第23話 インタビューの日
テレビ局の取材は本当に来た。
本番まであと五分と言われ、女子たちはそれぞれ前髪を直しつつそわそわしていた。
地方局の番組だが、間違いなく画面越しに見たことのある女性に、私のドキドキは抑えられない。
この人からインタビューを受けるんだ……
そう考えると、胃の中にあるものが上がってきそうだった。
「では本番に入ります。まずは顧問の大江先生からです。よろしくお願いします」
そしてカメラが回り始めた。
「はい。今私は風ノ巻中学校ボランティア部に来ています。実はこのボランティア部で先月行ったクリスマスチャリティーが、今話題になっているんですよ」
そしてカメラが律子先生に向けられる。
何時も化粧っ気のない律子先生の顔が、今日はなんだか立体的だ。
相当気合を入れてメイクして来たみたいで、何だか別人のようだった。
「ボランティア部顧問の大江律子先生です。大江先生は養護教諭、つまり保健室の先生なのですが、生徒達の思いに応えてこの部活の顧問を引き受けたのだと聞いております。では先生、ボランティア部の紹介をして頂けますか?」
マイクを向けられた律子先生は一つ咳ばらいをすると、エレガントに語り始めた。
「そうですね。このボランティア部はもともとここに在籍していた卒業生が二年生の時に立ち上げたボランティアサークルが前身でして……」
流石に大人だなーと感心してしまうほど、律子先生は滑らかに部活の紹介を終えた。
最近結構先生の醜態を見ていたけれども、正直今日は見直した。
「では次にボランティア部の部長、志藤彩夏さんにお話を伺いましょう」
来た。
マジで、とうとう来た。
「大江先生からボランティアサークルという前身があったと聞きましたが、どうして廃部になったサークルを復活させようと思ったんですか?」
マイクを向けられて私の緊張は最高潮に達する。
「は、はい。それは唄子が、いえ、鳴瀬さんが、今もボランティア活動を続けている先輩たちに共感して、それで二人で立ち上げることになりました」
「そうでしたか。では副部長の鳴瀬唄子さん、その時の様子とお気持ちをお伺いできますか」
始まる前はかなり緊張気味だった唄子だが、またいつもの集中力をここでも発揮して、はきはきと質問に応え始めた。
「先輩たちと海岸の美化活動でお会いして、それから私たちは保育園での人形劇に誘われました。最初は少し尻込みをしていましたが、大江先生に背中を押してもらい、ボランティアサークルを復活させたんです。右も左もわかりませんでしたが、先輩たちがいるから何とかなるって。今考えるとただの勢いだったかも知れません」
凄い。内容もだが、全く嚙まずに言えた。
「鳴瀬さんは今回の人形劇で手話を使った同時通訳を行いました。専門家に見てもらったところ素晴らしいと絶賛していましたよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「どこで手話を学ばれたのか、お伺いしてもいいですか?」
インタビュアーの質問に唄子が応えるのを躊躇っているのを察した律子先生が、自然な感じで割って入る。
「ボランティア部は皆さんに寄り添うことを目標としています。この子たちの頑張りに共感してもらえて、本当に良かったと思います」
インタビュアーの女性は、意図を察した様で、そのままにこやかに話を変えた。
「では次に、さきほど紹介にあった頼りがいのある先輩たちにもお話を伺いましょう」
それから瑞希先輩、この葉先輩、康太とインタビューが続き、ミャー子の番が回って来た。
「ではボランティア部、唯一の一年生、花山美弥子さんにもお話を伺いましょう」
マイクを向けられたミャー子は頬をやや紅潮させて、興奮気味にまず名前を名乗った。
「一年A組、花山美弥子です。秋に先輩たちのボランティア部に入部させて頂き、この度の人形劇で小人役をさせて頂きました」
それからミャー子は、用意していたであろう部活に対する意気込みのようなものをカメラの前で熱く語った。
「花山さん、ありがとうございました」
そして最後に、助っ人の清子にマイクが向けられた。
「園芸部の園田清子です……」
その前のミャー子がまあまあ熱かったせいか、そのテンションの低さが際立つ。
ボソボソと聞き取り辛い清子のインタビューを終えて、一旦カメラは止まった。
「お疲れさまでした。それではみなさん、最後に一つお願いしてもいいですか?」
どうやらこれで終わりでは無いらしい。
インタビュアーの女性が言う、お願いとは何なのだろう。
「人形劇の動画を拝見させて頂きましたけど、そのあとサプライズで合唱していましたね。もし良ければ、皆さんの歌っている姿を収録させて頂けないでしょうか」
胸がドキッとした。
合唱をするとなれば、唄子の声がテレビに流れることになる。
本当にそれをしていいのだろうか。
「唄子……」
そっと耳に口を近づけて確認すると、唄子はニコリと笑った。
そうか、唄子は表現者なんだ。
本当の自分を開放することを唄子は躊躇わない。
それを私はこの目で見て来た。
「わかりました。もう一度合唱させてもらいます」
「ありがとうございます。では音楽室を使う段取りをさせてもらいますね」
これは運命というものなのだろうか。
偶然の重なりで巡って来たこの機会に、私は何か特別な力が作用しているのではないかと思ってしまうのだった。




