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おっさんが異世界でチートする話だったのに  作者: 陰キャきっず
新世界2 サガ・フロム・アビス
55/122

その8

 4階ボスとの死闘の後、俺たちは記憶喪失ボーイとともに地上に帰ってきた。


 とりあえず詳しい事情を聴きたかったのでギルドの一室を借りることにした。


「俺、気が付いたらあそこにいて……さまよっているうちにあの狼と出会っちまったんです」


 いわく、目が覚めたらすでに深淵4階にいたという。

何かの拍子で記憶が抜け落ちてしまった冒険者なのか。


 しかし、ギルド中の人たちに聞いて回っても

彼のことを知っているものは一人もいなかった。


 ステータスプレートも持ってないという。


 ますます不思議だ。


「うーん、あれだけの実力があるんだし、ただ者ではないと思うんだけど」

 

「……」


 彼は不安になっているのか、顔がうつむきがちになる。


 無理もないか。


「どう思う?みんな?」


 一人では分からないのでみんなにも相談する。


「そもそも彼がゲートを通った形跡がないらしいじゃないか。ゲートを通らずに深淵に行くことは不可能だ」


 ぱっくんはまず冷静に状況を分析していた。


「はっ、まさか深淵の底からやってきたとでも言いたいのか?」


「理屈の上ではそうなるね」


 鼻で笑うクレトくんと推論を述べるぱっくん。

だが、可能性としてはそうとしか考えられない。


「キツカちゃんはどう?」


「……深淵の底に人間が住んでるなんて聞いたことは無い。けど……」


「けど?」


 彼女は目を細めて青年を見つめる。


「彼からは私と似た力を感じる」


 キツカちゃんと同じというのは―――。


「彼もサイキックってこと?」


「分からない。ただ、私とは少し違うと、思う」


 なんだか要領を得ない言い方だった。


 手詰まり状態に陥る。


「他に、何か手がかりになりそうなものは持ってない?」


 俺は青年の使っていた武器が気になった。


「ああ、はい。持っていたのはこの光の剣とこれ……」


 彼は持っていた銀の棒と手のひらサイズの四角い板だった。


「これもオーパーツなのかな」


「……さあ、見たこともない」


 知識が豊富なぱっくんやキツカちゃんも知らないようだ。


 ますます謎が深まるばかりだ。


「マホツに聞いてくる」


 そう言ってキツカちゃんは部屋の外へ向かう。


「頼むよ。俺たちも手分けして聞いてみよう」


 二人とも頷いてくれて、それぞれ動き出す。


「ええと、俺、ついて行っていいですか?」


 青年がそう言うので、俺は頷いた。






 もうすっかり日常になったベルの音が聞こえる。

俺と青年はぼっちゃんのお店に来ていた。


「らっしゃいおっさん、と、新顔だな」


 たばこをふかしながら新聞を読んでいたぼっちゃんがこちらを向く。


 新聞を折りたたみ、たばこを消してカウンターから出てきた。


「ええと、実は聞きたいことがあって……」


「あん?聞きたいこと?」


 俺は今までの経緯を説明する。




「なるほどねぇ、深淵で……」


「そうなんです」


「ま、ありえねぇ話じゃねぇな」


「えっ」


 どうやら彼には心当たりがあるようだ。

いったい何者なんだろうぼっちゃんって。


「こう見えても俺はちょっと前までいっぱしの冒険者だったんだよ」


 えっ、そうなんだ。

彼の過去が唐突に明かされる。


「ケガが原因でやめる前は、9階層までいったことあるしな」


「9階!?それって……」


 冒険者の最高到達階が9階になる。

だとしたら、ぼっちゃんはマホツさんと同等かそれ以上の実力者だったということだ。


「昔の話しさ。あの頃は仲間も大勢いたしな」


 ぼっちゃんはどこか遠くを見つめるように語った。


「ま、それはどうでもいいさ。そいつの手がかりは深淵の底にあるかもしれねえ」


「どういうこと?」


「……あるんだよ。9階の先が」


 その言葉に俺は戦慄する。


「9階の先って……」


「10階、だよ」


 何ということだろうか。

公にされている最高到達階のその先へと彼は進んでいたというのだ。


「そこで俺は見たのさ。深淵の底で鎮座してるかのように存在する第二のゲートを」


「第二の……ゲートだって……?」


「そうだ。俺と仲間たちはそれを見つけた。けれど俺たちはその事実をギルドには報告しなかったんだ」


「なぜです?」


「仲間の一人がそれに魅入られるかのようにゲートを起動させ、そして消えていった」


「それからいくら待ってもソイツが戻ってくることはなかった……。あれがどこに繋がっているのか分からない。だがそれに触れちゃいけないってことは仲間も俺も悟ったんだ」


その時を思い出しているのだろう。

そう語る彼の表情はとても真剣な顔をしている。


「俺は……そこからやってきた?」


 青年は自分の手を覗き込んでつぶやく。


「という可能性もあるってことだ。あ、この話は他人にはするなよ。ばれたらタダじゃすまねえぜ」


「……そんな話し、俺たちにして良かったの?」


 いささか良くしすぎてくれている気がする。

たしかに彼とは仲良くなり、長年の友達のような間柄になった。


 けど、それだけでは彼の行為に納得できない。

だって彼のことは短い間だがよくわかっていたから。


「ま、らしくねえよな。俺もそう思う」


「だったら……」


「けど、お前なら良いと思ったんだよ。おっさん」


「えっ……」


「なんでだろうな。他人とは思えねえっていうか、そうするのが自然だと思ったんだよ」


 思っていた以上に友愛を感じてくれているぼっちゃん。

彼の本音を聞いたからだろうか、俺も何故か

彼なら信じられる、彼になら命を懸けられる。そんな思いがこみ上げてくる。


「そっちの兄ちゃん、名前が分かんないんだってな」


「あ、ええ」


「だったら仮の名だけでもつけておこうぜ。行くんだろ?深淵に」


「……はい。自分のことが知りたいですから」


「よし、そうなりゃおっさんのパーティーに入ればいい。な?おっさん」


「ああ、君のような実力者は俺も大歓迎さ」


「ありがとうございます……!」


 彼は深く頭を下げて礼を言った。

未だ謎の多い彼だが、なぜだろうか。

もう心の奥では彼のことを信頼しはじめていた。


「おっさん、お前も感じたろ?あいつと会った時」


 ぼっちゃんはまるで見透かすように俺の心の内を言い当てた。


「そうだね。彼と会った時感じたよ。ああ、助けてあげなきゃってね」


 俺は普段自分のことしか考えてない。

そんな俺があったばかりの小僧を助けるなど自分でも驚いている。


「おっさん……店長さん」


 青年の顔に光が差し込む。

良かった、元気が出てきたようだ。


「さて、名前何がいいかな」


 心機一転、これからのために彼の仮の名を決めよう。

しかし、中々案が固まらない。


「ザマァでよくね?」


「めんどいからそれでいいか」


「ええ……」


 そうして、なんやかんやあって俺たちは彼をザマァと呼ぶことにした。


「これからよろしくザマァくん」


「はい、おっさん」

 

 俺たちはかたい握手を交わす。

湧き上がる暖かい気持ちに俺はどこか頬が緩むのであった。


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