第一章 第四話
第四話
ダクトからゲートまでは数十メートル。
「外だぁぁぁぁ うおーーーー」
高揚感は自然と叫びに変わる。
「のぶなが 左を見ろ!
あれが地下への入り口だ あそこから元都庁の方面につながっている」
「わかったー!」
俺達は施設のゲートを突破する。
そして、地下への入り口まで残り50mを切ったところで破裂音が聞こえた。
その瞬間の身体のバランスが崩れて転んでしまった。
「へたくそ~ 肩じゃねえ首だよ首!」
「すいやせん ヘンな走り方だったので狙いづらくて」
どこからか声が聞こえた。
「おい787!大丈夫か!!」
「大丈夫、肩だけだ」
首から下はほとんど痛覚はない、
時間はかかるが再生するのでそこまで対したことはない。
「はやく走って!」
その声とともにまた破裂音が聞こえた。
「うおぉぉぉ」
という声を上げながら走った。
見事二人は階段を転げ落ちたが、
幸い頭部へのダメージはなかった。
「ふふっ外の世界へようこそ。しょくにんさん達」
そうして差し出された手を握って、
初めて地下の大地を踏みしめた。
温度をほとんど感じることができないはずのこの手だが、
握りしめた手はとても暖かく感じた。
これは記憶だ、思い出の補正という物。
それでもやはり、その時は暖かく感じたはずなんだ。
この日は俺たちの日常が変わった日だ。
あいつと同じ足取りで外の世界へ飛び出した。
だが、俺達の走る道は、すでにこの時から違っていた。
だがそれは、今の俺たちにはわからなかった。
いや、わかるはずがなかったんだ
歩く足音がコツコツと反響する。
なんとなく地下と聞くとじめっとしていて、
空気が悪くて不潔そうなイメージがあった。
「ここが、地下なのか…」
素直に言うととても綺麗な場所だ。
言い方を変えると、施設内と大して変わらない所だった。
そして、ここでも音は反響する。
だが、それでも聞こえてくる音は違う。
高い声、低い声、笑い声 様々な音が耳に入る。
外の世界はこんなにもやかましいのか…
「ついてきて」
手助けしてくれた赤い長い髪の毛のカレは、歩きだした。
資料室のマナミさんの髪の色より少し濃い赤だ。
特に警戒もせずにのぶながが口を開いた。
「助かったよ、ありがとう。
俺はのぶなが、ところでさっき撃ってきたのは誰だ?」
あ、やっぱり外でもこいつは のぶなが と名乗るのか。
「私は小月サラ。外しょくに所属している。そして料理人もやっている。
あいつらは自称しょくにんハンター、ただの盗賊よ」
「がいしょく?」
と聞こうとしたがのぶながの声でかき消された。
「なぜ、あいつらは追ってこなかったんだ」
あれ?それは俺はのぶながに伝えたと思っていた。
「言ってなかったか?日本の地下と地上では法が変わって、
地下では銃刀法が適用されている」
のぶながは銃刀法?と聞く。
「地下と、地上のエリア外にいるしょくにんに関しては、
施設の監督権限から外れるらしい」
「なるほど、だからお前は地下を目指すと言ったのか」
そういうことだ。
「ちなみに、盗賊はどこにでもいるのか?」
質問の多いやつだ。俺にも喋らせてほしい。
「ハンターは施設周辺以外で見かけることはかなり少ないかなぁ」
「そうまでして俺たちを食べたいのか?」
ようやく俺の声が通る。
「彼らの狙いは頭部だけよ。闇市で物凄い高く売れるの、だからあなたたちのように
家出するしょくにんを狙っているのよ」
のぶながはこう言った。
「俺たちは家出じゃねえ 脱走だ」
サラは「はいはい」と聞き流した。
「ところでそっちのマッシュな髪型のお仲間さん、あなたは?」
「俺は ナナ…」
無意識に言葉が詰まる。
「 いや デルタだ」
ためらいなく施設での生活と名前を捨てた。
「デルタ…変わった名前ね。
外しょくってのは言いやすいから略しているだけなんだけど、
正式名称はエリア外しょくにん保護財団というの」
しょくにんを保護するということか?
「ようは、あなた達のように施設から家出したしょくにんや難民を保護している団体よ」
「へぇ」/「へぇ」
俺達は同じリアクションをしてしまった。
「東京にいる財団はほとんど地下にしかいないわ。
ハンターやらなんやらに、
恨みを買われて、外で活動してたら殺されちゃうもの」
複雑なんだな、外の世界は。
「そこまでの事は全く持って知らなかった。
ということは家出をするしょくにんは一定層いるんだな」
「ちっ リスク犯して脱走しても結局監視の目があんのかよ」
のぶながは険しい顔をしている。
「そうは言うけど、あなたたちは人質としても商品としても価値が高すぎるのよ」
ため息をつきながらサラは答えた。
「とりあえず憧れの外の世界には出れた。でも疲れた。どっか宿を知らないか?」
のぶながはもうその手の話には興味が無いようだ。
サラは振り返り立ち止まった。
「あなたたちお金持ってるわけ?」
ふっふっふとのぶながは笑う。
「官兵衛は抜かりない」
手持ちの財布を広げた。
かんべえかひでよし そろそろ統一してくれ。
「かんべえ? それだけあればしばらくは大丈夫ね。なんてね、まあ案内するわ」
サラは再び歩き始めた。
「それにしてもこのお金が使えてよかった…」
ほっと安心し。
「は?どういうことだ?」
不思議そうにいうのぶなが。
「いや、俺たちが持っているお金、外の世界でも使えるかどうかわからなかった
しょくにんや、下手したら施設内だけしか通用しない通貨かもしれないだろ?」
「たしかに」
「そこは安心してもらっていいわ 保護法も適応されるし、
あななたちは宿代も食事代も必要ない 私たち財団も保障するもの」
さらっとサラは答えた。
「よかったなのぶなが 俺たちはとても守られているようだ」
「金は払うさ ちっなんか納得いかねぇな」
のぶながは再びムッとした顔になった。




