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第20話 三度目の……

 人形劇のあと、昨日に引き続き私たちはサプライズ合唱を披露し、そこにいた聴衆の度肝を抜いた。

 惜しむらくは、唄子の美声をあのおばあちゃんに届けられなかったことだが、周囲の反応を見て、あのおばあちゃんもただ事ではないことを悟っていた感じだった。

 二日目の公演を終えて、施設のクリスマスパーティーに参加させてもらい、思い出深い私たちのクリスマスチャリティーは終わったのだった。


 翌日——

 白々とした空に、十二月末に相応しいような冷たい朝。

 頬に痛い空気を感じながら、私は終業式に出るために学校へと続く激坂を上がっていた。


「おはよう彩夏」


 肩に手を置いてきたのは追いついてきた唄子だった。

 少し息を切らせているのを見ると、私に気付いてこの激坂を走ったみたいだった。


「元気だねー。なんだかダルくない?」

「ダルい。昨日の疲れがまだ抜けない」

「だよねー」


 介護施設訪問という大きなイベントを終えて、ようやく気が緩んだせいで疲れがドッと出たという感じだ。

 明日からは冬休みなので、もう猫のように炬燵でダラダラ過ごしてやると決めている。


「ねえ今日ってさ、アレだよね」


 唄子が言ったアレというのは、今から行われる終業式のことではない。つまりこの相棒が言いたいのは、今日がクリスマスイブだということだ。


「まあ、そうだったよね」


 私は少し言葉を濁した。

 唄子がクリスマスイブをわざわざここで持ちだしたのは、クリスマス会をするのかどうか、私にその心づもりを問うている訳だ。

 まあ、イブだからと言って別に付き合っている相手がいるわけでもないし、部活のメンバーでクリスマス会を催すのもやぶさかではない。

 だけど……


「あのさ唄子、昨日一昨日と、もうそれっぽいのを二連チャンでやったよね。三連チャンはちょっと多くない?」

「それ。それなのよ。施設で二日連続で飲み食いして、まだやるかって感じなんだよね」


 坂を上りながら私と唄子はウーンと思い悩む。

 やるならやるで早急に決めて、康太やミャー子、そして先輩たちに連絡しないといけない。

 肩を並べて二人でウーンと悩んでいると、聞き覚えのある良くとおる声が後ろから聴こえてきた。


「せーんぱい」


 背後から勢いよく自転車で激坂を上がって来たのは、今日も朝から存在感を溢れさせたミャー子だった。

 私たちに追いついたミャー子は、自転車を降りてそのまま並んで歩きだす。


「昨日はお疲れさまでした。ところで今日はクリスマスイブですよね。私、特に予定はありませんので先輩たちのお誘い待ちって感じです」


 悩んでいたけれど、これで方向性は決まった。


「よし、ミャー子、今日はクリスマス会やるよ」

「やった。イブも先輩たちと一緒ですね。因みに私、冬休みもけっこう暇です」


 ミャー子が暇なのはわかった。

 でも今は、今晩のことを考えないといけない。

 いつものように唄子が何か案を用意しているのかを、私は少し期待する。


「ねえ唄子、クリスマス会どんな感じでしたらいいと思う?」

「そーねー」


 あれ? 特に何も考えてなかった?

