キミはまた。
食堂の仕事にも、少しずつ慣れてきた頃だった。
昼休憩が近づくにつれ、エニは妙な息苦しさを感じていた。
(……朝、飲み忘れたっけ?)
まだ誰もいない休憩室に入り、小さく息を吐く。
慣れた手つきで薬を取り出し、水で流し込んだ。
「……ん」
本来なら、数分後に症状は落ち着き始める。
なのに。
「……あれ。……もう10分は経ってるのに」
エニは椅子に座ったまま、頻繁に時計に目を向ける。
(効いてない……?)
「……違う、よね……?」
掠れた声で呟く。
エニが眉を落としたその時だった。
「エニー!いるかー?」
休憩室に入ってきたのはリクだった。
「あ……リク。……君も休憩?」
エニは柔らかい笑みを浮かべてから顔を上げた。
「……っ」
リクはエニを数秒間、黙って見つめた。
すると、いつも通りの笑顔を浮かべて近づく。
「……っ、おう。さっき入ってさ……」
「んで……薬、飲んだか?」
不自然な間があった。
「……うん、休憩入ったら、すぐね」
そう答えながら、エニの指先が服の裾をぎゅっと握る。
「……リク?」
「どうかしたの?」
エニはリクを見上げかけて、すぐに視線を落とした。
リクは笑顔を作ろうとして、止めた。
「…なあ」
「なんか、あったのか?」
エニの尻尾が強張った気配がした。
数秒間、エニは言葉に詰まった。
「……大丈夫。……いつも通りだよ」
リクは何かを言おうとして、飲み込んだ。
「そっか。まあ、なんだ……自分、なんでも聞くからさ」
目を細めて、薄く笑みを浮かべる。
「……いつでも頼ってくれよな、エニ」
「……うん。……ありがと、リク」
どちらも次の言葉を見つけられないまま、休憩室には時計の秒針だけが響いていた。
休憩室を出たあとも、リクの頭にはさっきのエニの笑顔が焼き付いていた。
あの笑顔を見た瞬間、胸の奥に嫌な感覚が蘇った。
(……いつも通りだよ、って……)
あんな顔で言う“いつも通り”なんて、信じられるわけがない。
なのに。
(……また、自分は)
廊下を歩く足が、わずかに止まる。
窓の外の晴れた空を見上げた。
(……また、気づかないフリを、しちまうのか……?)




