第91話 捜査車両はこれじゃない
「あのー、かえでさん、リンさん。この車は……どういうことなんでしょうか?僕達は捜査をしていても目立たない『覆面パトカー』を借りに来たはずですよね?」
誠は目の前のどう見ても高級乗用車、かえでの車がゲルパルト産の外車のフラッグシップカーであるのに対して、東和の国産でそれに対抗して作っている黒い高級乗用車を前にしてそうつぶやいた。
「いえ、私は県警本部長に『かえで様にふさわしい車を貸してくれ』と伝えたので特に問題は無いかと……」
リンは何事も無かったかのように車の運転席のドアに手をかけようとした。
「問題大ありですよ!こんな車で捜査なんかしたら目立って仕方がないじゃないですか!と言うかこれ捜査車両なんですか?こんなに偉そうな捜査車両なんて現場で見たことがありませんよ!それにかえでさんが乗るからなんてこと言ったら高級乗用車をあてがわれるに決まってるじゃないですか!もっと目立たない車は無かったんですか!リンさん!」
思わず大声でツッコミを入れる誠に不思議そうな顔をしてリンが振り向いてきた。
「いみじくも甲武四大公家末席の当主のお方の乗る車です。貧相な捜査車両などにお乗せすることは家宰としてこの渡辺リンのプライドが許しません。なんでもこの車は県警本部長の公用車だとか。ですのでこの車も警察車両です。警察の車両と言うことは捜査に使用しても構わない車両と言う意味です。誠様が何をお怒りになられているのか私にはわかりかねるのですが?」
リンは誠の言うことが全く理解できないという顔でそう言い返してきた。
「あのですねえ、捜査の基本は犯人に見つからない事なんですよ!というか甲武四大公家の末席の当主だった隊長も普通に島田先輩が無駄にカスタムした旧車の『ファミリア』に乗ってるじゃないですか!別にそんなことでプライドとか持ち出さないでください!」
以前は自動車すら持っておらず自転車通勤していた嵯峨の現在の愛車はカウラと島田が旧車専門店で買い取って来たスポーツ仕様の『ファミリア』だった。ボアアップして一応2,000ccで3ナンバー車ではあるが、とても高級車とは言えない。
それに対して目の前にあるのはかえでの車が電動車なのに対してガソリンエンジンを積んだ車だが、大きさからみて6,000ccクラスの大型エンジンを積んだ最高級車である。
「問題は犯人から……今回はバノンから見つからなければいいだけの話さ。ならば遠くに停めて歩けばいい。足を使えばいいと言ったのは誠君じゃないか。じゃあ行こうか」
かえではまったく気にする様子もなく後部座席に乗り込んだ。
『分かってない……この二人は捜査の現場と言う物を全然わかってない……』
誠はため息をつきながらかえでの車に比べて貧相な本革シートの後部座席に身を沈めてリンがエンジンをかける様子を見送っていた。




