第93話 推理するかえでに隙は無かった
車はそのまままっすぐ進むと豊川の街に着く道を進んでいた。平日ともあり、交通量が多い。
「かえで様。到着時刻の5分後にモノレールがあります。それにお乗りになられる駐車場もどうやら空いているようです。すべて問題は有りません」
リンはちらりとカーナビに映るデータを見ながらそう言ってバックミラー越しに誠達を見つめてきた。
「それはありがとう。時間的にも無駄がない。僕は無駄はあまり好きではないからね……それにしてもバノンは『東和メディカル』と『スズシロ』……誠君はどちらから医療器材を入手していると思うかな?」
かえでは誠を試すようにそう言ってきた。誠はその捜査をゲームを楽しむように笑顔を浮かべているかえでに違和感を感じながら考え込んだ。
「普通にお金持ちならサービスの良い業界一位の会社を選ぶと思いますが……バノンはわざわざ隠れて生活しています。そうなるともしかしたら千要に支社のあるような大手ではなくて東都まで行って中小の商社に当たる可能性も……」
誠の言葉にかえでは明るい笑顔を浮かべてうなずいた。
「なるほど、現場の人間はそう考えるんだね。確かに、その線は僕も考えていた。しかし、相手は超大富豪……しかも新興宗教と言う秩序を重んじる組織を興した人間だ。そのことを念頭に彼の行動を考えてみたことはあるかい?」
まるで誠を試すようなかえでの口調に誠はむっとした表情を浮かべた。
「甲武も新興宗教は盛んでね。ただ、海外からの新興宗教には憲兵の激しいマークがつくからほとんどは国内発のものだ。その宗教の教祖の何人かには僕も会ったことがある。海軍としても軍内部で彼等におかしな動きをされるのは軍の統制上面白い事ではないからね。海軍省の軍人にはそう言う仕事も有るんだよ。まあ、彼等の共通点は……きわめて権威主義的な人間だということだ。それはそうかもしれないね、自らが一つの権威として信者の前に立つわけだから権威と言う物を信じていなければそもそも主教などと言う物を信じる必要もない」
誠は的確にバノンの人物像を推測していくかえでをどうしても思い込みで突っ走る姉のかなめと比べていた。
「そう考えるとバノンは間違いなく実績のある商社以外とは付き合おうとはしないはずだというのが僕の推論だ。これはあくまで僕の推論だからね。君の言うようにバノンが権威に飲まれない実用を重んじる人物ならば東都の中小のいつ消えてもおかしくない業者から部材を手に入れているということも考えられる。リン、もしもそのようなことがあった場合の対応策も考えておいてくれないかな?」
「心得ました。東都で医薬品の売買許可を得ている中小の業者で最近妙に取引量が増えている会社があるようなら連絡を入れるように手配をしておきます」
モノレールの下の片側一車線になった国道をリンは県警本部長から借りた公用車を走らせる。
何もかも一流にこだわる女。そう自分を評するかえでの抜かりの無さに誠は息を飲んだ。




