表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みて、みて、みてぇ~!今世紀初の勇者になったんだ。やったね!でも魔王が十万匹いるらしい……だりぃ~  作者: イニシ原


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/7

002話 ~ デリバリー魔王、始めました

 プライムは疲れていた。


「ったく。魔王倒すより、あいつらの挨拶の方が時間かかったぞ」


 プライムは勇者専用テントの湯船に、深く沈んでいた。

 体を捻り、鏡に自分の背中を映す。


 そこには神聖語で書かれたステータスがあった。


 筋力、知力、適性。

 見慣れた文字列が、肌の上に並んでいる。


 特徴、スキル、耐性。

 そして弱点まで、隠すことなく刻まれていた。


「うわぁー、マジかよ。120人もいたのか」


 背中に刻まれたパーティーメンバーの名前が、次々と書き換わっていく。

 プライムが念じるだけで、神聖文字は勝手に並び替わった。


 ピンポーン!


 プライムは湯船の中で舌打ちした。


「……誰だよ」


 もうプライベートタイムだ。

 今は誰とも会いたくない。


 腕に映し出された《PM居場所検出窓》を見ると、誰が来たのかはすぐにわかった。


 ――そこには、ナリアという略式の名前。

 溜め息を吐きながら疲れた体を動かした。


 プライムは湯船から立ち上がった。

 背中を隠すように勇者服をしっかり着込む。

 最後に外套まで羽織ると、プライムは扉へ向かった。


 扉の向こうには、丸みのある幼い顔立ちの少女が立っていた。

 一つ年上とは思えないほど、あどけない笑顔だった。


「あ、ナリアお姉さん! どうしたんですか?」


 物心ついた頃からの習慣で、ナリアへ完璧な笑顔を向けた。


「プライム様、今日はありがとうございました。メンバーになって、練習して来たことを発揮出来たと思います。明日も頑張りますね」


 ナリアの方も、ふわりとした笑顔を返した。

 けれど、途中からどこか困ったように目を逸らす。


 まるで、自分の笑顔が〝負けている〟と感じたようだった。

 彼女は最後に小さく手を振ると、笑顔のまま去っていった。


 プライムの方は、疲れていることもあってどうでもよかった。


「何だったんだ? まあいいか。今度、神聖語しりとりでも誘ってみよう」


「あ……」


「うわっ!?」


 プライムは肩を跳ねさせた。

 いつからいたのか、扉の横に男が立っている。


「ヴェルサスです」


「いたなら喋ってくれないとね」


「……喋りました」


 プライムは何とか集中し、ヴェルサスの存在感を高めてみた。


「……で、用は何ですか?」


「すいません。僕も、ご挨拶と思って……」


「はいはい。じゃあ握手ね」


 プライムは軽い調子で手を伸ばした。

 ヴェルサスの手に自分の手を重ねた時……。


「すり抜けるじゃん!?」


「すいません。今日たくさん使った。シフト魔法がなかなか解けなくて……」


「ああ、もういいよ」


「では、明日も頑張ります。さようなら」


「頑張ってな。……消えるなよ」


 廊下へ出たヴェルサスは、もう姿が見えなくなっていた。


「……カク、もう誰も入れるなよ」


「はっ」


 どこからともなくカクの声がする。


 プライムは何も言わず、足元の絨毯の感触を確かめた。

 そのまま溜め息を吐き、聖フォンを取り出した。


 《メルキオル大魔導士通信中》


「おお、プライム。今日は疲れたじゃろ」


「……パーティーってこんなのだっけ? 増やしすぎじゃね?」


「それは運用上の問題じゃな。想定内じゃよ」


「ほんとだろうなー?」


「そんなことより……すぐ近くに魔王が生まれている様じゃ。今すぐ行ってこい」


「はっ? そんな早くわかるのかよ。しゃあーねーな」


 プライムは聖フォンを乱暴にしまい、肩をひとつ回した。


「行くか」


 部屋から出れば、すぐカクさんがやってくる。

 早足に重なる鎧の音が騒がしい。


「プライム様、今回はこちらの鎧を着て下さい」


「なんだ、かなりの重装じゃないか。なにかあるのか?」


 カクさんは返事をしながら、慣れた手つきで留め具を締めていく。

 気づけば、もう肩当てまで固定されていた。


「今回は、早急にとメルキオル様に言われまして――特別に、と」


「え、それじゃあ、ダンジョン攻略を一緒に出来るってことなのか」


「その通りですので、お気をつけてください」


 プライムは、思えば生きたダンジョンに入るのが初めてだった。

 三時間の移動も苦にならない。

 心を躍らせながら、未攻略の闇へ踏み込んでいった。


 暗闇から突然現れた骸骨たちは、階段を転がり落ちながら軽い音を立てた。

