第28話 姉と妹
園田咲子。たった一人、ボランティア部に入部した女生徒は、私の知っているあの人になんとなく似ていた。
「園芸部の園田清子は私のお姉ちゃんです」
「やっぱりか!」
どこかしら似通った外見と、言葉では表現しがたい雰囲気。
多分そうだと思ったが、当たるべくして正解した。
新入部員歓迎会と称したお菓子パーティーを開催した今日、総勢五名が集まった部室で、いきなり咲子の素性は発覚した。
「どうして? どうしてボランティア部なの? なんで園芸部じゃないの?」
私がそう尋ねると、園田咲子は眼鏡の奥にあるやや細い目をさらに細めた。
「ヤですよ。お姉ちゃんの部活なんかに入ったら、家にいる時みたいにこき使われるに決まってます」
「ん?」
こき使われるってどういうことなのだろう。清子は面倒見のいいお姉さんタイプに見えるのだが……
「えーと、咲子ちゃんは何だかお姉ちゃんに手を焼いてる感じなのかな?」
「はい。聞いてくださいよ」
それから、彼女は見かけ出来の良さそうな姉の現実を赤裸々に語った。
彼女の話では、清子は趣味の園芸以外はたいそうものぐさな人で、家の手伝いはしない、親に頼まれた用事は妹に押し付ける、ソファでいつもゴロゴロしながらポテチを貪ると、怠惰を絵に描いたような姉であるらしい。
「おまけに増えすぎた植物の世話を私に押し付けて、ちょっと水をやり忘れたりしたら滅茶苦茶怒るし、もうやってらんないってわけですよ。そういう訳で、放課後姉と部活で一緒なんてあり得ないです」
「複雑なんだねー」
そんな話をしていると、部室の戸が開いて噂の姉がつかつかと入室してきた。
「やっぱりここにいた。咲子、あんた余計なこと言ってないでしょうね」
どうやらそれを心配して来たみたいだが、もう遅かった。
「うん、今そのことを色々聞いた。取り敢えずそこに座りなよ」
乱入して来た清子に空いている椅子を勧めると、何だか渋々といった感じで清子は大きなお尻を落ち着かせた。
「で、何でお菓子食べてるの?」
「まあ、あれだよ。新人歓迎会みたいな」
「ゆるい部活ね」
そう言いつつ、清子は唄子の淹れてやったジュースの紙コップに口をつける。
「それで、ボランティア部はうちの妹だけ?」
「まあ、今のところは」
「三年生が抜けたら二人か……ちょっとまずいわね」
詰まるところ清子が危惧しているのは、部活と認められるのは三人以上であるという所だろう。三名に満たない場合、同好会の扱いとなり、学校からの活動費は一円も出ない。
「まあそのうちに入って来るかもだし、よしんば二人になったとしても、来年の新入生が加われば部として存続できるよね」
「彩夏はホントお気楽ね。まあ人のことは言えないけど」
この感じ。清子の園芸部もうちのボランティア部と似たり寄ったりといったところか。
「清子の方はどうだったの?」
「うちは今のところゼロ。咲子を当てにしてたのに裏切られた」
「なんだ、うちより酷い有様じゃない」
我が風ノ巻中では、生徒は基本的に部活に入る方針だ。
おおよそ運動部に入る生徒が多い中、少数派の文化部に入る生徒はだいたい二手に分かれる。
不動の一番人気は吹奏楽部。そして二番手はコーラス部だ。
文化系部活のワンツーに居座るこの二つは、単体でも強いのにも拘わらず、部活紹介の時に合同で演奏会をした。
圧倒的な存在感を新入生に見せつけた彼ら彼女らは、今頃新入部員を持て余しているに違いない。
「で、咲子、何でボランティア部なの?」
「あ、それ、私も気になってた」
清子が口火を切った質問には、私も含めてボランティア部全員が関心を持っていた。
私たちは園田咲子が何を言おうとしているのかを無言で注目する。
「そうですね……」
皆の視線を感じてか、咲子はやや恥ずかし気に口を開いた。
「まあ、お姉ちゃんからボランティア部の話を聞いていたのが大きいですかね。それとその……」
咲子はやや頬を赤らめつつ唄子に視線を向けた。
「文化祭の時に鳴瀬先輩の歌を聞いてびっくりして……コーラス部の人だと思ってたらボランティア部の人って聞いてさらに驚いて……お姉ちゃんが自分の友達だって自慢してたから余計に興味を持ったっていうか」
「じ、自慢なんかしてないし」
清子と唄子の顔が赤くなる。
清子は自慢していたことを暴露されて赤面し、唄子は友達と言われたことが相当嬉しい感じだ。
二人はややいたたまれない空気になってしまったけれど、入部に至った動機が分かったので私はかなりすっきりした。
「それで入部を決めたんだね」
「はい。毎年チャリティーはしてるって聞きましたし。私も一員に入りたいなーって思いまして」
唄子に惹かれて入部してくれたのか。
きっかけはさておき、私は一応部長として確認をしておくことにした。
「いいの? ボランティア部の活動は結構地味だけど」
「はい。奉仕活動ですよね。勿論そちらにも興味があります」
「うん。それを聞けて安心したわ」
私を含めてボランティア部全員の表情が和らいだ。
みんなそれなりに気を遣っていたようだ。
「それで清子、ここに顔を出したのは妹の様子を見に来ただけなの?」
「そんなに暇に見える? そんなわけないでしょ」
「じゃあ何?」
清子の口元がややつり上がった。
こういった顔をした時の彼女は、だいたい何か企んでいる。
「何かあるみたいね。話だけなら聞かせてもらうけど」
「そう言ってもらえると有難いわ。実は相談があって……」
そして、園田清子が持ち込んだ相談事に、これから私たちボランティア部は巻き込まれていくのだった。




