第27話 来たれ、新入部員
新学期に入って一週間が経った。
新入生の体験入部がスタートし、各部活が勧誘に熱を入れる中、私たちボランティア部にも一年生が部活体験にやって来た。
「では一年生の皆さん。今日は清掃活動をしますので私について来て下さい」
二年生になったミャー子は、新入部員獲得の意気込みを見せつつ、五人ほど集まった体験入部の一年生を引き連れて部室を出て行った。
「ミャー子大丈夫かな」
「まあ、意気込みはすごかったし、任せとこうよ」
私と唄子は生徒会が行う予算会議に出なければならなかったので、やや心配ではあったがミャー子に新入生の相手を一任したのだった。
生徒会室へと向かう階段の途中で、唄子は少し感慨深げな顔を見せた。
「部活紹介も地味だったし、新入部員なんか来るのかなって思ってたけど、体験とはいえ五人も来るなんてね」
「まあ、多分アレの影響だろうけどね」
私がアレ言ったのは、言わずもがなあの取材のことだった。
このような片田舎で、地方局とはいえテレビ出演をした私たちは、良くも悪くも多少目立っていた。
「残ってくれたらいいけど……」
モノローグのように口をついて出た唄子の言葉は、私の裡にあったものと同じだった。
ボランティア部は主に奉仕活動に勤しむ性質上、あまり脚光を浴びるような部活ではない。
チャリティーの一環として人形劇や合唱を行ったが、普段のボランティア部の活動は、その殆どが地味なものだ。
さらには誰もが億劫に感じることを、積極的にしなければいけない部活だった。
「ミャー子に大役を押し付けちゃったかな……」
私と唄子は生徒会室の前の廊下で脚を止め、窓の外に目を向けた。
そこには丁度、一年生を引き連れてグラウンド脇を歩いていくミャー子の姿があった。
「頼んだよ、ミャー子」
私と唄子は胸の前で手を合わせて、ミャー子の健闘を祈ったのだった。
体験入部期間の一週間が終わり、私と唄子とミャー子の三人は、部室で入部願を手に現れるであろう一年生を待っていた。
「来ないね……」
唄子の声には期待が含まれてはいるものの、なんとなく弱腰な感じがあった。
「まだ10分よ。これからじゃない」
三人の視線が部室の戸に集中する。
そして時計の針は、私たちの気持ちとはまるで関係なく進んで行く。
さらに5分が経ち、唄子は机に置いてある水筒に手を伸ばす。
「ふー、ねえ彩夏、山田君の方は、どうなのかな」
「そうね、野球部はそこそこ入りそうって言ってたかな」
このところ康太は、野球部の新入部員勧誘にかかりっきりだ。
顔を合わせる度に「手伝えなくってごめん」と言われるので、最近では板挟みになっている康太のことを気の毒に感じていた。
ミャー子に言わせれば、坊主がいると部活の品格が下がるそうで、勧誘活動をしたいと申し出てきたとしても、お断りする方針だったらしい。
それから私たちは、味気ない部室の入り口を血走った眼で一時間見続けた。
そして、諦めが空気の中に混ざり始めた頃、ミャー子が口を開いた。
「すみません……」
スカートの裾を握りしめ、ミャー子は小さく声を絞り出した。
「私がボランティア部の魅力をちゃんと伝えられなかったから……」
「そんなことない。そんなことないから」
私と唄子は、後悔を滲ませるミャー子を必死でなだめた。
「テレビに出てたから面白そうだなーって体験に来た子たちだったんだよ。実際の奉仕活動を体験してやっぱ違うなって。それだけだよ」
「そうそう。ミャー子は何にも悪くない。寧ろ普段の私たちの活動を飾ることなく体験させてくれて良かったっていうか」
責任を感じているのか、ミャー子にいつもの元気はない。
「私、今から一年生の教室に行って勧誘してきます」
思い詰めたように席を立ったミャー子を、私たちは止めようと立ち上がった。
