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食物人間 -しょくにん-  作者: 弦陸 流音
第三章 悪と正義
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第三章 第六話


第六話


サラから聞いた事を、

まだ理解できていなかった。


「それは俺ものぶながもロージーもみんなってことか?」


「ん~え~とつまりね?しょくにんは生殖器を持たない。

あ、そうだ、ユキには刺激が強いかもしれないけど…

良い勉強よ?二人ともこの画像を見て」


サラが見せた画像は服を着ていない男女の姿だった。

俺や、のぶながと少し違う。


「さ、サラ、これが人間の男女の身体なのか!?」

「ええそうよ、そしてデルタ、あなたは服を脱いで」


俺は躊躇なく服を脱いだ。


未だに服を着る意味はわからない。

収穫の際にサラにも何度も見られている。


だが、ユキはその場に立ち会ったこともがない。

言ってしまえば、俺は人間の身体を直接見たことは一度もない。


「え、しょくにんてこんな身体をしているの?私初めて見たわ…」


ユキは俺のモモの方を見て目を丸くさせていた。


サラからは「ユキの前では絶対に服を着て頂戴」と

俺ものぶながも口を酸っぱくして言われていたので、

初めて見るのもうなずける。


「そうよ、しょくにんにも男女の性別はあるけど、

全く同じ身体をしているわ。身長もほぼ同じぐらい」


それを意味するのはつまり 。


「俺たちは全て設計されて産まれてきたって事か」


「ま、私も最低限の知識しかないのだけど、そういう事よ」


本当に人間の食料として産まれてきているのか俺たちは。


その事実を知ったとき、デルタは真理への探求心が目覚めたのである。


サラは講義をつづけた。


「しょくにんの排尿、排便の構造はほぼ女性の身体と同じよ。

ただ生殖器がないの」


「つまり、俺たちしょくにんは男女問わず、生殖器を持たないため、

子供を産めない。子孫を残せないという事か」


「そうよ、あなたたちは人工的に作られて産まれてくる。親は人間。

体外受精をして人工胎盤の段階でしょくにんに改造されて誕生するの」


「生まれながら食料としての産まれてくる人間ってことか」


なんでだろう。実に心が晴れた気分だ。

体が軽くなったように感じた。


「第一世代のしょくにんも、

形こそ残っている物の生殖機能は失われていると聞いているわ」


第一世代は確か人間として成長した個体をしょくにんに変えたという奴か。


「しかし考えたこともなかった。

夫婦となった人間は子供を自然ともらう物だと思っていた。

だってユキは俺たちの子供のようなモノじゃないか。」


「え、デルくんは私の兄でしょ?」


ユキがようやく喋ってくれた気がする。


「いやいや、かわいい子供だ。な、サラ?」

「ま、まあユキはもう娘としか思えないのは確かだけど」


「という事は、サラとデルタって夫婦なの?」


「えっ?」

と二人は同時にお互いを見た。


「サラ、俺にとって君は…なんなのだろうか」


いつもそばにいて共に生活をし、

だがのぶながともしてきたことだ。


「友?とはすこし違う気がする。

家族?いやそれは当たり前のことだが」


俺たちの関係はいったい…


「ふ、その答えにたどり着けないようじゃ、

まだまだユキの父を語るのは無理ね」


なんてことない。いつもの私たちの会話だ。


「ユキ、あなたにも、もっとちゃんと教えてあげるから、

一緒に学んでいこうね?」

「うん」


そして3人はすっかり冷めてしまった食事を口にした。


「ちょっと温めてくるわね」



さっきまで難しそうな顔をしていた彼女の顔は、

いつも通りの顔になっていた。


その時の俺にはそう見えたんだ。


しょくにんは食料として生き、食料として人間を支える。

そして人から与えられて、与える。

美しい輪だ。


今日、2つ目のしょくにんの禁じられた知識、

性の知識を初めて得たデルタ。


その日を境に 彼の 探求心 が異常なほど大きく膨れた。



土曜日の朝9時、朝食を終え片付けていた。


「サラ、ここら辺にも資料室ってあるのか?」


「資料室?ああわかった、地下図書館ならあるわよ」


「図書の館ってことか、それはぜひ行ってみたい。

連れて行ってくれないか?」


「いいわ、ユキはどうする?」

「私も子供の時以来行っていないから行きたい!宿題持っていこっと」


今日は3人で図書館へ出かけることにした。


「すごい、地下デパの本屋より本が多い!」


これが読み放題だというのか!?

