↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
5/10

魔法使いの弟子

 師匠が長文をしゃべっている。

 珍しいことにぽかんとしていると、師匠は部屋の中心を、杖で二回突いた。

 すると部屋に青白い魔法陣が浮かび、次の瞬間、師匠とフィデリス様の姿が光の中に消えていた。


「えっ。き、消えた……?」

「くそっ! 何のための魔塔主かっ」


 魔術師長は額に青筋を浮かべて吐き捨てると、部下を引きつれ去っていった。

 みんながいなくなると、研究室はひんやりと静かになった。

 小さな窓の外を見た。遠くに城の塔の先端が見える。竜が現れた辺境は、きっともっと遠い。

 師匠は、本当に何もせずに、竜に脅かされる人々を見殺しにするのだろうか。



 ***



 それから一週間が経った頃、竜討伐に行っていた魔術師長たちが魔塔に帰ってきた。

 討伐には至らなかったものの、無事竜を退けることは出来たらしく、わたしはそれを聞いて胸を撫でおろした。

 師匠は相変わらず、奥の部屋にこもってばかりいる。


「ベネ、少しいい?」


 ある朝、洗濯物を干し終えたところでマリスに声をかけられた。


「良いけど……どうしたの?」

「ちょっと見てほしいものがあってさ。一緒に来てくれるか?」


 ルカに促され、マリスに腕を組まれ、半ば強制的に連れて行かれる。

 二人とも、妙に顔色が悪いのが気になった。嫌な予感を覚えたけれど、黙って二人についていった先、たどり着いたのは長細く広い部屋だった。真ん中に長いテーブルがあり、いくつか椅子が並んでいる。


 そこにはすでに魔術師長や幹部の魔術師たちが座っていた。


「来たな、魔塔主の世話係」


 魔術師長が、しわだらけの顔をにやりと歪ませた。

 振り返ると、出口をふさぐようにふたりが立っている。


「ルカ、マリス……」


 ルカが震える声で「ごめん」と謝る。


「脅されたんだ。言うことを聞かないと、見習い資格を剥奪するって」

「ベネ、本当にごめんなさい」


 マリスも苦しげに頭を下げる。ふたりは悔しそうに唇を噛み、拳を握っていた。


「……あなたたちのせいじゃないよ」


 ふたりに裏切られたとは思わなかった。

 魔術師長の部下に手を縛られ、わたしは魔術師長を見る。


「それで、私をどうするつもりですか」

「決まっている。餌になってもらおう」


 魔術師長は、すっかり悪人のような顔になって続ける。


「お前を使って魔塔主を呼び出す。長生きなだけで魔塔のために何もしないあの男に、引導を渡すのだ。魔塔主の座を退いてもらおう」


 ふはははは、と笑いながら魔術師長は魔塔主を呼んでくるよう部下に命じた。

 しばらくは余裕の表情をしていたけれど、日が完全に昇りきっても部下は戻らず、師匠は現れなかった。


 誰かのお腹がぐぅと鳴る。ちなみにわたしのお腹は鳴りっぱなしだ。

 魔術師長の顔が次第に赤くなっていった。


「なぜ来ない⁉」

「師匠は来ないと思いますよ」


 わたしがそう言うと、魔術師長は「黙れ!」と更に怒り出す。


「弟子の身が危ないのに、動かないわけが――」

「わたしはまだ弟子として認められていませんし、師匠は私が拘束されていると知っても、動じないと思います」


 魔法も仕えない弟子なんて、師匠にとっては大した存在じゃないだろう。

 いなくなっても困らない、いくらでも替えがきく。きっとわたしは師匠にとって、そういう取るに取らない存在だ。

 彼が見捨てた、辺境の人々と変わらない。


 魔術師長が何か言おうとしたとき、会議室の扉がひとりでに、勢いよく開いた。



「え……」


 信じられないことに、師匠がそこにいた。

 心底うんざりしたような顔をしているけれど、確かに師匠だ。


「……来て、くださったんですか」


 師匠はわたしをちらりと見て、縛られていることに気づいたのか顔をしかめた。

 灰色の目が、静かに魔術師長をとらえる。


「言いたいことがあるなら聞こう」


 魔術師長は一瞬怯んだが、声を張った。


「大魔法使いアルティウォルスよ、魔塔主の座を退け! お前は塔のために何もしない! 会議にも出ない、竜討伐にも応じない! 長生きなだけの魔法使いが、名ばかりの塔主として居座っている!」


 幹部たちが「そうだ!」「その通りだ!」と魔術師長を援護する。

 師匠がじろりと彼らを見ると、一斉に沈黙した。


「……良いだろう」


 師匠はうなずくと、珍しく微笑んだ。


「……は?」


 素っ頓狂な声をあげる魔術師長。わたしもたぶん、同じ気持ちだ。


「これでようやく隠居が出来る」


 どこか解放感に満ちた声音に、魔術師長が固まった。部下も、わたしも固まった。

 この人、本気で言ってるんだろうか?

「ただし」と師匠が続ける。


「ベネを解放しなさい。それは私の弟子だ。手荒な真似をするな」


 私の弟子。

 確かに、間違いなく聞こえた。私の弟子、と。


「……弟子、なんですか? わたし、師匠の弟子なんですか?」


 師匠はわたしを見て「なぜ驚く」と不可解そうな顔をする。


「だって、弟子にしてやるとは言われていないから。まだ認められていないんだとばかり……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。