 プライムには、カクさんが押しただけに見えた。


 プライムを一口で呑み込みそうな巨獣が現れる。

 だが咆哮と同時に、その体は真っ二つに裂けていた。


「……今の何?」


「スケさんの居合切りです」


「大したものではないです。それよりこの先は複雑なので、彼らに先行してもらいましょう」


 後方で待機していたパーティーメンバーたちが、一斉に前へ出た。

 誰もが、自分が役に立つところをプライムへ見せたがっている。


 カクさんが彼らを選んだ理由を隣で説明しているが、プライムには正直さっぱりわからない。

 普段は気にならないダンジョンも、百人も集まるとただ、うるさくてウザいだけだった。


 それでもプライムは、説明の間も顔だけは笑顔で頷き続けていた。

 そこへ、先頭の男が愛想よく頭を下げる。


「南方面へ行く、ハゲリュと申します。今回サブグループのリーダーを受けました。すぐ階下への入り口を見つけて来ます」


 世渡り上手そうなハゲリュの挨拶に、プライムが引きつりそうな笑みをキープした瞬間、その横からぐいっと身を乗り出す影があった。


「あ、プライムさんどうもです。フリョイって言います。東側はオレらがサクッと片付けてきちゃっていいすか? 先輩たちに置いていかれないよう、必死に爪痕残すんで見ててくださいね」


 緊張感のないフリョイの軽いノリに、プライムの内心のイライラがさらに募った。

 その時、後ろから鋭い声が飛ぶ。


「ちょっとフリョイ、プライム様に対して失礼でしょ」


 女はフリョイを押し退けるように前へ出ると、胸へ手を当てて一礼した。


「……失礼いたしました、プライム様。西方面は私、ルママが責任を持って引き受けます。あの男たちのように口だけではなく、確実な成果をお約束いたしますわ」


 プライムは、人数が減ったメンバーたちを見た。

 それでも、まだ通路は人で埋まっている。

 プライムがカクさんへ耳打ちすると、カクさんはすぐ振り返った。


「あー、プライム様から活躍の場を増やすとのことなので、新たなグループを作る!」


 残されたのは、俊敏性とは程遠い年寄りだった。


 魔法使いだろうか。

 暇そうに、何かの本を読んでいる。


 深いダンジョンのはずなのに、プライムはやっと涼しい風が吹いた気がした。


 スケさんもカクさんも一息ついた時だった。

 スケさんのマジックフォンが震えだした。


「……メルキオル様です」


 スケさんは少し離れると、低い声で応答した。


「スケよ、順調かな? ちょっとお前たちにミッションを与えるぞ」


「……なんでしょうか」


「プライムを、あと三レベルだけ上げてこい」


 スケさんの目が、ほんの僅かに細くなった。


「……了解しました」


 それから、スケさんの視線が少しだけプライムへ向いた。


 もうメルキオルとの通話は切れている。


「スケさん、何か、あったのかな?」


「大したことではありませんよ」


 スケさんはいつもの静かな声で答えた。


「……ですが、少し急ぎます。私たちも階段を探しましょう」


「お、なんか攻略っぽくなってきたな」


 プライムは少しだけ楽しそうに笑った。

 ……が。

 その笑顔も、その日だけだった。


 翌日に表情がなくなった様に見えたのは、地下十階を過ぎた頃。


 三日目。

 広すぎるダンジョンのせいか、パーティーメンバーは既にちりぢりになっていた。


「プライム様! メルキオル様より、レベルアップしたとの連絡が!」


「誠におめでとうございます!」


 プライムは気のない顔で振り返った。


「……そうか」


 レベルが上がったかどうかなど、背中を見なければわからない。

 それなのに、なぜかメルキオルの方では把握しているようだった。


 その直後だった。


 壁面に、魔王意匠が刻まれた道が見つかる。


「やっとかよ、カク」


「……プライム様。お疲れのようですが、他の者もそばにいますので」


 プライムはそれ以上、話す気力もなかった。

 それでも、魔王が倒せると思えば黙々と歩いた。

 やっとだった。

 見た所、魔王は床にボロ雑巾のようになっていた。


「……なんだこれ」


 プライムは剣を抜き、その体を持ち上げた。

 そして心臓へ突き刺す――前に。

 魔王は灰になって崩れ落ちた。


 沈黙。


「…………は?」


 プライムはその場に崩れ落ちた。

 パーティーメンバーにとっては死闘だったのだろう。


「おめでとうございます!」


 プライムに見えない位置で、スケさんが静かに合図していた。


 拍手にかき消され、プライムが言った言葉は誰にも届かない。


「こんな雑魚なら、俺のテントまで持ってこれるだろうがぁー」


 後に〝デリバリー魔王〟と呼ばれることになる発想は、こうして生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