もっと早く知りたかった。


「もっと早く教えてあげればよかったわね、

図書館という存在すら忘れていたわ」


私も何年活字に触れていないんだろうか。

と思うサラだった。


「ところで何か調べたいものでもあるの?」


ライトノベルというジャンルの小説を手に持つサラが聞いてきた。


「ん~なんとなくしょくにんの産まれた意味を知りたいというか、

直近の歴史を知りたいんだ」


第三次世界大戦から現在までの歴史を知りたいと思った。

しょくにんが産まれるきっかけとなったからだ。


「のぶながが居れば、

彼は歴史が好きだからとても楽しみながら調べられたんだがな」


なんなら歴史に関してはのぶながから教えてもらった知識の方が多いかもしれない。


「歴史の授業だけは寝ている所を見ていないんだ。」


「え、じゃあさ、のぶのぶの方がテストの点数良かったの?」


そうか、ユキには言った事なかったか。


「俺たちは授業はあるが、テストは無いんだ。

成績と言う制度すらもない」


なんで授業はあったんだろうな、

やはり最低限のコミュニケーションとして必要なのだろうか。


「え~テストも成績もないとかずるい!」


文学小説を読みながら、隣でブーブー言うユキ。


「俺たちは一生を施設で過ごす。

進路もなければノルマもない。趣味や興味の範囲に過ぎないんだ」


「でも寝てても怒られないんでしょ?」


「もちろん、俺は授業が好きだった。

本だけでは理解できない色んな事を知れた。」


なぜテストが無いのか、

のぶながのような授業をまともに受けていないやつが怒られないのか。


”競う” という文化が存在しない。



デルタがその理由を知るのはもう少し先の話だ。



それからという物、俺は家ではインターネットを利用して、

休みの日には図書館を利用して、知識を深めた。


インターネットだけで代用できるかと思われたが、

いかんせんインターネットには情報が多すぎて選定が難しい。


一方図書館は、本のタイトル で何のことが書いてあるかわかるから、

必要な項目について学びやすい。


広く浅く図書館で知識を得て、

ニッチな情報をインターネットで学ぶという習慣が落ち着いた。


俺は自分の得た知識を反復練習するかのように、

要点をつまんでユキとサラに教えることが日課になった。


「のぶながが戦国時代を中心に、

歴史全般が好きな気持ちがわかった。」


歴史には何かが起きるトリガーが必ずある。


「デル君はどの歴史が一番好き?」

「それはもちろん…戦国時代だ」


散々のぶながが教えてくれたから好きというより当たり前の知識になっている。


「私もそうかな、散々のぶのぶに教えられたことが、

ようやく授業で出てきたとき、あ~知ってる知ってるって」


まあ日頃ユキのテストは高得点だ。

特別な思い入れ、というやつだろう。


「知識や興味のきっかけは些細なことが多いわよね、

私も同じような経験があるわ」


「俺ものぶながや石川さんから聞いた話がきっかけで興味を持ったことが多い」


ま、のぶながは全く俺の話には耳を傾けなかったが。


「そういえば今度あの3人たちとチェスで勝負することになったから、

デルくん特訓しよ!」


ユキ、君のコミュニケーション能力はのぶなが以上だ。


なんだかんだユキは俺たち3人から影響を受けているのだろう。

うれしく感じるこの気持ちは何だろうか。


そんな事を話しつつユキの口車に乗せられてチェスに付き合う俺だった。


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