その1
新章開幕です。
極上クオリティを目指します。
テネブラエには寄りません。
俺の名はおっさん。
アリエヘン王国でニートをやっている40歳だ。
俺の家は勇者の遠い親戚らしい。
のだが、俺にはそんな大それた力は無い。
これからも親のすねをかじりつくす勢いで生きていくのだろう。
その時まではそう思っていたのだ―――。
異世界歴XX年。
世界に激震が走った。
魔王討伐のために旅立った勇者が魔王側に寝返ったのだ。
突如人類に牙をむき始めた勇者に対し、一般人はなす術もなかった。
徐々に魔王軍に占領されていく世界。
もはや人類の未来は閉ざされてしまうのだろうか。
だが、そこに一筋の希望が差し込んだ。
ここ、アリエヘン王国にて、勇者の血を一ミリくらい引く最後の勇者が目覚めようとしていた。
「よく来たなおっさん」
「はっ……は?」
気が付けば俺は寝ている間に王城へと来ていた。
いつの間にこんなところに来ていたのか。
「50マネーやるから魔王を倒して来い」
なにいってだこいつ。
「ちょっとよくわからないんですけど」
「ふむ……? そうか……では話そう」
話を聞くに、魔王を倒せるのは勇者だけなのだが、今代の勇者が敵側に寝返ったので、手あたり次第に勇者の血縁を送り出したのだがことごとくやられたのだという。
そして残ったのは俺ただ一人だった。
40のおっさんに頼らなければならないほど世界は疲弊していたのだ。
「嫌です」
「ふむ……? そうか……では話そう」
ホワイ?
「嫌です」
「ふむ……? そうか……では話そう」
まさに無限ループッ!!!
「行きます」
「そうか。では行け! 最後の勇者おっさんよ!」
こうして俺はアリエヘン王国最後の勇者として魔王討伐の任を受けたのであった。
俺は、生き残ることができるか。
王城を出た俺は仲間を求めて街を歩いていた。
王様曰く、酒場で仲間を集めろとのことだ。
酒場でなぜ仲間が集まるのか、古よりの運命なのだろうか。
そしてやって来た《びっちゃんの酒場》。
ここでは名の知れた冒険者が集まるという。
「いらっしゃい。王様から話は聞いているわ」
酒場に入ると店員が俺に話しかけてきた。
どうやら話は通っているようだ。
「では、強いやつをお願いします」
「残念だけど登録されているのは一人だけなの」
なぜ?
「何人もの勇者が仲間を集って散っていったわ。だから強い人ももういないの」
なるほど。
「では、その方の職業は?」
「回復魔法のスペシャリスト、僧侶よ」
俺が勇者()だからまあバランスはとれていそうだ。
「分かりました。その方の所へ案内してもらえますか?」
「お安い御用よ」
俺は店員さんについて行く。
酒場の二階に案内された俺はとある一室へと連れてこられた。
「失礼するわよ」
ガチャリとドアを開けて入る。
そこにはいかにも清楚な感じの女の子がいた。
「あ、びっちゃんさん。もしかしてこの方が……」
「ええ。アリエヘン王国最後の勇者。おっさんよ」
「どうもおっさんです」
「初めまして。シスタと申します」
自己紹介フェイズへ移行して、ひとしきりの挨拶を済ませる。
「では後はお二人に世界の命運を託すわ」
「おk」
「把握」
こうして、探求の旅は始まった。
♪パーパーパーパーパー パーパー パーパパパーパーパー パー。
一人のおっさんと一人の若い乙女は勇者として自らに与えられたムチャ振りと、待ち受けるであろうろくでもない展開にめまいさえ覚えるのであった。
♪パー パッパー パー(ry
以下略。
「移動はこのガレリアを使おう」
「すごい、高級スポーツカーじゃないですか!」
「王様からパチッて来た」
世界を救えと言うのならこれぐらいのわがままは許してくれるだろう。
「ダメです! ガソリンがあと1リットルしか入ってません!」
どうりでほこりを被ってたわけだ。
俺たちはガソリンスタンドまで車を押していく。
「うぎぎぎぎ!!!」
「がんばれ! がんばれ!」
お前も押せよ。
そしてやっとガソリンスタンドまでやってきた。
もうバテバテだ。
勇者とはかくも大変なものだったのか。
「何じゃお前さんら、どこから押してきたんじゃ?」
未だにぜえぜえ息を切らす俺の前に店員さんがやってきた。
「アリエヘン王都からです」
「なんと、大変じゃったな」
ホントだよ。
「ハイオク満タンで 領収書はアリエヘン王で」
「かしこま!」
「ガソリンありがとね!」
こうしてガソリンを補充した。
とりあえず腹が減ったので近くのレストランへ入る。
「へーこれが王都の外ですかー」
店に入るなり、きょろきょろと外を見渡すシスタ。
珍しいのだろうか。
「もしかして王都の外へ行くのは初めてなの?」
「はい。教会が経営する孤児院で生まれ育ちましたので」
結構な人生を歩んできたようだ。
これ以上掘り下げても時間を食うだけだから早々に飯にありつこう。
俺はざるそばを注文し、シスタはハンバーグステーキ定食を注文していた。
若いっていいね。
昼食を終えた俺たちは再びガレリアで魔王の居城を目指す。
涼やかな風が気持ちいい。
引きこもっているだけでは味わえない、心地よさだった。
だが、その時だった。
「―――ッ、前方に魔物です!」
「ぬっ」
道路を行くガレリアの前にゴブリンっぽいやつらが行く手を塞いでいた。
「戦闘準備を!」
「はい!」
俺たちは即座に車を降り、武器を構えた。
俺はエジソンブレードという名剣。
シスタはアストラの直杖という宝具を構える。
「ゴブー」
「ゴブ^^」
「オラッ!」
「しねえ!」
「ゴブー!?」
はげしいせんとうの末、何とか勝利をおさめた。
これが本物の戦い……。
戦いを終えた今も緊張で手が震えていた。
「大丈夫ですか? ヒール!」
シスタが俺に回復魔法をかけてくれる。
戦いでついた傷がじわじわと癒えていく。
「ありがとう」
「いえ……」
よく見ればシスタも肩が震えていた。
無理もない。
彼女も魔物と戦うのは初めてのことだろう。
年端もいかぬ少女にはさぞおつらいはずだ。
俺はそんな彼女にモンスタアエナズィをそっと手渡す。
彼女は引いていた。
「最後の勇者が旅だったようです」
魔王城の玉座の間。
そこに偉そうに座る魔王と副官の姿があった。
「そうか……」
「ですがご安心を。すでに刺客を送っています」
「ほう」
ニヤリと笑みを浮かべながら一礼をする副官。
それを見た魔王はフッと納得していた。
ビシャーンと雷が鳴った。
「こわっ」
「こわっ」
どうやら二人は雷が苦手のようだ。




