第90話 覆面パトカーを借りに
「それで、これからどこに行くんですか?」
リンの運転するかえでの高級乗用車の後部座席に乗り込むと誠は隣に座って微笑んでいるかえでに向けてそう言った。
「ああ、捜査にはこの車は目立ちすぎるからね。リンが、千要県警に連絡して捜査車両に適当な車両を見繕ってくれるように手配してあるんだ。だからこれからそれを取りに行こうと思うんだ」
微笑みながらかえでは誠に向けてそう言った。
「そうですよね……カウラさんの車は車を知っている人なら伝説の名車『スカイラインGTR』ってわかりますけど、普通の人にはただの珍しい形をしたスポーツカーにしか見えませんけど、この車は誰がどう見ても目立ちますからね」
誠はかえでの言葉に納得してうなずいた。
「リン、先ほどのバノンが潜伏している可能性が高い規模の住宅の目星はついたかな?」
かえでは誠の言葉に満足したようにうなずくと運転中のリンに向けてそう言った。
「はい、その点の抜かりは有りません。この豊川から半径40キロ圏内でそのような住宅の売買の記録は26件ありました。うち、5件は持主がそれなりの有名人だということまで分かったので除外できます。ですので残りの21件の中の一つにバノンが潜伏している可能性が高いと思われます」
うまくハンドルを切りながらさらりと答えるリンの回答を聞いて誠はあっけにとられた。
誠達の捜査と言えばまずはかなめが思い付きで突っ走り、それをフォローするつもりでアメリアが問題を関係ない方向に持って行き、なんとかカウラが元の位置まで引き戻すという行ったり来たりの繰り返しのうちに犯人にたどり着いたというのが誠の正直な感想だった。
「そうか、それだけ絞れれば十分だ。良い仕事をしてくれたね、リン」
かえでは甘くささやく。そしてバックミラーの中のリンの顔が朱に染まった。
「しかし、県警の覆面パトカーなんてよく借りられましたね……県警は本当にケチだから、うちが応援で何かを頼まれてもジュース一本おごってもらったことなんか無いですよ」
誠はかえでとリンの事なので話題が変な方向に行く前にそう言って話題を元に戻した。
「ああ、誠様。その点でしたら問題ありません。かえで様ご自身がお使いになるということで県警本部長には伝えてありますので。本部長の命令と言うことでしたら千要県警内部でも文句を言う人間はいないと思いますから」
さも当然というようにリンはそう言って産業道路から千要駅に向かう国道に車を乗り入れた。
「県警本部長に直接電話する……凄いですね……リンさん……」
誠はリンの豪胆さに感心するとともに、そんなことならこれまでもかなめが甲武国一の貴族の地位を活かして東都警察や県警の偉い人に電話をすれば大概の苦労は無かったんじゃないかと言う事実に気が付いた。




