一緒になら。
翌日の業務終わり。
リクは再び、エニの元へ向かっていた。
──休憩室前。
ドアノブに手をかけて、少し息を整える。
「……よし」
遠慮なく扉を開けると、向こうの椅子に座っているエニが視界に入る。
こちらに気がついて、この前と同じ、穏やかな笑顔で振り返るエニ。
「……あ、リク」
「よっ、また来たぜ」
リクは人懐っこい笑顔で近づいた。
そして、その隣の椅子に腰を下ろす。
「調子、どうだ?」
そう問いかけると、エニの視線は右上を泳いだ。
「……大丈夫だよ。……仕事も、慣れてきたし」
そう言うエニに対して、リクは少し口角を下げた。
しかし、その目は真っ直ぐに見つめ続けている。
「……なあ」
「無理に聞く気はないけどさ。何か困ってんなら、言ってくれよ」
「……ちゃんと知っときたいんだよ、エニのこと」
エニはしばらく俯いていたが、震えた声で話し始める。
「……薬が、効いてる気がしないんだ」
リクは目を丸くした。
「……うん」
「続き、聞かせて」
視線がリクの顔と自分の手元を何度も行き来するエニ。
喉仏が上下する音がやけに大きく聞こえた。
「……それを、言ったら……その……」
「……ごめん。……自分でも、分からないんだ……」
リクはエニが黙り込んだのを見て、口を開く。
「エニが、そこまで言ってくれただけでも……自分は嬉しいよ」
エニは顔を上げて、潤んだ瞳を恐る恐る、リクの方へ向けた。
だが、そこにはいつもの元気さが鳴りを潜めた、頼もしい笑顔を向けているリクがいる。
「……そっか」
「……俺も、聞いてくれて、ありがと……」
エニは髪を耳にかけながら、戸惑うように視線を落とす。
「……でも、まだ大丈夫かもしれないし……」
誤魔化すように苦笑いを浮かべるエニ。
リクは椅子から立ち上がった。
エニの方へ手を伸ばして止まる。
「じゃあさ」
「大丈夫かどうか、確認しに行こうぜ」
「……一緒に!」
エニは少し戸惑ったようにリクの顔とその手を見つめた。
しかし、それでも、そっと手を取って立ち上がった。
「……リクも、来てくれるなら……」
「……うん、行く」
その言葉にリクはとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。
エニの手をしっかりと握って、一緒に休憩室を出て行く。
──医療棟へ繋がる廊下。
リクはエニの手を離さずに、並んで歩いていた。
すると、エニが指をソワソワと動かしている感触がした。
顔を向けると、エニは口を開いた。
「……リクって、本当に。……不思議だよね」
「不思議?!自分が?!」
歩きながら器用に仰け反るリク。
エニは少し表情を緩めた。
「……だって、普通がどうなのかは、分からないけど」
「……ここまで付き合ってくれるのは、リクだけだと思うんだ」
「……っ」
リクは目を丸くしたあと、照れ隠しみたいに笑った。
そして、エニの目を再び見つめる。
「……普通とか、自分もよく分かんねえけどさ」
「エニが困ってんなら、隣にいたいって思うんだよ」
エニは目を瞬かせた。
そして言う。
「……それ」
「……リクって、感じだね」
「自分はいつでも自分だからな!」
リクは、当然みたいに笑った。
すると、エニはもう一度小さく笑った。
背けられた横顔だけでも、それは分かった。
医療棟へ近づくにつれ、廊下を行き交う職員たちの足取りは妙に速くなっていた。
誰もが端末を片手に、小声で何かを話している。
エニが不安そうに周りを見回した。
「……なんか、今日……変じゃない?」
リクも周囲を見る。
確かに、変だった。
いつもなら聞こえる雑談もない。
空気が、張り詰めている。
その時だった。
医療棟の奥から、誰かの苛立ちを押し殺した低い声が聞こえた。
「……だから、原因不明のまま投与量だけ増やすなっつってんだ」
リクとエニは同時に顔を上げた。
それは──セクトンだった。




