第37話 先輩たちのボランティア
丁度梅雨の中休みとなった週末。
雨で延期されていた海岸清掃がようやく行われることとなり、我がボランティア部は、本日清掃活動をする海水浴場へとやってきた。
ビーチには既に地域のボランティアが大勢集まっていて、その中には瑞希先輩とこの葉先輩の姿もあった。
「せんぱーい!」
私が大きく手を振って二人に合流すると、しばらくぶりの先輩たちは元気に私たちを迎えてくれた。
「オー、我が後輩たち、今日も励んでおりますな」
「みんなひさしぶりねー」
「先輩たちも忙しい中、ご苦労様です」
大学受験のための勉強で、二人は実際の所ボランティア活動を休止している状態だ。
そんな先輩たちが今日ここへ海岸清掃に現れたのは、気晴らしのためと自分たちのボランティア活動に一旦区切りをつけるためだった。
お互いに対面を喜び合っていると、律子先生に新入部員を紹介するよう促され、私は咲子のことを紹介しておいた。そして、もう一つ大事なことを二人に伝えておいた。
「あの、実は私、部長をミャー子に引き継いだんです。ミャー子、こっちに来て」
私の隣に並んだミャー子は、ちょっと緊張気味に先輩たちと向かいあう。
「この度、わたくし花山美弥子はボランティア部の部長を引き継がせて頂きました。不肖ながら先輩たちが育ててきたこの部を、これからも盛り立てて行きたいと思っております」
「硬い硬い」
瑞希先輩に指摘されて、ミャー子は顔を赤らめる。
「難しく考えないで楽しい部活にしてね。でも意気込みは伝わって来たよ」
「ミャー子ちゃんが部長かー、何だか楽しみだわー」
先輩たちから私と唄子に、そしてミャー子へと繋がったことを、どこか感慨深げに二人は喜んでくれている。
先輩たちに大事な報告を終えたところで、瑞希先輩はあたりをきょろきょろと見回した。
「おや? 今日は男子部員がいないみたいだね。山田君、今日も試合なのかな」
「はい。この時期、休みになる度試合があるみたいです」
「それはそれで大変だねー」
そして、海岸清掃に集まったボランティアに集合が掛かった。
「お忙しい中お集まり頂きありがとうございます。これより海岸清掃をするにあたり簡単なご説明をいたしますので、こちらにお集まりください」
それから清掃活動に集まったおおよそ三十人ほどの人たちは、主催者の説明を聞いて、広い砂浜へと散っていった。
そして、私たちボランティア部は円陣を組む。
「じゃあ私たちもやるよ。風ノ巻ー、ファイ!」
「オー!」
瑞希先輩の掛け声に続いて、私たちの明るい声が高らかに砂浜に広がった。
海岸の清掃活動が終わったのは丁度三時を回った頃だった。
清掃を終えた私たちは、そのまま律子先生の車で近くのファミレスへとやって来た。
「みんな海岸清掃、お疲れ様でした」
ドリンクバーで淹れてきた色とりどりのジュースで乾杯してから、私たちは一息つく。
今日ここに来たのはただの打ち上げではなく、瑞希先輩とこの葉先輩の慰労会が目的だった。
「瑞希ちゃん、この葉ちゃん、長い間本当にお疲れさまでした」
中学を卒業してからもボランティアを続けてきた二人に、律子先生は惜しみない拍手を送った。
律子先生に倣って、私たちも大きな拍手を送ると、二人はやや照れつつその場で席を立った。
「えー、あらためて言われるとちょっとこっぱずかしいんですが、お陰様で中学、高校となんとかボランティアサークルを続けてこられました。こうやって仲間が増え、楽しく充実した活動をしてこられたのは、ここにいる皆さんのお陰です。相棒のこの葉共々、この場を借りて感謝を申し上げます。本当にありがとうございました」
二人はその場で深々と一礼し、続いてこの葉先輩が口を開いた。
「ここで皆さんに報告があります。卒業してからの進路ですが、瑞希と話し合った結果、私たちはここを出て兵庫の大学に進学することを決めました」
ああ、本当に終わってしまうんだな。
先輩たちが遠くに行ってしまうことを知った私の口から、自然とため息が漏れ出た。
「とはいっても、勿論受かればの話です。ひょっとすると二人揃って浪人生活を送ることになるかも知れません」
「いや、この葉は大丈夫だって。私は相当ヤバいけど」
瑞希先輩がいつもの調子で口を挟んできたので、暗くなりかけた空気が和んだ。
律子先生はそんな二人のやり取りに一言添える。
「この葉ちゃん、瑞希ちゃんをお願いね。あなたがしっかり見てないと、瑞希ちゃん勉強しなさそうだから」
「あ、先生ひどーい」
この感じ、なんだか落ち着くな。
変わらない先輩たちに、私は居心地の良さを感じてしまう。
思い返せば、この先輩たちの強力なリーダーシップで私たちはけん引され、そこにいてくれるだけで安心して奉仕活動をしてこられた。
偉大な先輩たちが行ってしまったあとで、私はこの人たちのバトンを繋いでいけるのだろうか。
そんな不安が頭によぎった時、律子先生は先輩たちに本題を言っておくよう促した。
「二人とも、大事なことをまだ言ってないわよ」
「あ、そうでしたね」
瑞希先輩はへへへと笑って発表した。
「実は私たち、福祉課のある大学へ進学するつもりです。そこには大規模なボランティア組織があって、勉強して経験を積みながらこれからもボランティアに従事するつもりです」
瑞希先輩はそこで一度言葉を区切り、私の方を見た。
「その、つまりこういうことなの。私たちは風ノ巻ボランティア部として本州に進出していく。だからアーちゃん、ウーちゃん、ミャー子、咲子ちゃん、こっちは君たちに任せた!」
その話を聞いて、真っ先にミャー子が席を立った。
「はい! お任せください!」
明るいミャー子の声に私の憂鬱や不安が晴れていく。
そうか、これからなんだ。
「先輩、私、松ノ浜に行きます。そこで先輩たちの後を引き継ぎます」
「ありがとう。期待してるね」
そして、ファミレスの中にも拘らず私たちは円陣を組む。
「じゃあ行くよー、風ノ巻ー、ファイ!」
「オー!」
他のお客さんの目を気にしつつ、やや控えめに声を上げ、私たちは新たなスタートを切った。
そして、このタイミングで店のドアが開き、ようやく野球の試合を終えたボランティア部の男子部員が入店して来た。
「山田君、こっちこっち」
律子先生が手招きすると、康太は坊主頭を掻きながら私たちのテーブルへとやって来た。
「すみません遅くなって、なんだか盛り上がってるみたいですね」
「ああ、今ちょっといい感じだったんだよ」
一番いい場面に居合わせなかった少年は、額に浮いた汗を拭いながら、私の隣に座ったのだった。




