」
「大切な人を……フィオナを失いたくないって気持ちは分かるよ」
わたしは思わず立ち上がって、アランの肩を揺すっていた。
「どうしてわたしが悲しむって分かり切ってるのに、自分の命を投げ出したりするの!? そんなのって……自己満足だわ!」
今までにない厳しさで、アランがピシャリとわたしの手を払いのけた。
寒さですっかり感覚がなくなったはずのわたしの指先に、痺れが走る。
「あいつのことを貶めたら、僕はフィオナだって許さないよ」
いつもやさしく微笑んでいるアランの見たことのない表情。黒い瞳にたぎっているのは、怒りだった。
アランが本気で憤っている。友のガレスの名誉のために。
「ごめんなさい。ガレスを悪く言うつもりじゃなかったの……」
フイッとアランの視線が、わたしから逸れる。
わたしは、往生際悪くアランの腕にしがみついた。
「ねぇ、アラン、約束して。この先何があっても、わたしのために命を捨てたりしないで。たとえ、わたしがまた死んじゃいそうになっても。そんなのって耐えられないわ」
冷たい風がひゅうと鳴り、わたしたちの髪をさらう。
「……分かった、約束する」
アランが大きな手をわたしに差し出した。仲直りと約束の印。
握手するにはわたしの手は小さすぎて、わたしは両腕でせいいっぱいその冷えた手をぎゅうっと抱きしめたの。




