第一章 第二話
第二話
朝食を食べていると隣のテーブルから話が聞こえてきた。
「なあ知ってるか? R-100番台の誰かが家出したらしいぜ」
「まじかよ どうなったんだ?」
「それがハンターに頭部を取られた状態で発見されたらしい」
「首から下だったら助かったのにな…外は恐ろしいな…」
朝から物騒な話を聞いてしまった。
当然隣でのぶながもその話を聞いていた。
自室に戻って資料室から借りてきたドラマを見ることにした。
すると、見ている最中にも関わらずのぶながが声をかけてきた。
「なあ787、今日の話聞いていただろ?」
「明日の定期身体測定の話?」
「おいおい、脱走以外何があるんだよ!」
「あぁ家出の話かぁ 恐ろしい話だよなぁ」
「家出じゃねえ 脱走だよ脱走!」
また突拍子しもないことを言い始めた…
「のぶなが 聞いただろ?きっと脳を食べられたんだ。
首より上をやられたら終わりだ」
お前は自覚しているのか?
「俺たちは身体はすごいよな!」
はぁ きっとこの男に何を言ってもダメなんだと思った。
「787、本題だが、一緒に脱走しよう」
「将軍、この要塞の攻略計画でもあるのですか」
のぶながは自信満々な笑みを浮かべて喋り出した。
「とても勤勉な787よ、作戦参謀であるお前次第だ。
働きによっては我がかんべえの名をくれてやろう」
俺かよ。
「いや、遠慮しとくよ将軍」
「そんなこと言うな、ひでよしにしとくか?」
「そうじゃない 俺は自分の名前は自分で決めるんだ」
「ということは脱走に加担してくれるということだな?」
しまった、論点がずれた。
「…まぁ… 作戦を考えるぐらいなら手伝ってもいいか」
「787よ。いや、ひでよし よ、我と一緒に美しい世界を見ようぞ」
「だから脱走するとは言ってないだろ?」
やれやれ 大変なことに足を突っ込んでしまった。
そんなこと言いながらも見る予定だったドラマを返して、
脱走計画を練ることにした。
廊下にあるダクト、このダクトはどこまで繋がっているんだろうか。
俺は資料室に建物の図面が無いか探した。
「あるわけないよな」
そりゃそうだろう。
まあこうなったらダメもとで聞いてみるか。
俺は通路でいつものように本を読みながら、
職務を全うしている無精ひげのカレに聞いてみることにした。
「やあ石川さん、突然なんだけど火災が起きたときの煙の回りかたをシミュレートしたい、
見取り図とかあるのか?」
顔を上げたカレは俺を見るなり本を閉じた。
「やあ787、今日はのぶながはいないのか」
「あいつは今、俺が与えた詰将棋の試練に苦戦している」
そうかそうかと石川さんは言う。
「見取り図か、いいだろう、後で届けてやる」
「ほんとか!ありがとう石川さん」
聞いてみるものだ、
石川さんは有無を言わずして地図をくれた。
館内の見取り図を眺めて思い付いたことがある。
ある程度の作戦を立てたのでのぶながに伝えることにした。
のぶながの部屋のドアを開ける。
「将軍、私が考えた作戦を伝達いたします。」
将棋盤と睨めっこしているのぶながが血相変えて顔を上げた。
「お!待ってました。羽柴公」
「そこは豊臣でも官兵衛でもないんだな。まあいいや」
作戦はこうだ。
居住棟→収穫棟に向かう通路に外に通じるダクトがある。
そこを通りBゲート付近からでる。
あそこの警備は手薄に思える。
そこから先は運だ。
元都庁に通じる地下道があるはずなのでそこまでいけば大丈夫だろう。
ただ地下はマップに映らないのでどんな場所かわからない。
「いちおうダクトのねじが外れるか、
そして中から開けられるかチェックしたが、
そこは問題なかった」
前に工作をするのに石川さんから工作セットを貰ったことがある。
あの人はなんだってくれるな。大丈夫なのだろうか。
「抜かりなしだな。 よし!明後日収穫の日だからそこで決行するぞ」
まったく、家出するという本人は無策じゃないか。
「まて将軍、警備が問題ないか一度見てから決行しよう」
「ん~待ち遠しいがしょうがない。わかった」
「それにだ、懸念事項もある」
懸念事項?とのぶながは首をかしげる。
いかん、そろそろのぶながの頭が限界か?