「みんな好き好んで奉仕活動をしようとは思わないかもね。中身を知った上で入部してくれる人が来てくれたらラッキーくらいに思うことにしようよ」
私の声が届いていないかのように、ミャーコはうなだれたままだ。
「ミャー子……」
唄子が歯痒そうな表情でミャー子の背中をさする。
すっかり元気を無くしてしまった後輩を何とかしたい。
私はその強い気持ちを行動に移した。
「ミャー子、これからだいぶ恥ずかしいこと言うけど、真面目に本心だから笑わないで聞いてね」
私の本気を感じ取ったのか、ミャーコが顔を上げた。
「私と唄子がボランティアサークルを立ち上げたのは、奉仕活動というより、人形劇の予算を学校側から引き出すためだったの。そうだよね。唄子」
「うん。彩夏の言うとおり、瑞希先輩とこの葉先輩の続けて来た人形劇を成功させたかったのがきっかけだったわ」
唄子の言葉のあとに、私はまた話を続けた。
「それから人形劇をやり切って、先輩たちに引っ張られるようにして様々な奉仕活動に携わり、いつの間にか奉仕活動にやり甲斐みたいなものを感じるようになっていった。そんな時にミャー子が現れたの」
そして、私はこの愛おしい後輩への偽りのない気持ちを言葉にしていった。
「私たちの後に続く誰かが現れるなんて考えもしなかった。後輩が出来て本当に嬉しくって、毎日が楽しくって、とにかく私は張り切ってたんだ」
唄子も私と同じ気持ちを持っていたのだろう。
彼女は私の言葉に大きく頷いた。
「それと、ミャー子のお陰で先輩たちが私たちにどんな気持ちを向けてくれていたのかを知ることができた。それだけじゃない。今まで考えもしなかったボランティア部の未来を私は考えるようになったんだ」
込み上げてくるものに言葉が続かなくなる。
目頭が妙に熱い。これって少しヤバいかも。
「ミャー子、あなたには本当に感謝してる。あなたがいたから私たちは頼りないながらも先輩に成れたんだ」
そして、込み上げてくるものをこらえつつ、私はミャーコの手を取った。
「前置きが長かったけど、私が言いたいのはこれだけなんだ。ミャー子、あなたがいればもう充分なんだって」
何も言わず、ミャーコは私の胸に飛び込んで来た。
「よしよし。さあ元気出して」
「滅茶苦茶嬉しいです。もう私、先輩でいっぱいになっちゃいました」
そして、ミャーコにほだされて私も何だか泣けてきた。
そして唄子も目頭を真っ赤にして涙をこらえている。
「まあ、アレよ。こういうのは巡り合わせって言うかそんなもんだから、あんまし期待せず気長に待とうよ」
「そうですね。先輩の言うとおりですよね。でも私、やっぱり後輩は欲しいです」
「だよねー」
まあその気持ちも分かる。出来ればミャー子に先輩の気持ちを味あわせてやりたいが、それはかなり難しそうだった。
その時、部室の戸がガラと音を立てて開いた。
一塊になっていた私たちは、一斉に視線を入り口へ向けた。
「どう? 入部希望者は来た?」
「なんだ、律子先生か」
このタイミングで部室に顔を出した顧問に、三人揃ってたいそうがっかりな顔を向けてやった。
「なんだはないだろ。それで、入部希望者は?」
「来てませんよ。見たら分かるでしょ」
「そうか。じゃあ、今のところ一人ということか」
「はい?」
どうも話が噛み合っていない気がする。
どういう意味かと尋ねようとした時、律子先生は教室の外を振り返った。
「さあ、紹介するから入りなさい」
そう声を掛けたあと、律子先生の後に続いて、一人の眼鏡を掛けた女生徒がおずおずと部室に入ってきた。
「顧問の私の所に直接入部届を持って来たんだ。さあ、自己紹介しなさい」
そして、女生徒はペコリと一礼してから名を名乗った。
「一年A組、園田咲子です。よろしくお願いします」
一瞬呆気にとられたあと、我がボランティア部の部室に盛大な拍手が湧きおこった。




