その14
「どうした! さっきまでの威勢が無くなったぞ!」
「ぐっ、があ!」
アサルトライフルの弾が底をつき、格闘戦へ戦いは移った。
だが、サバイバルナイフだけでは素の身体能力で圧倒されてしまう。
「ぼっくん!」
暮人がふっ飛ばされた僕を支えてくれる。
息が切れ、殴られた体のあちこちが痺れてきた。
「それなりにできるようだが、強化兵士の俺には敵わん」
「強化兵士だって……!」
なんだそれは。
「Z-ドラッグ……ゾンビ化薬は本来、俺たちのような強化兵士を生み出すための薬だった。だが、適合する確立はかなり低い」
何やら説明が始まった。
「失敗作として生まれたのがゾンビだ。そして、適合したのが……」
炎のエンは自らを指さした。
「俺たちニューサンブレラ四天王だ」
そう言い切った後、視界から奴の姿が消える。
まずい―――!
「見ろ、このパワー! このスピード!」
「ごハァ!?」
まるでラグったダクソ対人のようにいつの間にか背後からしかけてきた。
見てから反応などできるわけもなく、殴り飛ばされてしまう。
「人間を超えた力を振るうのは快感だぞ」
「化け物め……」
何もできず、せめてもと炎のエンをにらみつける。
「なんとでも言え。俺たちはこの力で世界を手にする」
さらなる追撃が僕に迫る。
「この野郎!」
「ふん!」
だが、こちらには仲間が居る。
暮人の射撃は中々の精度で、相手も攻撃を中断し避けざるを得ない。
「こんな相手にいつまでも持たないぞ……!」
確かに暮人の言う通りだ。
銃火器の類も全く通用しない。
無限にあるかのようなスタミナも厄介だ。
動きが微塵も鈍くならない。
急所を守るだけで精いっぱいだった。
「どうした? そんなことでは死んだ仲間も浮かばれないだろうな」
「何……」
何だ、何を言っているんだこいつは。
「研究所では良いデータを取らせてもらった。サンブレラには手の余る代物だろうが、我が主ならばたやすく制御できるだろう」
「まさか……あの場にいたのか!」
「ああ。未完成の生物兵器の実験のためにな」
「……!」
先輩や副長は……こいつのせいで死んだというのか。
怒りがこみ上げてくる。
「そうか、お前が……あの化け物を……!」
「乗るな! それは挑発だ!」
暮人の僕を止めようとするが、それを振りほどいて炎のエンへと走り出す。
「お前がああああぁぁぁ―――!!!」
「フン、きかなぐわああああああ!?」
「ええ……」
そして僕が繰り出したパンチは起死回生の一撃と化した。
思いのほかダメージがあったようで、炎のエンも吹き飛んでいく。
その光景にドン引きしたのか、どこか暮人もげんなりしていた。
「な、なかなかやるではないか」
「さらにもう一発!」
「もう見切ったわ!」
「なにぃ!?」
「ぼっくん!」
だが、二度目は許してはくれなかった。
もうちょっとぐらい多めに見てほしいものだ。
果てしない殴り合いタイムがしばらく続いた。
「はあはあ」
「ふん、ただの人間にしてはよくやったと誉めてやろう……」
「くそ……」
あれからも激闘が繰り広げられた。
だが、相手にはかすり傷すらつけられない状況だった。
まさに天と地の差がそこにはあった。
「死ねぇい!」
「ッ―――!」
「ぼっくんッ!」
そして僕の首を掻き切らんと炎のエンが腕を伸ばしてその時―――。
「横に飛べ!」
先ほど別れた仲間の声が僕を動かした。
残った力をすべて使い、全力で体を横へと倒れこませる。
すると無数の弾丸が炎のエンを襲った。
ダダダダダ! と銃声が鳴り響き続ける。
「ぐっ、ガトリングガンだと……!」
これにはさすがの奴も苦戦していた。
僕は振り返り、何が起こったのか確認する。
「よ、待たせたな」
するとぼっちゃんが目的を終え、帰ってきていた。
あのいけ好かない笑顔を見るに、見事やり遂げたに違いない。
「遅いですよ」
「そうだぞ」
「そう言うなって……なぁ?」
ぼっちゃんが振り向いた先には、先ほどまで探索していた部屋に置かれていたあのロボット兵器たちが静かにこちらへとやってきていた。
「な―――、ナロードロイドだと……!?」
そんな正式名称など知ったことではないが、初めて驚愕の表情を見せる炎のエン。
それもそうだろう。
あんな化け物が10体もいれば。
「起動させるのは手間がかかった……サンブレラのプロテクトも中々じゃねえか」
「な、何? たった一人であのセキュリティを解いたのか……!」
「くっくっく……さあ反撃の時間だぜ」
『『『『『目標を発見。排除します』』』』』
10体のロボたちが一斉にガトリングガンを発射する。
「があああああああ!?」
逃げ場などないその攻撃に打ちのめされていく。
流石の強化兵士も機械の力には勝てなかった。
「ぐ、まさかそんな手を使ってくるとは……」
やがて力尽きたのか膝を折り、今にも倒れそうな炎のエン。
ここまでやらなくては倒せぬほどの人外ぶりに背筋が凍りそうだった。
「死にたくなきゃ、そこでくたばってな」
「……」
倒しはしたが、僕たちは人を殺しに来たのではない。
もう動けない炎のエンを横目に見ながら僕たちはおっさんたちを探しに行こうとする。
だが―――。
「全く……いつまで遊んでいますの?」
どこから女性の声が聞こえた。
「誰だ……!」
周囲を見渡すが誰もいない。
……誰もいない?
炎のエンはどこへ―――。
『自爆装置が作動しました。職員は直ちに脱出してください。繰り返します……』
「なんだって!」
その時、フロア中に警報音と赤いランプの光がやってきた。
何だか最近こんなの多いな。
「水のスイか……」
気が付けば炎のエンを担ぎ、距離を取られていた。
謎の女性がこちらを見ていた。
「ナロードロイドを10体も相手にするのは流石に骨が折れますわ。このビルもろとも吹き飛ばします」
「ぐ、すまない」
「やはり四天王か!」
どうやらこの自爆タイムは奴の仕業らしい。
「私は四天王の一人水のスイ。ではごきげんよう、下等な人間の皆さま」
「……次は容赦せん」
そう自己紹介と捨て台詞を吐いて一瞬で消えてしまった。
パッと見だが、水のスイとやらも炎のエンと同レベルの兵士に見えた。
今後の戦いも激しくなりそうだ。
「やべーぞ早くおっさんたちと合流するぞ!」
「ええ」
「ああ」
だが、今は考えているヒマは無い。
今も上の階にいるであろう、仲間たちと合流するために僕たちは走り出すのであった。




