その13
一方その頃―――。
「な、なんだぁこ、ここは……!」
「あの時のロボットがたくさんいるぞ!」
おっさんたちと別れた僕たちはしらみつぶしに探索していた。
そして67階でとんでもないものを見つけたのだ。
「これが暮人たちを襲ったっていう?」
「ああ。性能はかなりやべえ。弱点を狙えなきゃ化け物より厄介だ」
そんな代物がざっと10体はあった。
起動していない状態だが、どこか薄気味悪さを感じる。
恐らくこの部屋は兵器の研究室なのだろう。
人は相変わらず見かけないが、荷物は散乱しており慌てて逃げ出したと見える。
「ニューサンブレラへの手がかりを探しましょう」
僕たちは手分けして部屋の中を捜索する。
「こ、こいつは……」
「ぼっちゃん、何か見つけたんですか?」
パソコンを調べていたぼっちゃんがディスプレイの前で唖然としている。
何かと気になり僕も画面を覗いた。
「……っ!」
そこに映っていたのはあの時、洋館地下の研究所でナロウ2、3を殺したあの怪物だった。
「進化する生物兵器……コードネームZか」
ぼっちゃんは次々と研究資料を漁っていく。
「こいつはゾンビ化薬を摂取した人間の突然変異らしい」
「え……あれが、元は人間……?」
まるで怪物としか例えようがない歪で醜悪な姿は人から生まれたものだったのか。
「同じ種の肉を喰らうことでさらなる存在に進化し、傷の再生能力に加え伸縮する腕、素早い移動を可能にする……と」
よくわからないグラフや3Dモデルが画面に映し出されている。
「ん、なんだ? 強化兵士計画? ……っち、こっちはさらにプロテクトが堅いな、まあいい」
一通り目を通し終わったのか、ため息を吐くぼっちゃん。
「よくそんな怪物を倒せたな」
「いや……」
そんな時暮人が素直な疑問をぶつけてきた。
あの地獄での出来事を思い出す。
「あの時は倒しきれなかったんだ……仲間の二人は僕たちを生かして死んでしまった」
「ぼっくん……」
あの時の光景は未だに脳裏から離れない。
横の二人を見る。
もうあの時のようなことは絶対に起こさせない。
「あんま背負い込むなよ若いの」
僕の心を読むかのようにぼっちゃんが声をかけてきた。
まるで長年の付き合いの友人に言われるように、ストンと心が軽くなった。
「大丈夫です。信頼していますから、みんなのこと」
「フッ、暮人、遅れるなよ」
「誰に言ってる」
出会って少ししか経っていない。
だが、確かな絆がここにあった。
その幸せをかみしめながら情報を探していくのであった。
あの後も部屋をくまなく探索したが、あまりいい情報は得られなかった。
別行動をしているおっさんたちはどうなっただろうか。
「そろそろおっさんたちと合流しませんか?」
情報収集が手詰まりな感じがしたのでそう提案してみる。
「そうだな。生物兵器についての詳しいデータは手に入ったが、肝心の基地についての情報が欠片もでてこねえし」
「ケイとおっさんなら何か見つけてそうだ」
二人も賛成してくれたので、その方向で行くことになった。
部屋を出る。
おっさんたちは上の方で探索しているはずだ。
僕たちはエレベーターに乗り込もうとする。
だが、その時だった。
何者かが暮人めがけてナイフを投擲したのを僕は見逃さなかった。
「危ない!」
「え?」
僕は暮人にタックルをかまして一緒に倒れこむ。
ナイフは壁に刺さり、九死に一生を得る。
「躱したか……我が必殺の一撃を」
「誰だテメェ!」
声の主はなんと天井に張り付いていた。
異国ではニンジャという不可思議な術を使う隠密部隊がいるというが、まさにそんな感じだ。
「俺はニューサンブレラ四天王の一人、炎のエンだ」
「ニューサンブレラ四天王だと……ふざけやがって!」
ぼっちゃんが炎のエンに向かって3発ハンドガンを撃つ。
だが、弾の動きが見えているかのように無駄のない動きで躱されてしまう。
「どうした? それだけか?」
「なん……だと……」
まるで顔色一つ変えず、涼しげな表情で立っていた。
本当に人間なのかこいつ。
僕も急いでアサルトライフルの照準を合わせる。
あの身のこなし、ただ者ではない。
もしかしたら加減なんてできない、殺してしまうかもしれないが……!
弾丸の雨を炎のエンへと降らせる。
だが―――。
「笑止!」
信じられないことに炎のエンはアサルトライフルによる攻撃をすべて躱していた。
まるで一瞬で移動しているように見える。
「この程度か?」
「なっ」
次の瞬間、僕の目の前に現れていた。
「ぼっくん!」
「ぬっ」
首を狩られそうになったところを暮人の援護射撃で逃れられた。
「助かったよ」
「ああ、だがどうする?」
「あんなのに構ってられるか。なんとか逃げれねえか?」
三人で相談するも、中々良い手が浮かばない。
万事休すか?
「……そうだ。アレを使えばもしかしたら……」
ぼっちゃんが何かを思いついたのか、耳打ちをしてくる。
その内容は、賭けとしか言いようが無いものだった。
「それは……リスクが大きすぎます!」
「だが、他に方法は思いつかねえ」
「ですが……」
「それで行こう」
あまりの危機感の無さに否定してしまった。
だが、暮人はそれを肯定した。
「暮人……わかっているのか? その方法じゃあ、誰かがあいつの時間稼ぎをしないといけないんだよ」
あまりにも考える時間が無かった暮人の発言に頭を抱えてしまう。
一般人の彼には力量の差など分からないのか。
「なら俺とお前でやればいい」
「……え」
だが、その一言が僕の心を打った。
まるで微塵も死ぬつもりはないという、強い意志を宿した瞳をしていた。
「ぼっちゃん。俺たちの命、お前に預けた」
僕の答えを待たず、暮人はぼっちゃんを行かせようとする。
「……ぼっくん」
ぼっちゃんは僕に確認を取るように名前を呼んできた。
まったく、なんでこんなに信じられるのか。
奇妙な信頼がそこにはあった。
「……分かりました。頼みます、ぼっちゃん」
覚悟は決まった。
後はこのヘビースモーカーに任せるとしよう。
「ああ……死ぬなよ!」
「逃がさぬ!」
「行かせるかあああああぁぁぁ!!!」
「な……!?」
ぼっちゃんを追う為に駆けだした炎のエンを暮人が考えもせず体当たりで止める。
戦士ならば愚の骨頂と言える行為だったが、戦士であり過ぎた奴の虚を突くには十分だった。
「ぐっ。馬鹿かこいつ……!」
「生憎、今期の試験は赤点まみれでね……!」
ニヤリ、と罵倒を一蹴する暮人。
僕も負けてはいられない。
体当たりで吹き飛んだ炎のエンをアサルトライフルで追撃する。
「ちっ」
案の定、当たることは無かった。
だが、不思議と焦りを感じることはない。
「行けるか? ぼっくん」
「行けるさ、僕と君なら」
人生でここまで誰かと一体感を感じたことは無い。
ぼっちゃんが作戦を遂行するまで僕たちは奮闘するのであった。




