第10話 次のボランティア
秋晴れとなった翌週の火曜日、瑞希先輩とこの葉先輩は、約束どおりボランティア部の部室に顔を出してくれた。
「お待ちしてました!」
待ちわびていたようで、ミャーコは先輩たちの登場と共に勢いよく席を立って二人を出迎えた。
「先輩たちのためにジュースとお菓子を補給しておきました。ささ、今日もミャー子を挟んで語らいあいましょう」
先日さんざん甘やかされたミャー子は、すっかり先輩たちに懐いているようだ。
仲がいいのに越したことはないので、そのことに関しては、むしろ歓迎すべきなのだろう。おまけに、ミャー子のモチベーションは先輩たちのお陰で爆上がりだ。
「そうね、じゃあミャー子ちゃんを挟んで、まずはミーティングかな」
この葉先輩は、はしゃぐミャー子の頭を撫でてやる。
「はい。でも私、休みを挟みましたので、充電切れかけてます。ですんでもっと撫でて下さい」
厚かましい猫のように撫でてくれとねだるミャー子を、この葉先輩は甘やかす。
そんな二人の様子を眺めていた瑞希先輩は、何だかしきりと感心していた。
「この葉のこと、よっぽど気に入ったみたいね」
甘やかしてくれる二人の先輩にミャーコは懐いていたが、どちらかと言えばこの葉先輩の方に、より懐いている感じだった。
男ばっかりの家族の中で育ったミャー子は、女子なのに男前の瑞希先輩よりも、女性らしいたおやかさを持つこの葉先輩の方が好みなのかも知れない。
本人の前でもあるし、ちょっとは控えめになりそうなものだが、ミャーコは瑞希先輩の言葉を、それはもう堂々と完全肯定した。
「はい、それはもう。美人で優しくって包容力があって、それから何と言うか、この葉先輩って、何だかお母さんみたいで……」
最後の方で恥じらいながらミャー子が告白すると、この葉先輩は微妙な顔になった。
「えっと、おねえさんじゃないの?」
「はい。もうおねえさんを超えてお母さんです」
たった四つしか離れていない現役高校生に、ミャー子は母を見いだしたらしい。
先週、ラーメンを御馳走になった時、ミャー子から母親がいないことは聞かされていた。
長らく母親に甘えられなかった彼女は、慈愛溢れるこの葉先輩に理想の母親像を重ね合わせ、特別な親しみを抱いているのだろう。
「ミャー子、一旦この葉先輩を解放してあげなさい。これからミーティングだよ」
話が全く進まないこともあり、私はこの葉先輩に助け舟を出しておいた。
「では続きはのちほど」
意外とあっさりミャー子は席に着く。
クラスでは相変わらずみたいだが、部活では聞き分けの良い娘だった。
席に着いたメンバーは五人。
律子先生は保健室で体調を壊した生徒を診ていて、康太は野球部の練習に行っている。
目障りな坊主頭がいないせいもあって、いつもに増してミャー子は楽し気だ。
「まず、ボランティア部の今後の予定ですが、先週の土曜日に瑞希先輩から提案頂いた奉仕活動に、我が部は参加させて頂くことを決めました」
先週のアドプトロードの打ち上げのあと、私と唄子は瑞希先輩から介護施設での奉仕活動の誘いを受けていた。
瑞希先輩から聞いたその内容は、夏休みに行った人形劇を介護施設で再び上演するというものだった。唄子はその内容を聞いてすぐにその場で参加を決め、私もそれに同意した。
今日ここにいない康太にも了解を取っておいたけれど、人形劇に参加していなかったミャー子には、ここで一から説明しておかなければならなかった。
「はい!」
早速手を挙げた新入部員は、私が思っていた通りの質問をしてきた。
「介護施設ってお年寄りのいる施設ですか?」
「そうです。お年寄りがたくさんいる介護施設で、クリスマスの時期に合わせてチャリティーを行います」
「チャリティー?」
ピンと来ていない様子でミャー子が首を傾げると、瑞希先輩が手を挙げて席を立った。
「ここからは私が説明するね。うちの部、まあ以前はサークルだったんだけど、うちらが中学でサークルを立ち上げてから、毎年同じ介護施設に赴いて、クリスマスチャリティーを行ってきたのよ」
「クリスマスチャリティー? 奉仕活動では無いんですか?」
率直に質問したミャー子に、瑞希先輩は分かり易く説明をしてゆく。
