第86話 有能な軍人の行動原理と落ちこぼれの下士官の場当たり的な経験則
「それじゃあ、僕達は小会議室に移ろう……大田空港から姿を消したバノン。そしてその指示で島田准尉を襲ったとみられる白いバン。そのつながりについて僕なりの考えを誠君にもリンにも聞いてもらいたい」
かえでは会議室を出るなりそう言って管理部の隣の休憩スペースに向けて歩き始めた。
「誠様、かえで様はある程度この事件の追うべきターゲットがお分かりになられているようです。私達も行きましょう」
そうリンに声をかけられると誠には断ることなどできなかった。
第二小隊に入って初めての仕事。それがほぼかえでの指示で動くのは誠にも当然とは思えたが、これまで数々の法術捜査を担当してきた自分の意見を聞いてくれそうにないかえでの態度に少し不満を感じながら誠はかえでに導かれて狭い小部屋に入った。
四人掛けのテーブルと椅子があるだけの狭い部屋に三人は入るとかえでと向かい合うように誠とリンはそれぞれの席に着いた。
「僕は回りくどい事は嫌いだから結論から言おう。バノンは米軍が知っている程度の地球人が法術師になるための条件を把握してはいない可能性が高い。そもそも、男性のバノンが法術師、そして不死人になるのは不可能だ。それなのに彼はこの遼州圏に来た。そしてその狙いを不死人であることが公になっている島田准尉に絞った。彼が宗教家で科学的知識と言うものにある種の疑念を持っている可能性が高いとなると疑似科学……いわゆる地球圏でのネットでのデマを信じてそれを行動に移したと考えるのが自然だと僕は思っている」
かえでは何時にもない真剣な表情でそう断言した。それは誠が第一小隊というかえでの部下でなかった時には見せなかった『有能な軍人』としての彼女の顔なのだと誠は思った。
「確かに、新興宗教の中には教義に疑似科学を根幹に据えるものが多いですからね。かえで様の言うのももっともな話です。早速、地球圏で不死人に関するデマ、誤情報、捏造情報などを調査してみましょう。ところで、誠様。バノンが姿を消したことに関してどのようなことをお考えでしょうか?バノンはテック企業をいくつも保有する超富裕層と言っていい存在です。ただ、アメリカにおいてはその程度の超富裕層程度では軍に影響力ほどの力を持つそれを超える超富裕層の下位に存在する身分の存在でしかない……そのあたりを念頭に入れた上でこれまでの法術捜査の経験から今、バノンが何処に潜伏している可能性が高いかお考えを伺いたいのですが?」
いつにもまして理論的にリンは誠の顔を見てそう言ってきた。
「あのー、僕達の捜査はなんと言うか……足で稼ぐというか……勘で勝負するというか……」
かえでとリンの行動に移る前にしっかりと下準備をしたうえで捜査を開始するという考えてみれば当たり前のことをこれまでしてこなかったことに誠は我ながら呆れていた。




