第22話 始業式の一大事
三学期の初日。
退屈な始業式を終えて教室へ戻った私たち二年A組は、教室に入って来た担任の柴田から意外な発表を聞かされた。
「突然だが、明後日学校にテレビの取材が来る」
教室がどよめいて、柴田は「静かにしろ」と一喝する。
「実はうちの部活の活動が、どういう訳かテレビ局の目に留まったみたいでな」
それを聞いた生徒達は、またざわつき出す。
「バレーボール部か?」
「いや、バスケ部だろ」
「静かにしろ!」
再び一喝されて、また教室が静かになる。
「俺も去年の大会で活躍した運動部だと思ったんだが、そうじゃないんだ」
そして柴田は前列に座る私と唄子に視線を向けた。
「今回の取材を受けるのは、志藤と鳴瀬が所属してるボランティア部だ」
クラス全員の視線が一斉に私たちに向けられる。
そして私と唄子は目を丸くしながら、お互いに顔を見合わせた。
「なんだ? あいつら何かやらかしたのか?」
ふざけた半分に後ろの席の男子が聴こえるようにそう言うと、柴田は大きな声で「やかましいと」男子生徒を叱り飛ばした。
「その逆だ。ボランティア部は先月クリスマスチャリティーで介護施設を訪問したんだ。そうだよな、志藤」
「あ、はい。行きましたけど」
一度確認を取ってから、柴田はその先を続けた。
「そこでボランティア部は人形劇を上演した。手話による同時通訳を交えてな」
その内容を聞いても、クラスメートはあまりピンと来ていない様子だった。
それがかなり大変だということは、あの場にいた私たちにしか分からないことなのだろう。
「その時の様子をスマホで職員が録画していたんだが、どうもその動画をテレビ局の人が見てしまったらしい。中学の部活が行った手厚すぎる奉仕活動に興味を持ったみたいで、学校側に取材の依頼が入ったんだ」
成る程そう言うことか。
経緯は分かったが、心の準備が全くできていない。
今日家に帰ってすぐ、美容室を予約しよう。
「午前中、校内にカメラが入るが、みんなは特に気にせず授業を受けていたらいい。以上だ」
「なーんだ、俺達は映らないのかよ」
それからホームルームが終わって、柴田は私たちの席へとやって来た。
「志藤、鳴瀬。明後日の放課後、お前たちの部室で取材がある。部員全員を集めておいてくれ」
「あ、はい。わかりました」
いきなり飛び込んできた一大事。
取材ということは人形劇の様に決まった台詞ではないので、練習のしようがない。
何だか胃の当たりがキリキリ痛み出した。
そして唄子はというと、やや顔色が悪い。
きっと自分もそうなんだろううと思いつつ、私は覚悟を決めたのだった。
「ホントですか!」
放課後の部室で取材のことを告げると、ミャー子は眼を輝やかせて身を乗り出した。
「そうですか。なるほどなるほど。私の演技がいきなり脚光を浴びた訳ですね」
「いや、うん。どうかな……」
「デビューかー、あんまし有名になるのはちょっとって思いますけど、仕方なしといったところですね」
大いにミャー子が盛り上がっていると、律子先生が先輩二人を連れて部室に入って来た。
「すみません。お呼びだてして」
「いいんよ。うちらも今日は学校すぐ終わったし」
先輩たちはいつもと変わらぬ様子で席に着く。
唄子はまだ空いている席に目をやった。
「あとは山田君だけだね」
「コータはミーティングが終わったらすぐ来るって言ってた。それより遅いな……」
「え、まだ誰か来るの?」
「うん。清子を呼んどいた」
クリスマスチャリティーのことで取材が来るので、助っ人をお願いした清子も当然呼んでいた。
「そっか。そうだよね」
唄子が納得してすぐに、清子がおずおずと部室に現れた。
何だかひどい顔色をしている。
「テレビの取材って、本当なの?」
今にも吐きそうな顔色で尋ねられて、私は「うん」と頷いた。
「申し訳ないけど、お断りしていい? そうゆう感じのやつは無理っていうか」
「うん。見た感じで分かるけど、そこを何とかお願いします」
それから野球部のミーティングを終えた康太も加えて、全員で取材に備えた練習のようなものをした。
「では顧問の大江先生にお伺いします。このボランティア部はどのように立ち上げられたのでしょうか」
インタビュアーに扮したこの葉先輩が、リコーダーをマイクっぽく向けると、律子先生は長い髪をサラッとかきあげてから口を開いた。
「はい。生徒の持つエネルギーを正しい方向に導くのは先生に役目ですので、私が彼女たちをボランティアの道へ誘いました。それからボランティアの素晴らしさに目覚めたこの子たちを支え続け、一つの集大成としてクリスマスチャリティーを成功へと導いた訳です」
「カットカット」
調子よくインタビューに応えていた先生に、瑞希先輩が割って入る。
「なんだか先生、途中から人の手柄を横取りしてない? それになんだか自分の取材みたいになってる感じだし」
「そう? 上手くまとめたと思ったんだけど」
それから順番に想定できうる質問に対する練習をした。
練習を終えて、早めに部活を解散して帰宅した私は、すぐに行きつけの美容院に予約を取り、自転車を走らせた。
いつもの美容室の自転車置き場には、今日に限って自転車がけっこう停まっていた。
「いらっしゃいませー」
いつも髪を切ってくれるおばちゃんの元気な声。
そしてそこの長いすで順番を待っていたのは、さっき部室にいた康太以外の女子たちだった。




