第18話 そして二日目へ
あまり乗客のいない単線の電車に揺られながら、私はもう真っ暗になってしまった車窓からの景色をぼんやりと眺めていた。
あの後、私たちは予定どおり施設のクリスマスパーティーに参加させてもらった。
今日はまだ22日なのでクリスマスイブまではあと二日あるけれど、施設は今日の私たちの訪問に合わせて、少し早いクリスマス会をするのだと律子先生からは予め聞かされていた。
興奮冷めやらぬ中、私たちはホールに並べられたバイキング形式のご馳走を堪能し、施設の人たちと交流した。
その中で唄子は、まるでアイドルであるかのように沢山の人たちに囲まれ質問攻めにあっていた。
あれだけの歌声を思う存分披露してしまったのだから、それは仕方ない。
歌手の卵か、それとももうデビューしているのか。
もしコンサートを開くなら、その時は是非教えて欲しいと大変な反響だった。
施設を出るまでそんな感じでもてはやされた唄子は、こっぱずかしさで終始顔を真っ赤にしていた。
そして、そんな純情少女を我がボランティア部は一丸となってさんざん弄り回してやった。
緊張から解放された電車で真っ先に律子先生が寝落ちすると、続いて康太が軽くいびきをかき始め、それから一人また一人と眠りに落ちていった。
終始ご機嫌だったミャー子も、寝落ちした先輩二人に挟まれるように、今は静かに寝息を立てている。
私もかなり疲れを感じていたけれど、あの合唱の余韻が醒めきらないせいか、今のところまだ眼は開いたままだ。
隣で私にもたれ掛かっている唄子もまだ眼を開けている。きっと私と同じ気持ちなのだろう。
「ねえ、彩夏……」
その声はほんの少し眠たげだ。
「今日はいっぱい食べちゃったね」
「そうだね。もう何にも入らない」
バイキング形式で、料理だけでなく苺の載ったクリスマスケーキがたくさんあったのが良くなかった。
滅多に食べられないスイーツの王様が並べられているのを目にして、育ち盛りの中学生女子は欲望に抗えない。
そして、あの優しそうな施設長の甘いささやきにも背中を押された。
「あなたたちのために用意したのよ。たくさん食べていってね」
リミットブレイクさせられて、その結果、滅茶苦茶食べた。
そして、みんないつも以上にがっついてはいたが、特に康太は男子で運動部だけあって、私が言うのもなんだけど、ちょっと遠慮しなさいよと言ってしまうほど食べていた。
また、人形劇の上演前に吐きそうだった清子は、過度のストレスから解放されたためか、別人のように健康的な顔色を取り戻し、女子とは思えないほどの食欲を披露した。
さんざん食べたあとで、皿にケーキを三つ載せていた清子を、私はすごい奴だと尊敬した。
そんな清子も、今はシートにのけ反るような格好で、満足そうに眠っている。
「明日、頑張ろうね」
みんなを起こさないように、そっと唄子がそう言った。
「うん」
明日に控えるもう一つの施設への訪問。
私たちの人形劇は、初めて手話による同時通訳を行う。
今私と唄子が寝落ちしていないのは、そのことが頭の中にあるからなのかも知れない。
「大丈夫。きっと成功するよ」
私はあらゆる努力をしてきた親友を鼓舞する。
今までそうしてきたように、彼女は自分の意志と努力で新しい道を切り拓くのだろう。
「うん。きっと、いや、絶対だね」
未来に目を向け続ける少女の横顔に、微笑みが浮かぶ。
何の変哲もない電車の灯りの下で、私の親友はとても鮮やかだった。
そして本番二日目がやって来た。
「かぜのまきー、ファイ!」
「オー!」
円陣を組んだ私たちは、昨日の疲れを吹き飛ばすような掛け声をあげる。
幾ばくかの緊張と独特の高揚感に包まれた私たちは、こうして新しい舞台へと足を踏み出した。




