第95話 腹黒人造人間の本音
「今、リンさんは『利用価値』と言いましたね。それって恩と言うことと矛盾していませんか?」
何気なくを装って誠はそうリンに尋ねてみた。
リンはかえでに忠実に見えて腹黒い。
そのことが誠が最近分かってきたことだった。
「ええ、言いましたよ。かえで様には十分利用価値があります。利用価値が無ければあのような社会不適合者の性犯罪者の家宰など務めておりません。年末年始にご挨拶する程度で恩返しは十分です」
あたかもさも当然のようにリンはそう言った。
「リンさん……それはちょっと冷たいんじゃないですか?リンさんを最下層の女郎から救ってくれたのはかえでさんじゃないですか。もう少し言いようが……」
そう言う誠を見つめるリンの真剣な顔に見える目の力の強さに気の弱い誠は黙り込んだ。
「確かに、かえで様には救っていただきました。ただ、その私の境遇はかえで様にとっては理想郷と言える世界だったんです。かえで様にお仕えしてきてそのことが良く分かりました。あの方は宇宙に並ぶもの無き真正のマゾヒストです。死ぬまで快楽と痛みを与えられて初めて価値があるとお考えの方です。ですので、私はあの方のために心を鬼にしてただ単に利用すべき存在として扱っています。まあ、家宰としても仕事にもやりがいを感じているのでその点では感謝しておりますし、こうしてその仕事を務めさせていただいています」
かえでの居ない場所でのリンのかえで評は散々なものだと誠は思った。
「確かにあの人は変態ですけど……ほとんど性犯罪者ですし。でもそんなリンさんは正直僕はあまり……」
そんな言葉を口にした瞬間だった。
リンの顔が悲しみに染まり、目が涙に潤んできた。
「なんとお優しい!そして私としたことが真の主人である誠様を悲しませてしまったとは!大変申し訳ありません!このリン、真のご主人様である誠様を悲しませることの無いよう表面的にはかえで様に忠誠を尽くすように取り繕うように努めます!ですからどうかこのリンをお見捨てにならないように!それだけは!後生ですからそれだけはお願いします!」
そのあまりの急激な態度の変化に驚きつつ誠は静かにうなずいた。そして同時に自分の事を『真の主人』と呼ぶリンを不思議に思ってじっとリンの泣き顔を見つめた。
「僕は皆さんが仲良くやってくれるのが一番なんです。他の何も望んでいません。仕事が上手くいくにはそれが一番いい事だ……それが『特殊な部隊』に入ってから僕が学んだ唯一の事ですから」
誠は運転席から誠の手に手を伸ばそうとするリンの右手を握って優しくそう語りかけた。




