第一章 第一話
「是非に及ばず」 … 織田信長
核戦争となった第三次世界大戦、
だが、戦火とは釣り合わず、あまりにも多くの人間が生き残った。
そんな人類は、史上最大の食糧難に直面した。
食糧難を解決すべく、人間の身体のDNAや細胞を変え、
人間を食料として食べられるように養育することが可能となった。
そんな食べられる人間を 食物人間 と呼んだ
略して通称 しょくにん という言葉が世間に定着した。
こんな事を書かれた本を開く。
俺達の日常が壊れたのはいつだ。
あの施設を出たからか?
あの時の俺はそんなこと思いもしなかった。
ため息、後悔、生きる理由。
全てがわからなくなった。
あれは…いつからだ。
俺達しょくにんには、
3つの禁じられた知識があると。
彼女が俺達に言った時からだろうか。
それを聞いた俺は、どこまでも俺達はしょくにんなんだと思った。
だが、これを聞いたあいつも、どこまでもしょくにんなのだと言った。
お前は一体、この世界に何を感じたんだ。
教えてくれないか。
俺はそう願って本を閉じた。
第一章 自由と出会い
第一話
トーキョーエリア シンジュク 11:00
「ブロックAの収穫を開始せよ」
館内に響く放送を聞いて、
俺は収穫の準備のために洗浄エリアに向かった。
「A-R-701から900 まで 先に洗浄を済ませてください。」
案内されるがまま、俺は洗浄エリアのコンベアに乗った。
当たり前の日常だ。
「A-R-787、バイタルチェックOKです」
俺の番号を呼ばれた。
今回も収穫されるようだ。
洗浄を済ませると乾燥エリアに向かうコンベアに乗った。
「それでは A-R-701から800まで、
順次空いている収穫台の使用をお願いします」
一番手前の収穫台が開いていたのでそこに乗った。
「収穫されるのは何度目なのだろうか」
だがこれも当たり前の日常だ。
この身体は収穫されてから元の身体に戻るまで、
おおよそ2週間もあれば元に戻る。
収穫時に痛みは無いものの、
物心がついたばかりの時は恐怖と憂鬱で仕方がなかった。
「あとは左足だけか、あっという間だな」
収穫は、両腕、両脚、身体の肉をそぎ落とす。
切られても痛みもなければ血も出ない。
これは俺がしょくにんである何よりの証拠だ。
「A-R-787 ご苦労様でした。 今回の収穫はおしまいです。」
お腹が空いたので、
自分の部屋に戻る前に食堂でご飯を食べることにした。
「おーつかれい、787!」
同じ部屋で過ごしている790番が話しかけてきた。
ちなみに部屋は8人部屋だ。
「なんか最近、食堂のメニューしょぼく感じないか?」
頼んだしょうが焼き定食に手をつける。
豚肉と俺たちの肉、どう違うのだろうか。
収穫された身は身の詰まった噛み応えのある味のない豆腐のようなもので、
加工されて味付けされて料理されるらしい。
「おーい」
我々の食事にはしょくにんの料理は提供されない。
なのでこれ以上の事はわからない。
なぜ知っているかというと、
よく話す警備の石川さんがそう言っていたからである。
「おーい聞いてるか?ななはちななー」
俺たち しょくにん は外を知らない。
この施設で作られたからだ。
「あれ?唐揚げって2個なかったか?」
人間の職員たちは、俺たちを番号で呼ぶ。
それが少しだけ気に食わない。
俺は、A-R-787 Aブロックの R番目の管理グループ 787人目が俺だ。
実は787という数字は気に入っている。
「な?どう思う?787」
資料室においてある資料で見たのだが、
むかーし何かの大会で優勝したスポーツカーがあって、
その車が787Bという名前だったからだ。
「おい 大丈夫か??」
「あ、ああ済まない すこし考え事してた。
考えたこともなかったがおかずが一品少ない日が
だんだん増えてきたような気がする」
「だよなー!」
「よくそんなことに気が付いたな のぶなが 」
髪の毛が逆立つほど短く髪を整える790番は、
番号で呼ばれることが嫌だという。
なので自らを のぶなが と名乗っている。
はるか昔、戦国時代に活躍した将軍だ。
その将軍の生き様に惚れて信長の名を彼は名乗っている。
「な、後でチェスやろうぜ」
「別にいいがいい加減守りを覚えろよ」
番号で呼ばれるのを嫌がるやつもいれば、俺みたいに番号を気に入るやつ、
そして彼のように自ら名前を名乗るやつもいた。
うちの710は悲惨だ なっとう と呼ばれている。
俺も710番だったら別の名を名乗るだろう。
食事を食べ終え俺たちは部屋に戻った。
「なあ787 俺たちいつまでここにいるんだろう。
こんな生活を続けるんだろう」
のぶながが遠くを見るような目でボソッとつぶやいた。
「のぶながよ この生活が不服なのか?」
「不服だね 退屈 実に退屈なのだ
俺は信長のように馬に跨ってこの世界を隅から隅まで巡ってみたい。
地球に触れてみたいんだ。」
俺は彼の気持ちが理解できなかった。
「のぶなが そんなことしたらお前は汚染されて、
体に何が起こるかわからないぞ!」
「それでもいい こんなところで飼い殺しされて、
ただ奪われるだけの人生なんて…俺は嫌だ」
そう答えたあと彼は急に喋らなくなり、
気が付くと寝息が聞こえてきた。
「飼い殺し…か…ここの生活には不便不服は…特にない…はず
あ、食堂に借りた小説忘れた…明日朝起きたら取りにいかなきゃ」
なにか胸のあたりがざらつくような感覚にとらわれた俺は、
その日の眠りは浅かった。
その晩夢を見た。オレが何かを、誰かを殺してしまった。
この手ではない、何かで、だがこの手で何かを食べたんだ。
そんな恐ろしい夢だった。
眠りが浅くもうひと眠りしたい所だが、
「小説を取りに行かなきゃ」とベッドから出た。
すると驚くことに、のぶながが起きていた。
「のぶなが!珍しいなこんな早い時間に起きているなんて。
しかも本を読んでいる!? 」
何かあったのかのぶなが?と真剣に心配になった。
「あ、いやたまたま資料室で見つけて気になったんだ。
さっちょうどお腹も減ったし一緒に食堂行こうぜ」
俺たちは食堂へ向かう。
くだらない話をしながら、
彼が戦国時代のロマンを語りながら、
ああ、なんてことない。ただの日常だ。




