第87話 限られた捜査方法、行き詰まる理論
「なるほど……僕もリンも海軍省勤務ばかりだったからね。実際に現場を見るという経験をしたことが無い。僕は君の行動理論は正しいと思うよ」
理論家のかえでには馬鹿にされるとばかり思っていた誠だが、かえでのその言葉に少し安心感を覚えた。
「ただし、動き出すのならより効率的に動き出すべきだ。おそらくその誠君の捜査手法はお姉さまの影響を大きく受けているように僕には見えるんだ。お姉さまはまず行動してから考えるようなところがある。でも、それははたから見ると非常に効率が悪いように僕には見えた。問題の中心にまず近付き、ゆっくりと観察し、そしてそこに問題の確信が無ければ次の可能性を探る。これは机上の空論かもしれないが現場から遠く離れた上層部の人間は常に現場の人間の非効率的な動きに信頼を置いていない。でも、そのどちらも合っているようでいて間違っている僕にはこれまでの誠君が解決してきた事件を分析してみるとそう言う答えを導き出した」
かえでは何時にもない真剣な表情で誠を見つめてそう言った。そこにはいつもの淫らなかえでの姿は無い。あくまで合理主義の徹底した理論に基づく作戦立案を行うエリート士官としてのかえでの姿に誠のこれまでのたるんだ気持ちが引き締まる。
「たしかに、今手に入る情報はこれからリンに調べてもらう不死人に関してある程度の教養のある人間でも騙されてしまう程度の似非情報と言うことになるのだけれど、それを待っている間にもバノンはどういう行動を信者たちに命じるかまでは僕でも推測が付かない。現時点で分かっていることは『神聖聖書協会』がこの千要で多数の乗用車を購入したこと。そしてバノンが東和に入国したこと。そしてそのバノンは重病でありその死期はかなり近いこと。その三点だけだ」
そこまで言うとかえでは誠とリンに意見を求めるように黙り込んだ。
「千要で乗用車を多数購入したということは狙いは島田准尉である可能性が高いですね。そして、東和政府が三谷の情報を一般には公開していないことから考えてバノンはこの千要の豊川付近に潜伏している可能性が高いと思われます。ただ、末期の肝臓癌の可能性のある地球圏の人間が入れる病院と言うことになると数は限られてきますが……おそらく島田准尉を拉致するような強引なやり方でその病院に島田准尉を連れこもうというようなことが可能なほどに倫理的に問題がある病院はこの千要には存在しません」
医師であるリンは誠争奪戦の際にその資格を活かすべく転職先を探していたので病院事情には明るかった。
「そうなると……長期の滞在できる施設に往診を頼むか信者の医師と看護師が常にバノンに張り付いているということになるが……後者の場合は厄介だね……往診する医師が出入りしているのであればそこからバノンの潜伏場所を特定することが出来るが、もし自前の医師と看護師を抱えているとなると人の出入りが無いということになる……その場合は長期の滞在が出来る邸宅を一つ一つ訪問する必要がある……しかもバノンの目的が分からない以上、家宅捜索をすることもできない……リン、とりあえず『近藤事件』以降にそれなりの規模の中古の住宅を購入した履歴を当たってくれ。それくらいしか……」
かえではまた言葉を止めて誠とリンに意見を求めるようにその顔を見回した。




