第29話 共闘なの?
我が風ノ巻中は瀬戸内海側にグラウンドがあり、それを見下ろすように白い校舎が建っている。
さらにその裏には体育館とプールがあり、その傍らには体育会の部室棟があった。
そしてその部室棟のさらに奥。林に浸食されるかのように雑草に覆われた、誰も寄り付くことのない一画があった。
私たちボランティア部はある依頼を受け、園芸部と共同で、その荒れ果てた一画の雑草をいま全て抜き終えた。
「終わった……」
丸々三日間の放課後を使って、雑草抜きを終えた私たちは、体操着が汚れるのを気にすることなくその場にへたり込んだ。
「お疲れさまー」
大きなやかんを持って現れたのは園芸部の部長、園田清子だった。
「まあ、冷たいお茶でも飲んで」
清子が淹れてくれた麦茶は、たいして冷たくも無かったが、からからに乾いた私たちをいくぶん生き返らせた。
「話に聞いていたより広いし、草もやたらと根が張ってて大変だった。ジュースぐらい用意してくれてもバチは当たらないよ」
もう一杯麦茶を入れてもらいながら私が愚痴ると、清子はへへへと笑った。
「花の苗を買うのにけっこう活動費を使っててさ。そこはボランティア部だけに奉仕活動ってことで」
全く都合のいい言いようだ。
何だか利用されてる感が半端ない。
唄子は麦茶を飲みながら、片手を汗だくの私の肩に置いた。
「で、ここからどんな感じなの?」
濡れた体操着が気持ち悪かったのか、唄子はやや顔をしかめながら清子に問いかけた。
「ああ、それはこれを見てもらえれば」
清子は私たちに見えるように、丸めた画用紙を広げて見せた。
そこにいた全員が集まって来て、画用紙に描かれた絵に注目する。
「へー、カッコいいじゃないですか」
ミャー子が率直な感想を声に出す。
そこには花壇に囲まれたステージの様なものが繊細なタッチで描かれていた。
唄子はその絵に少し顔を近づける。
「上手いわね」
「でしょ。美術部の子に頼んで描いてもらったんだ」
他人が描いた絵を掲げた清子は、まるで自分の手柄の様に自慢げに胸を張った。
三日前、私たちボランティア部が園田清子から受けた提案。それはいわゆる「共闘」だった。
今回、園芸部に新入部員が入らなかったことについて、清子はその原因を真剣に考えた。
園芸部の活動の場は主に中庭の花壇だ。
誰もが通るその場所で、丹精込めて育てた花々に生徒たちが関心を持たないのは何故か。
それは、中庭という場所があまりにありふれた空間だからだ。
そこに花があるのが当たり前だという固定観念があるから目立たない。清子はそう結論付けた。
そして、ありふれた場所ではない特別な場所を花で飾ってやろうと清子は計画し、私たちボランティア部の協力を仰いだ。
それがこの画用紙に描かれた、野外ステージだった。
「しかしこの企画、よく先生と生徒会が通してくれたね」
私は立派な野外ステージの完成図を眺めながら、清子の手際に感心していた。
「まあね。以前から文化祭の時に簡素な舞台を先生たちが拵えたりしてたんだけど、設営撤去が面倒だったみたいで、それならいっそ、ちゃんとしたものを造ろうかって話になったのよ。ダメもとで提案書を生徒会に出した私の方が吃驚したわ」
「野外ステージか。なんだか吹奏楽部の独壇場になりそうね」
「それでいいのよ。生徒たちが注目するステージの飾りつけを園芸部が一手に引き受ける。そしてこの企画制作に関わったボランティア部には使用優先権が与えられる」
そう、これこそが今回の計画の趣旨だった。
舞台自体は地元の大工さんに学校側から依頼をするが、舞台を華やかにするべく周囲に花壇をどう配置するかは園芸部が担当することになった。
また、清子は共同で花壇制作を行ったボランティア部に、完成後の舞台の使用優先権を取り付けたのだった。
そして、清子はさらにしたたかなことに、舞台完成のセレモニーの青写真を既に考えていた。
「舞台工事は生徒のいないゴールデンウイークにするって言ってたから、そこから花壇をだいたい二週間で完成させるつもり。あとは鳴瀬さんの方だけど」
「うん。こっちは大丈夫。もう話はしておいたから」
清子は舞台完成のセレモニーを五月末に行われる体育大会の日に合わせていた。そしてこの日、清子は中学生の枠を超えたセレモニーにしようと、プロのピアニストである唄子の母、鳴瀬清美にピアノ伴奏をしてもらえるよう、唄子にかけ合っていたのだった。
オープニングで吹奏楽部に演奏をしてもらい、プロのピアニストが弾くピアノで、舞台製作に関わった園芸部とボランティア部がコーラス部と共に合唱する。
普通に考えれば、自分たちはコーラス部に見劣りしそうだが、こちらには唄子がいる。プロのピアニストの伴奏であの歌声を響かせたなら、注目を浴びるのは間違いないだろう。
そしてそれは、生徒だけにとどまらず、保護者や近隣の人たちに園芸部とボランティア部を印象付けることになるだろう。また、文化祭などのイベントで定期的に部活としての存在感を見せつけることで、今年は無理だとしても、翌年の新入部員獲得の布石となる。それが清子の狙いだった。
「でも以外ね。あんまり人前に出るの、嫌だと思ってた」
私は軽く嫌味を言ってやった。
人形劇の時も、テレビ局が来た時も、常に後ろ向きな感じを清子が溢れさせていたからだ。
「え? 私は舞台には上がらないわよ」
「は?」
ちょっと言っている意味が分からなくて私は訊き返した。
「舞台作りは私が頑張るから。舞台上は彩夏が頑張って」
このとき私は、清々しい程きっぱり言い切った清子の頭を、張り倒してやりたいと本気で思った。