 期待外れではあったが、このところ唄子はチャリティーショーに全神経を集中していたので、私は致し方なしと気を取り直した。


「じゃあ、誰かの家でお菓子を持ち寄ってやる? ケーキとかはやっぱりあった方がいいよね」

「そうねー、取り敢えず先輩たちに連絡を取って、その辺のことは決めようよ」


 ずっと人形劇のことで頭がいっぱいだったし、部活のクリスマス会が取ってつけたようになってしまっても仕方ない。

 私と唄子が軽い感じで方向性を決めたのを聞いたミャー子は、自転車を押したままサッと駆け出して私たちの前に出た。


「そこは私に名案があります。今日のクリスマス会のことは、このミャー子にドーンと任しといてくださいよ」


 メラメラとやる気をみなぎらせるミャー子。

 ささやかに形だけでもと思ってた私は、すぐにそれでは済まないこと知った。

 どうやらクリスマス会に関するイメージについて、私と彼女とでは大きな隔たりがありそうだった。


「ハハハ、まあ、三日目だし、そんなに頑張んないでも……」

「記念すべき先輩たちと過ごすイブ。もう期待と興奮でヤバいです」

「話、聴こえてないみたいね……」


 こうして、ミャー子主導によるクリスマス会が、開催されることとなった。



「かんぱーい」


 それはもう楽しそうに生ビールのジョッキを掲げたのは言わずもがなの律子先生だった。

 私たちは今日、ミャー子の家であり店でもある花山飯店に集まった。

 その中には人形劇の助っ人をしてくれた園田清子の姿もあった。

 気持ちよく酒を飲み始めた先生に、ミャー子はやや渋い顔を向ける。


「月曜日は定休日なんで、今日はお店は貸し切りですけど、生ビールの樽、空にしちゃヤですよ」


 生ビール、ジュース飲み放題。

 おまけにテーブルには、たくさんの中華料理の皿が並べられている。

 実際は会費をいくらか払うので無料ではないけれど、ミャー子の父親の厚意で、びっくりするようなお得な値段でクリスマス会が実現した。


「後は好きにやっていいって、父ちゃんも兄ちゃんも二階に引っ込みましたんで、適当に騒いでも大丈夫ですよ」

「いやーミャー子には感謝だわー」


 律子先生はあっさりと一杯目のジョッキを飲み干してから、ミャー子にお代わりを要求する。


「もうせんせ、いきなり飛ばさないで下さいよ」

「分かってる分かってるって。これでも先生よ。ちゃーんとわきまえてますって」


 疑わしい。

 律子先生に限ってそれはない。

 後で、ミャー子がお父さんに怒られなければいいがと、私は心配をしてしまった。

 ジュースで乾杯したあと、大きな唐揚げにかぶりついた清子に、一応私は気になっていることを訊いておいた。


「ねえ清子、園芸部の方は大丈夫だったの?」

「ああ、一年生は二人とも今日は予定があるみたいで、うちの部はクリスマス会しないのよ」

「ふーん」


 予定が空いていたのは清子だけ。

 もしかして一年生の二人とも彼氏と……

 いやいや、二人とも大人しそうな子だったし、きっと的外れな勘繰りだろう。


「まあ、いいじゃない。清子にはたくさんお世話になっちゃったから、今日はいっぱい食べて楽しんでね」

「うん。そのつもりだよ」


 それから予告どおり、清子はいっぱい食べた。

 ボランティア部のみんなも、流石に訪問先の施設で羽目を外せなかったのか、今日は大いに盛り上がった。

 しまいには、昨日の合唱をもう一度ここでしようということになり、律子先生も加わり、みんなでアカペラで合唱した。


「あらためて聴くと、すごい歌声ね」


 合唱を終えてすぐ、唄子の美声に感嘆の声を上げたのは清子だった。


「歌手のオーディションとか受けたら、間違いなく合格だわ」


 真面目に感心している清子に、ミャー子が真っ先に共感する。


「私も同感です。どうです? 皆さんもそう思いますよね」


 ミャー子が挙手を募ると、唄子以外の全員が手を挙げた。

 唄子は猛烈に照れつつ言葉を探す。


「お褒めにあずかり、ありがとうございます……」


 赤面したままうつ向いてしまった唄子がちょっと可愛らしい。

 さらに弄ってやろうとすると、律子先生がその場でスッと席を立った。


「えー、ではここで私からみんなに報告しておかなければならないことがあります」


 少しあらたまった感じの先生に、みんなの視線が集まる。


「二日間のチャリティーで集まった募金の集計が出ました。今からそれを頑張ったみんなに伝えます」


 律子先生は私たちを焦らすかのように、少し間を置いた。


「金額についての公表は差し控えますが、今回集まった募金は前年の約三倍。今までの最高記録の約二倍に届きました」

「やった!」


 発表を聞いたみんなが一斉に歓喜する。

 自分たちの頑張りが認められ評価されたことに、誰もが興奮していた。


「素敵な人形劇とサプライズの合唱。とても楽しいクリスマス会をプレゼントしてくれてありがとうと、皆さんが仰ってたわ。今回集まった募金は、予定どおり児童養護施設に全額寄付させてもらうわね」


 大成功の手ごたえに、私たちは大いに盛り上がる。

 そして、律子先生の話はそこで終わりではなかった。


「それと、二日目の人形劇。物語を手話で同時通訳してくれたことを本当に喜んでくれたみたいよ。あんなに心のこもった人形劇を観られて本当に良かったって、あのおばあちゃんだけでなく、他のみなさんからも感謝の声をたくさん頂いたわ」

 上演後、あのおばあちゃんは、涙でハンカチを濡らしながら、何度も唄子にありがとうとお礼を伝えていた。

 それを見ていた私は、胸の中が温かくなり、また切なくなった。


「みんなの思いが観てくれていた人たちの心を動かした。先生はあなたたちを誇りに思います。みんな、よく頑張ったね」


 ボランティアを始めて良かった。

 律子先生に貰った言葉は、私の、いや、きっとみんなの心を震わせた。

 そして、唄子は目頭を薄っすらと赤くさせて、こぼれそうになる涙をこらえていた。

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