第21話 新しい年の始まり
チャリティーショーが終われば怠惰に炬燵でゆっくりすると決めていた私は、冬休みに入ってから全く外に出ることなくダラダラと過ごしていた。
そして年が明けて、新年の第一歩を私は炬燵で過ごしていた。
「あんたがそこにいたら、お掃除できないじゃない」
炬燵で背を丸めて漫才を見ていた私を、母は邪魔者扱いする。
「ダラダラして。若いんだからもっと外で遊んでらっしゃい」
「ダラダラしているように見えても実は違うのです。今は次のボランティアに向けて英気を養ってる最中で……」
「へ理屈はいいから炬燵から出なさい。お掃除するんだから」
「えー」
「じゃああんたが掃除してくれる? 私買い物も行かないといけないから」
働かされそうになって、私は英気を養うことを断念した。
家にいたら何か用事を押し付けられそうだし、唄子の家でダラダラさせてもらうか……
私は自分の部屋に一度避難して、充電中のスマホに手を伸ばす。
接触していない今は話は出来ないけれど、スマホには文字でやり取りできるという、私たちにおあつらえ向きな機能があるのだ。
〈やっほー唄子〉
〈なに? いま私、燃え尽きてるんですけど〉
私と同じで燃え尽きていた。つまり、頑張り過ぎた反動が今まさに来ているわけだ。
返って来た何にもやる気の無さそうな文字列に、私は素直に共感する。
〈私も炬燵でダラダラしてたんだけど、お母さんに怒られてさ。ねえ、唄子の家でダラダラさせてくれない?〉
〈いやよ。彩夏が来たら私がゆっくりできないじゃない〉
あっさりと断られた。
友達甲斐の無い奴だ。
〈まあそう言わないでさ。今日だけゆっくりするのをお休みってことにしない?〉
〈は? どうゆう意味よ。自分が家に居づらいもんだから、私を巻き込みたいだけでしょ〉
鋭い。
完璧な図星に私は反論せず、視点を変えることにした。
〈そう言えばミャー子、冬休み暇だって言ってたよね。私たちに誘ってもらえるのを待ってるんじゃないかな〉
〈劣勢になるや否やミャー子を出してきたわね。でもそうね。あの子、私たちに誘ってもらえると思って待ってるのかも……〉
ミャー子のことを話題にあげたことで、唄子はかなり真面目に思索し始めた。
たった一人の可愛い後輩に淋しい思いをさせたくないのだろう。
そしてそれは、言い出しっぺの私にも伝染した。
〈ねえ唄子、私ミャー子に電話してみる〉
〈うん。おねがい〉
それからすぐ、私がミャー子に電話してみると。
「はい、花山飯店、じゃなかった。花山美弥子です!」
この勢い。間違いなく私たちからの電話を待ちわびていたようだ。
「えっと、どう? もう疲れは取れた?」
「はい。それはもう。先輩たちにいつ誘ってもらってもいいように、コンディションは完璧にしてます」
やっぱり。これはもう、出掛けるほか無さそうだ。
「コンディションは分かったけど、どう? 忙しかったりしない?」
「いいえ、めっちゃ暇です。炬燵で坊主に囲まれながら漫才を見ていただけです」
坊主のオプション以外は全く私と同じだった。
漫才は結構面白かったが、坊主アレルギーのミャー子にとっては、そこにいること自体あまり快適ではなかっただろう。
「もし良かったら、初詣でもどう?」
「はい! 行きましょう!」
二つ返事が返ってきて、私は唄子とミャー子と三人で初詣に行くことになった。
先輩たちは連絡がつかなかったので諦めたが、家を出るときに康太を誘おうかと真面目に悩んでやっぱりやめた。
家を出てからまた坊主だと、ミャー子のストレスが発散できないだろうと思ったのだ。
そうして私たちは待ち合わせて、神社へと向かった。
とはいっても地元の神社なので、そんなたいそうな所まで行くわけではない。
「おー、結構賑わってますね」
神社の境内へと続く石段を、ミャーコは軽い足取りで上がって行く。
「先輩。上に出店も出てますよ」
そんなに多くはないが、お正月のこの時期だけは露店が立ち並ぶ。
私たちはまずお参りを済ませようと、露店を眺めながら参道を通っていった。
「先輩、あれ」
ミャー子が指さした先には瑞希先輩とこの葉先輩の姿があった。
お正月にすることといえば限られてくる。
狭い町の中で目ぼしい神社はここしかなかったので、もしかしたら会うんじゃないかと思っていた。
「おー、ミャー子、アーちゃんとウーちゃんもいるな」
トウモロコシを齧っていた瑞希先輩は新年からいつもどおり溌溂としていた。
「なんだか三人と会いそうだなーって、丁度瑞希と話していたところだったのよ」
相変わらずにこやかなこの葉先輩は、手にりんご飴を持っていた。
「新年おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
私が真っ先に先輩たちに新年の挨拶をすると、思い出したように唄子とミャー子が続いた。
「こちらこそよろしくお願いします」
新年のあいさつを済ませて、私たちは境内へと入った。
先輩たちはもうお参りを済ませていたので、三人で並んでお賽銭を入れる。
私の隣でミャー子が何やらむにゃむにゃ言っているが、何をお願いしているのかよく聞き取れない。
すると、唄子の声が聴こえて来た。
「ボランティア部のみんなにいいことがありますように」
はっきりと聴こえてきたカッコいいお願いに、私はつい感心してしまう。
ここは部長として、唄子に負けてられない。
「今年は地震も津波もなく、町の人が安心して暮らせますように」
新しい一年がこうしてまた始まった。




