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第94話 捜査のために一人出かけるかえで

「まもなく着きます」


 リンはそう言うと大通りから車を細い路地に乗り入れた。


「やっぱりかえでさん。この車は捜査には向きませんよ。次からは普通の覆面パトカーを手配してください」


 大きな高級車の運転には慣れているリンは器用に細い路地を進むがその場違いな光景に誠はそうかえでに言った。


「確かにそうかもしれないね。リン、次は普通のありふれた覆面パトカーの手配を頼む。本部長にも下手な気を回さないように伝えておいてくれたまえ」


 かえでは静かにそう言った。


 車はそのままこれも小さめのコイン駐車場に慣れたリンだからこそできるような器用な停め方で駐車した。


「それでは誠君。行って来るよ。僕の手並みと言う物を期待してくれていい」


 かえではそう言って笑顔を浮かべると車を降りようとした。


「かえでさん、聞き込みの方法とかは分るんですか?」


 間抜けな誠の問いに降りかけたかえでは誠を安心させるようにその肩を叩いた。


「軍では捕虜から情報を聞き出す際に色々と方策を巡らすものだよ。確かに、『志士て虜囚の辱めを受けず』を軍の基礎としている甲武軍だが、相手の兵は普通に投降して来るからね。そこでの情報を聞き出す技術……僕には少し自信があってね」


 そう言うとかえでは路地を抜けモノレールの駅を目指した。


「大丈夫かな……捕虜の尋問でしょ?しかも甲武の捕虜は前の戦争ではかなりの数が殺されたって言う話じゃないですか?いきなり西園寺さんみたいに相手を恫喝したらそれこそ僕達が警察のお世話になりますよ」


 心配半分に誠は運転席に残っているリンに話しかけた。


「それは20年前の異常な体質の特に陸軍での話です。前の戦争の時も甲武海軍は捕虜の虐殺は行っていません。それに西園寺義基公が宰相になられて軍でも『民派』の力が強くなっている今ではそのような国際法に反するような行為を好む将校の多くは更迭済みです。それに情報が欲しいと言われる方はあの誰もを惹きつけてやまない魅力的なかえで様なんですよ……かなめ姫のような暴力など必要とすることなく欲しい情報はいくらでもあちらから率先的に教えてくれるでしょう」


 リンは確信を込めてそう言うので誠はそれを信じてみることにした。


「それにしてもリンさんは本当にかえでさんに忠実なんですね……僕に対しては別みたいですけど」


 そんな誠の皮肉にリンは振り向いていつもは人工的な無表情が浮かんでいる顔に笑顔を浮かべていた。


「それが生きる知恵と言うものです……かえで様には恩がある。そして今は利用価値がある……それだけです」


 リンの言葉に『利用価値』と言う言葉があるのを聞いて誠の背筋に寒いものが走った。

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