第7話 アドプトロード
園芸部からの依頼を受けたボランティア部は、市が進める緑化事業であるアドプトロードを手伝うことになった。
名称を聞いただけではピンとこないかも知れないが、「アドプトロード」の「アドプト」には養子にするという意味があるらしい。つまり要約すると、自分の子供のように道路を見守るといった意味なのだそうだ。
放課後、ボランティア部の部室で、園芸部部長の園田清子から聞いたうんちくを皆の前で解説すると、すかさず新入部員のミャー子がシュッと手を挙げた。
「英語の訳は解りましたけど、それがどうして花を植えることになるんですか?」
「フム、なかなかいい質問ですね」
実はそう来るだろうと予想し、その辺りも情報収集していた。
唄子と康太は私の言わんとしていることが解っているようで、質問をしたミャー子の様子を見ている。
「では、花山美弥子さん。私からあなたに一つ質問です」
「え? 質問ですか?」
キョトンとした顔のミャー子に、敢えて私はちょっとした先輩風を吹かす。
「自ら進んで行動をするのがボランティア部のモットーです。従って受け身にならず、考えることも大切なのです」
「なるほど。流石先輩」
素直に納得したミャー子に、私はズバッと切り込む。
「アドプトロードは単なる緑化活動ではありません。では道に花を植えるとどうなるのでしょうか」
「えっと、それは……」
ちょっと考え込んで、ミャー子は思いついたことを口にした。
「ちょっと道がおしゃれな感じになる」
「惜しいっ! もう一声欲しかった」
私とミャー子のやり取りを、唄子と康太は可笑しそうに見ている。
「見慣れた通学路がおしゃれな感じになったらどういったことになるでしょうか」
「通学が楽しくなる?」
「それもあります。他には?」
「他にですか……」
腕を組んで悩み始めた新入部員に、それまで黙って見ていた唄子が、ちょっとだけヒントを与えた。
「花を植えたら私たちの仕事が少し楽になったりするかもね」
しかし、ミャー子には唄子の出したヒントは難しかったのか、さらに顔をしかめて首を捻った。
「花を植えるのは手間だけど、それすれば手間が減る……ますます分からなくなってきました」
困った。まったくミーティングが進まない。
そろそろ正解を教えた方がいい感じだが、考えるのが大事だといった手前、それは良くない気がする。
すると、私の葛藤を察したのか、康太がおずおずと手を挙げた。
「鳴瀬さんが言いたいのは、今ボランティア部がしている仕事が、楽になるってことだと思うよ」
ナイスアシスト、と私は思ったのだけど、ミャー子は発言した坊主頭を、キッと鋭く睨んだ。
「坊主の情けは受けません!」
清々しいほど坊主の発言を拒絶したミャー子だったが、康太のヒントが分かり易かったのか、いきなりピンと来た。
「なるほど、わかりましたよ。つまり、こういうことですね」
自信があるのか、ミャー子はやや胸を張ってこう続けた。
「花を植えれば通学路はおしゃれになる。綺麗に生まれ変わった通学路にはポイ捨てしにくくなる。結果ゴミが減り、清掃活動が楽になるということですよね」
「正解よ。それともう一つ、花の綺麗な通学路に地域の人が関心を持ってくれたら、人の眼が届きやすくなる。この辺りには不審者が出たって情報は無いけれど、犯罪防止にもなるわけ」
「深い。流石先輩です」
全て園芸部部長の受け売りだったけれど、新入部員は大いに感銘を受けてくれたみたいだった。
「ではこれから体操着に着替えて花を植えに行きます。園芸部は校門で待っているので、まずは合流して下さい。それから現場に着いたら部長の園田さんの指示に従って花を植えて下さい」
「はい!」
こうして私たちのアドプトロードは始まった。
園芸部の三人と合流し、校門を出て坂を下った私たちは、早速予定していた歩道の土を耕し始めた。
園芸部は総勢三名で、ボランティア部は総勢四名。
その中で男子は康太一人だけだ。
何も言わなくとも鍬を持ってくれた康太に心の中で感謝し、私たちは花を植える準備をしていく。
彩りを考え、園芸部部長、園田清子は花のレイアウトを決めていく。
私たちは康太が耕してくれた土をスコップで掘り起こし、彼女の指示どおりに花を植えていった。
「土いじりってけっこう楽しい」
唄子は汗ばんだ額を腕で拭うと、爽やかな笑顔を浮かべた。
「ホントだね。園田さんの気持ち、ちょっと分かったかも」
同じように額に汗する園芸部の少女たち。
皆その顔は楽し気だ。
日頃から美化活動に励む彼女たちは、私たちボランティア部と志は同じなのかも知れない。
そして、今日が初ボランティアとなる少女に私は目を向ける。
「何だか生き生きしてるね」
指示された場所に花を植えているミャー子を見て、唄子は私の思ったことを先に言葉にした。
「うん。そうだね」
やりたいことが見つかったのかな。
そうだったらいいなと、私は思う。
担任を敵に回してまで、自由意思を貫いた少女。
それがいいかは別として、有り余るエネルギーを内包していた彼女は、自身の選んだ場所でいま力を発揮している。
「どう? 楽しい?」
私がそう訊くと、ミャー子は手を止めて満面の笑顔を見せた。
「はい」
どうやら彼女は自分の居場所を見つけたようだ。
少しずつカラフルに彩られていく通学路は、少女たちの楽しげな声で賑わっていた。




