上中下の下
まぁ他にも、原因は解ってるしどういうことかも解るし、でも「不思議だなあ!」と思えた体験はあるけど、大きい話はこれくらいだ。あとは本当に人に聞いてもらって「で、それが?」て話しかないから言ったって仕方がないけどさ、
お前、こんな話聞いて、どうすんだ。
お前さ、さっきから何度も、キッと後ろを向くよな。
俺が先にここに来て、お前がやってくるのを見ていたときもそれをやっていた。
何もないのに、なんか聞こえるんだろ、とても無視できない音が。
正真正銘、誰が聞いても怖いと思わない話をしてやるよ。
もう何年も前、二十年くらい前かな?夜布団に寝ていると、
俺の母親の声が聞こえるんだよ。
その声ってのが温泉で聞いたお湯の音みたいに、ちゃんとした音声でなくてな、抑揚とか勢いとかよく言っていた言葉の感じでな、何を言っているのか集中して聞こうとすると頭がおかしくなっちまいそうなんだが、まぁ聞いていて、脳の聴覚部位に声が染みていて、それが再生されていると思ったんだよ。
別に怒られたり叱られている口調じゃないから(あぁ、聞こえるなー)って聞き流していたんだけどな、
その後、村上春樹の「風の歌を聴け」を読んだら、小指のない女の子が、寝ていると大勢から酷いことを言われる声が聞こえるって書かれていてな、
で、村上春樹研究本を読んでいたら、それって統合失調症の初期症状の一つだって書かれていてさ、
あぁ、あのとき俺はちょっとヤバかったのかと思ったんだよ。
母親の声も宴会場の歓声も心地よかったから聞き流したし、はっきり聞き取ろうとしたら頭がグラグラしてヤバくなりかけたしで、深く考えずに済んだから大丈夫だっただけで、気のせいとか、たまたまとか、勘違いとか、偶然とか、そういうものを突き詰めなかったから良かったんだろうな。
お前、大丈夫か?