「ミャー子がまだ入部していなかった夏休みに、私らは保育園に訪問して人形劇を上演したの。それを今回は介護施設の方たちに観てもらって募金を募ります。訪問する介護施設は二か所。お年寄りの方々に頂いた善意は、全て恵まれない子供たちの施設へとそのまま寄付して、クリスマスプレゼントの一部にしてもらうつもりです」
話を聞いたミャー子は、頬をやや紅潮させて拍手をした。
「じゃあ、私たちがサンタさんに?」
「まあ、間接的にだけどね」
瑞希先輩は一つウインクをして見せた。
「上演内容は夏休みに行った白雪姫ですが、クリスマスらしく人形たちにはクリスマスっぽい衣装を着せるつもりです。まだあとひと月以上あるので、みんなで意見を出し合い準備して、素晴らしいチャリティーショーにしましょう」
拍手が湧いて、教室は大いに盛り上がる。
そして、少し落ち着いたところで、ミャー子がパッと手を挙げた。
「あの、これってクリスマスパーティーって感じですか?」
「うん。施設のクリスマスイベントに私らがゲストとして参加するって感じかな。私らも一緒にちょっとしたゲームをしたり、歌を歌ったり、ケーキを頂いたり……」
「なるほど……」
ミャーコは口元に手を当てて、何かを思索し始めた。
「ひらめきました!」
「えっ!?」
突然立ちあがたミャー子に瑞希先輩が一瞬たじろぐ。
「いま先輩、歌を歌ったりするって言いましたよね。それなら私たちで一曲サプライズするってのはどうでしょうか?」
「合唱ってこと?」
瑞希先輩が聞き返すと、ミャー子はさらに熱く思いを吐き出した。
「ボランティア部は高校生のお二人を入れて五人います。まだ時間はありますし、合唱出来ないことは無いと思います。それに私、唄子先輩の美声を訪問先の皆さんに是非聴いてもらいたいです」
「なるほどね。確かにウーちゃんの歌声には度肝を抜かれたわー」
文化祭の合唱コンクールで、瑞希先輩とこの葉先輩は唄子の美声を観覧席で聴いていた。
「どう? この葉」
「いいかも知れないね」
先輩たちはしきりと頷いている。
どうやらミャーコの提案に心が傾きつつあるのが見て取れた。
皆の視線を集めて、唄子の頬は次第に紅くなっていく。
「いい考えだわ。人形劇は予告してあるけれど、そこに合唱のサプライズを入れて盛り上げようよ」
「合唱はいいとして、伴奏はどうする? ピアノは施設にあったと思うけれど……」
この葉先輩が不安材料を提示すると、すかさず唄子は私の腕を取った。
「伴奏なら彩夏ができます」
「ホント? アーちゃん」
「はい。まあ一応……」
唄子はもうやる気になっている。
逃げられないことが分かっているので、私は伴奏を引き受けた。
「じゃあ決まりね。ミャー子の案を採用することに決定します」
「ナイスアイデアだったよ。ミャー子ちゃん」
「へへへ、それほどでも」
この葉先輩に頭を撫でてもらいミャー子は照れつつ悦に浸っている。
上手くまとまったしあまり水を差したくないが、先程のミャー子の発言で、私には少し引っ掛かっていることがあった。
「あのさ、ミャー子、さっきボランティア部は先輩を入れて五人って言ったけど、コータのこと忘れてない?」
「やっぱり坊主も入れるんですか」
やはり意図的に坊主を除外していたようだ。
サラリと五人と言ってのけたことに、先輩たちや唄子は気付いていなかったみたいだ。
「そういえば山田君を入れたら六人だったな」
「六人なら合唱もそれなりに行けそうよねー」
康太を思い出してくれた先輩たちと、坊主を思い出して欲しくなかったミャー子。
元々存在感の薄い坊主頭を、ミャー子は消しにかかっている?
一方的な確執で、また私の頭は痛くなる。
「じゃあ人形劇と合唱をこれから準備していきます。これから忙しくなるけど、力を合わせて頑張ろう!」
何だか体育会っぽく瑞希先輩が纏めると、大きな拍手が教室に湧いた。
「楽しくなりそうだね。彩夏」
「うん」
屈託のない笑顔で意気込む唄子に私は笑顔で返す。
またあの夏のように心を一つにして、これから私たちは新しい舞台へと向かうのだ。
目標を決めた私たちは、きっとこれから毎日頑張らないといけないのだろう。
頼りがいのある二人の先輩と、何もかもがまっさらの新入部員。
そして、情熱を全身にみなぎらせる私の相棒。
あなたがいれば、なにも不安を感じない。
また一つ階段を上がろうとする私たちの向かう先には、きっとまだ見たことの無い美しい景色が待っている。
私は相棒の手を握りながら、期待に胸を高鳴らせるのだった。