「一つ目は、俺たちの食料がないこと」
俺は人差し指をたてる。
「二つ目、栄養剤を飲まなくなった場合体に起こる変化を確かめたい」
中指を立てた。
「そして三つ目、俺たちがしょくにんを食べた場合の身体に起こる変化を確かめたい」
薬指を立てた、この三つだ。
うーんと考えるのぶながだが、彼は口を開いた。
「一つ目二つ目はわかった。ただ三つ目はなぜに必要なんだよ?」
良い質問だ。
「理由は二つある。
一つ目は外に出るとほぼ間違いなくどこかでしょくにんの素材の飯を食べるからだ」
ほほう、と彼は手を打った。
「そして二つ目、俺たちが食糧難になったとき、
お互いを食べれるからだ」
「なるほど…俺一人で突っ走ってたら、
やばいことになった気がしてきた…」
やれやれ、仮に脱走してもこいつは一人で生きていけるのか?
そんなのぶながの心配を少しだけして、
今回の収穫は様子見することにした。
それから身体に起こる変化を確かめるべく、
栄養剤を摂取せずに食べ物だけを食べることにした。
次の収穫が来たら今度はお互いの身体を食べることで、
様子見するようにした。
「おい、栄養剤どうやって処理したんだよ」
「トイレに流した」
たったそれだけのことだ。
そして収穫日、今回の収穫は夜だ。
俺達は移動の列に紛れながらダクトの前に立つ。
ドライバーで開けて30秒ほど隠れる。
特に警報がなったりする様子はなかった。
「このまま行けるんじゃね?」
行けるわけないだろ。
そんなのぶながを無視して、
警備の配置を確認する。
手薄なのはやはり外だ。
そして建物間の連絡通路は当然警備が厳重だと感じた。
「のぶながよ、今回の視察、大成功だ」
「787、じゃあいよいよこの施設ともおさらばとなるわけだ。
名残惜しいな」
どの口が言うのだ。
「787、別れる準備しておけよ」
俺も行くとは言っていないだろ。
そんな会話をして収穫待ちの列に俺たちは戻った。
のぶながは俺のほうを見るなりピースをする。
のんきなものだ。緊張感がない。
まだ安心するのは早いんだ。
俺たちは二日間栄養剤を飲んでいない。
「これが検査にどう影響するか…」
栄養剤の接種を断ったのは定期検診後だ。
今のところ全く身に変化は感じない。
のぶながも体調は良好とのことだ。
そんなのぶながが隣に並んだ。
カレが小声でささやく。
「今日の検査をパスしたら次のステップだな」
「気が早いな」
と返す。
「お前は栄養剤を摂取しないことによる再生能力の影響、
これを観察したいと言っていたな」
後は、俺は付け足す。
「お互いの身体を食べることでの影響だ」
そうそうそれそれ。とのぶながが指を指す。
「ああできれば別々で実験したいところだが、
次回の検査で怪しまれると脱走に支障がでるかもしれない」
少々リスクは高いが
「だから両方試して身体の影響を確かめるしかない」
「俺もそう思う」
収穫直前の検査で良判定がでた。
この判定により、次のステップへ移行が確定した。
勿論のぶながもだ。
そして収穫を終えて、二人は自室に戻った。
「あ~すっきりした」
のぶながは腹減った~とのんきなことを言っている。
収穫が終わると身体が軽くなる。
それもそうだろう 80kg近くある身体が50kg代になるのだから。
身体が軽くなるせいか、口元のブレーキも緩むようだ。
「787、お前も脱走してくれるのか?」
彼には正直な気持ちを話そう。
「脱走計画を進めるにつれ、
実は秘かにわくわくしている俺がいる。だがとても迷っている」
「迷ってる?」
今日のランチはカレーか。
俺達はカレーを受け取り並んで座った。
「この施設にいて不都合はない。
労働もしてるので賃金ももらえる。
そうすれば購買で好きなものを買うことができる。
正直不満は感じていない はず なんだ。」
そう、はず でいる。
「だが、のぶながの外に憧れる姿を見て俺も心を動かされつつある。
このお金が当面問題ないだろう。ただ、その先のビジョンが見えない。
それこそただの家出になるかもしれない」
のぶながはスプーンを置いて、
俺の肩をポンと叩く。
「まあ無理強いはしないさ。
その日までじっくり決めてもいいし、あとからこっちに来てもいい。」
うん と答えるしかなかった。
俺達は食堂を去り自室に戻る。
戻ってベッドで寝転がると、
のぶながが部屋に入ってきた。
「なあ787、ちなみになんで地下を目指すんだよ」
俺はもう寝たいんだが。
「石川さんから聞いたことがあるんだ。
とにかく、地下へ行けば安全ってことだ」
「まあ、お前が言うならそれでいいか」
寝るぞ、と言い俺は寝た。




