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迎えにきた。

──翌日夕方。

現場部隊のロッカールームは任務終わりの空気に包まれていた。

部隊員たちがそれぞれ気の抜けた様子でソファや椅子に沈んでいる。


そこには、リクもいた。

「あ゛〜っ、流石にぃ、疲れたっす〜!」

ロッカーへ背中から寄りかかり、ずるずると座り込んだ。


「おう新人。今日は随分と静かじゃないか」

ヴォルトが上から覗き込んできた。

「いやマジで今日のやつ足速すぎたっすよ!」

「お前が真正面から追うからだ」

「だってめちゃくちゃ逃げ回るんすもん!?」

「だから挟めっつったろ」

彼は愉快な失笑を浮かべて、腕を組む。

リクは苦笑いを浮かべたまま、深く息を吐いた。

「次はそうするっす〜…」


その時、不意に時計に目を向けた。

「……あ」

「ん?」

ヴォルトが片方の眉を少し上げた。

「なんだ?」

リクは腕をだらりと下げ、難しそうに天井を見上げた。

「いやあ、この時間って、エニが初日の定期検診受けるって言ってたような気がするんすけど…」


「あの珊瑚くんのことか……」

「エニっす〜」

「はいはい。……まあ、医療棟なら、まだ検診やってんだろ」

彼はいつもの笑みを浮かべる。


リクはその言葉にパッと顔を上げ、先ほどまでの疲れが嘘かのように勢いよく立ち上がる。

「じゃあちょっと様子見てくるっす!迷子になってるかもしれないっすし!」

「お疲れっしたーー!」

軽い足取りで、ロッカールームから元気よく出て行った。

「……ったく。元気なこって」

ヴォルトは呆れたように笑い、額をくたっと押さえた。


──医療棟前。

リクは壁際に寄り、端末を取り出した。

メッセージアプリを開く。

『今から検診だっけ?』

『迷子にならないように一緒に行かね?』

打ち込んで、

即送信。


しかし既読は付かない。

(あれぇ……仕事中じゃねえ時はすぐ見てくれんだけどな。もう入ってんのかな?)

壁から背中を離し、迷いなく医療棟に入っていく。


とりあえず、受付の職員に声をかける。

「お疲れ様っす〜」

相手は顔を上げ、

「はい、どうしました?」

リクはいつもの屈託のない笑顔を浮かべて言う。

「えっと、今日検診受けてるエニってやつ、まだいます?」

「……エニさんですか。少々お待ちください」

受付が少しの間確認をした。

「まだ診察中ですね。セクトン先生が担当されています」


その名前を聞いた時、リクは絶妙な苦笑いを浮かべた。

「あ〜……」

数秒悩んだ末。

「じゃあ待っときます!」

職員は広い待合室を指し示す。

「では、あちらで座ってお待ちください」


椅子に座ったリクは、暇つぶしのためか微かに聞こえてくる音を拾っていた。

金属音と職員たちの話し声。

しばらくして、微かに聞き覚えのある声が聞こえてきた。

繊細で耳に優しい──エニの声だ。

だがもう一つ、静かで、それでも床を這うような重さのある声。


リクは立ち上がり、診察室に繋がる廊下の奥を覗き見た。

案の定、そこには縮こまりながら歩いてくるエニと、その隣には大柄な男がいた。

真っ赤な肌。頭部からは天へ突き上がるように伸びた複数の角。

まるで鬼のような姿の──セクトンだ。

(頭だけゴテゴテだな…)

リクはそんな感想を抱きながら、歩いてくる二人を眺めた。


エニの視線は下を彷徨っていてこちらには気がついていない。

ならば。

「おーい!終わったかー!」

声に気がついて顔を上げたエニ。

リクを見たその顔には、少し余裕が浮かぶ。

「……リク。……来て、くれたの?……今終わったところだよ」

声は小さいが、きっとそう言ってる。


その様子を見ていたセクトンが二人を見下す。

腕を組んで不機嫌そうに口を開く。

「……オイ。……声がでけえ。こいつを刺激すんな」

その質量さえ感じる低い声で続けた。

「ただでさえ投薬が効きにくい体質なんだよ。で、お前はこいつのなんだ」

リクはその容赦ない圧にたじろぎそうになった。

が、堂々といつもの笑顔を浮かべる。

「エニとは親友なんす!」


「……親友、ね」

セクトンは低く呟いた。

「なら覚えとけ。こいつは普通より刺激閾値が低い」

「ッス…?」

(……刺激閾値?)

リクは聞きなれない単語に目をぱちくりさせた。

だがセクトンは気にせず続ける。

「ストレスでもエラー誘発のリスクが跳ねる」

「特に今は投薬調整中だ」


「了解っす!とにかく気をつければいいんすね!」

リクは無駄に元気よく答えた。

「……てめえ説得力皆無なんだよ」

セクトンが青筋を浮かべ、どデカい溜め息を吐いた。

その時、エニがおずおずと声を出す。

「……あの、先生。……やっぱり俺って、危険、ですか……」

尻尾を力なく脚に絡め、自分の腕を撫で付けた。

セクトンが呆れたような表情を浮かべる。

「危険とか危険じゃねえとか、そういうのは関係ねえ。」

「……ただ、治す必要があるだけだと言ってる」


「そうそう!エニは危険なんかじゃないって!自分はエニのこと誰よりも優しいと思ってるからな!」

リクが補足するように発言した。

エニを見上げ、あまりにも眩しい笑顔を向ける。

その熱量に、エニの尻尾がビクリと跳ね、瞳が柔らかく濡れた。

恥ずかしがったように、前髪を整える仕草で顔を隠す。

「……あ、ありがとう、リク」

「本当のことだからな!」


「チッ……。何見せられてんだ俺は……」

セクトンはため息を吐いて、眼下の光景に辟易したような表情を浮かべる。

面倒くさそうに片足に重心をかけ、ポケットに手を突っ込んだ。

「とにかく、定期検診には来いって話だ。以上、あとは勝手にやってろ」

そう言ってどこかへ歩き出すセクトン。

エニは慌ててその背中に向かって言葉を紡ぐ。

「あ……今日は、ありがとう、ございました……!」

リクもまた、なんてこともなく大きく手を振る。

「また今度〜!」


「じゃあ……せっかくだし、一緒に飯行こうぜ!」

満面の笑顔を向けるリク。

「……えっと」

「……うん」

エニは目を細めて、ほんの少し、笑い返した。

「決まりだな!」

リクはそんなエニの手をそっと取り、一緒に医療棟のエントランスへと歩みを進める。

夕食を取る前なのに、二人は既に満足していた。

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