第一章 第五話 第一章完
第五話
カレ、サラに連れられるがまま歩いていると、
すすりような泣く声が聞こえた気がした。
「なにか声が聞こえなかったか?」
のぶながも言ったので間違いないだろう。
「あ、あそこだ あの子供だ」
と俺は指をさす。
服も破れ、髪は長く、
顔も体も汚れていた子供が立っていた。
「ひっく ひっく おなかすいた…」
子供はこちらを向いて立っている。
俺は初めての状況をだったが、
なぜか体が勝手に動いた。
「サラ ナイフはあるか?」
「ええ、あるけど 」
ありがとうと言い、ナイフを受け取る。
「そんなにお腹が空いているのか…これ、食べられるかい?」
俺は打たれていないほうの腕でナイフを握り、
お腹の肉を削ぎ取った。
「おいしくないけどこれでもお食べ」
子供に収穫した肉を小さくちぎって渡した。
「はむ … ん…ちょっと辛くて苦い…」
といいつつ全部子供は平らげた。
「え…?辛い?苦い?」
俺はサラにナイフを返す。
「デルタ!あなたの事収穫していいかしら?」
と聞きながらナイフを納刀するサラ。
「あ、ああ。ちょうど今日は収穫日だ。
あ、首から上は止めてくれ」
とりあえず手に持つ残った肉を差し出した。
「ここではやらないわ。三人とも、私についてきて」
俺達は黙ってサラについていった。
5分ほど歩くと、通路の先にはドアがあった。
どうやらそこに入るようだ。
扉を開けると、生活感のある部屋の空間が広がっていた。
「ここは私の部屋。ちょっとそこらへんに座って待ってて。
10分 いや 7分ちょうだい」
そう言ってさらにさらに奥の扉にサラは消えていった。
俺の心臓の鼓動が耳に聞こえる。
走ったからだろうか。
それとも何かの病気だろうか。
部屋がシーンと静まり返る、
耐えきれないのかのぶながが声を発した。
「お、おい いきなり連れていかれたけど大丈夫なのか?」
意外にも不安そうだ。
「ま、まあ大丈夫なんじゃないのか?」
俺は全く当てのない回答をした。
そしてどうしていいか分からずぼーっと立って待っていた。
「あの子も人工胎盤から産まれたんだろうか…」
のぶながに尋ねるが、彼は手を広げてわかりませんポーズをする。
「人間も、俺たちみたいにどこかの施設で作られるのかな?」
さーなー、とのぶながはこの話には興味がないようだ。
「ごめん おまたせ」
カレはなにやら両手に皿を持って帰ってきた。
とてもいい匂いがする。
「デルタ…だっけ?君はのお肉を使って料理作ったわよ!さあ、食べて!」
三人分持ってきてくれた。
いや皿の数は4枚だ。
「わぁーおいしそー!いただきます」
子供はがつがつと食べ始めた。
「お、おいひ~~」
というので二人で顔を合わせて俺たちも食べることにした。
「うま!」/「うっま!」
声をそろえていった。
「当たり前でしょ 私料理人って言ったわよね?」
その言葉を最後にみんな黙って口に運ぶ。
物の5分で平らげた。
食べ終わった後、子供は立ち上がり深々と頭を下げた。
「しょくにんさん おねーさん ありがとう!とってもおいしかった!」
子供はにっこにこの笑顔でお礼を言う。
「え、そ、そうか?そんなに美味しかったか?」
ん? なんだろう 胸のじんじんする。いったいなんだ?
「どういたしまして! 向こうにお風呂があるから一緒に入ろっか」
とサラは言った。
「それは良い、俺たちも走って汗かいたから風呂入りたい。
俺は腕がなくて不便だから、のぶなが、お前が子供を洗ってくれ」
と俺が立ち上がる。
「お風呂はどこだ」
「はぁ?女同士のお風呂なのよ?
男子禁制に決まってんでしょ! ささ、いこう」
怒って行ってしまった。
「女…なにそれ?聞いたことある?」
のぶながが聞いてきた。
「わからん!男子禁制ってお前知ってるか?」
なにか人間としょくにんを区別するための言葉かだろうか。
俺達は再びぼーっとしながら、
二人がお風呂から上がるのを待った。
はっとした顔でのぶながが自分の身体を触り始める。
「あ、しまった!この本持ってきてしまったぜ…」
のぶながは服の中から真っ赤な表紙の本を取り出した。
「あーあ、マナミさんが「「のぶながー!」」と言いながら怒る顔が目に浮かぶ…」
お前、ちゃんと返さないとヤバイぞ。
お風呂上りに皆で雑談をした。
「答えたくないことかもしれないけど、両親や家は?」
とサラは子供に聞いた。
「パパとママ、仕事行くって言ってからもう一週間も帰ってこない。
家も追い出されちゃった」
子供の目は潤んでいた。
「そう…大変だったわね。あ、名前まだ聞いていなかったわね」
「私はユキ」
ユキと名乗った子供は、
さっきまでのボロボロで汚れている姿とは打って変わった。
しょくにん顔負けのぶかぶかのシャツを着て、
腰まで伸びているその髪はとても細かく、唐揚げのような色をしている。
「のぶなが!雪だって!お前の願い早速一つ叶ったな」
「ユキじゃねぇ 雪だ 俺が見たいのは」
「いや、冬に振るじゃん雪」
「あんなもんじゃねぇんだ 俺が見たいユキはさ…」
「あんたたちちょっとウルサい」
すみませんと、首根っこを捕まれた子犬のように縮こまる。
「ねえユキちゃん しばらく私の家に泊まる?
お金とかは気にしないで、私外しょくの人間だから」
ユキと名乗る子供は黙って小さく頷いた。
「あんたたち、さっき今日は収穫日と言ったわね?
収穫するから一人ずつ奥の部屋に来なさい。
待っている人は寝床作って」
とんとんと、のぶながから肩を叩かれる。
「なあデルタ あいつ 資料室のマナミさんよりおっかないんじゃね?」
「のぶなが!まずはあんたから!早く来なさい!」
はっはい! といい彼は奥の部屋に消えていった。
あとからサラに聞いた話だが、
財団の根本としては戦争難民の救済のようで、
その一環としての活動らしい。
「しょくにんのデルタさん。とってもおいしかった。ありがとう」
ユキは再び深々と頭を下げた。
「いや、料理をしたのはカレだ、カレに言ってくれ」
俺達の生肉はさぞかし美味しくないだろう。
「わたしね?もうダメかと思った」
ユキのその無邪気の顔を見ていたら。
「いいんだよ 人間の命を救えて、これはしょくにん冥利に尽きる」
ん? 使い方合っているよな?
再び胸がじんじんしてきた。
何かの病気だろうか?
でも全く悪い気はしない。
うれしい うれしかったのか?おれは食べられて?
明確に認知はしていないが、
デルタは今日産まれて初めて、
「食べられる喜び」を知ったのであった。
そして、しょくにんに禁じられた知識のうちの1つ、
性別 という概念に触れた初めての日であった。
のぶながが寝る前に話しかけてきた。
「なあナナ いや、デルタ。
なんでデルタって名前にしたんだよ?」
「おにぎりは三角だろ?だからだよ」
「はぁ?おまえは 外に出てもお前のままだな」
「そういうおまえも外に出てものぶながのままじゃないか」
なんてことない、いつもの会話だ。
第一章 完




