第81話 謎の『信者無き教団』
「この『神聖聖書協会』っすが、教祖の聖地であるイスラエルは国境をユダヤ教徒決めてそれ以外の宗教は一切その存在を認めない方針の国なので、布教は主にアメリカで行われました。実際、彼の所有するテクノ企業の多くはアメリカに拠点があるのでその従業員を強制的に自分の教えに染め上げて、さらに交友のあるテクノ企業の超富裕層の間にもその信者は見受けられるんっすよ。それでもまあ、あそこはキリスト福音派という政府の後ろ盾のある強力な宗教勢力による圧迫がありますから限界は見えてるんっすけどね」
そう言うラーナの言葉に誠は社会常識のない自分には理解不能な意味不明な固有名詞が連発されるので、高卒のはずのラーナの童顔のそばかす顔のどこにそんな知識があるのか不思議に思いながら話を聞いていた。
「そこでこの教団は布教範囲を地球圏外に求めたんす。地球圏に比べて政府による宗教統制が行き届かない植民惑星なら受けると踏んだんすね。実際、過酷な環境に置かれた植民者たちの間にはある程度の信者がいます。当然この遼州圏にも来たんすが……」
ラーナはここで一息つくと手元の端末を弄り始めた。
「そんなものは遼州圏では受け入れられるわけがないね。外惑星や遼北のような社会主義国では宗教そのものが悪と考えられている。甲武やゲルパルトは元々宗教に関しては極端に保守的で宗旨替えなどほとんどあり得る話ではない。そして西モスレムは国境をイスラム教徒定めてイスラム法で国が動いている国だ。何度もイスラエルに煮え湯を飲まされてきたアラブ連盟との関係を考えれば信者の入国自体が不可能だ」
作業を続けるラーナを見ながらかえでは冷静にそう言って見せた。
「日野少佐の言うことが次のスライドの中身のほとんどっすね。付け加えて言うと遼州人の国である遼帝国や東和はそもそも遼州人は宗教行事で生活リズムを乱されるのをことさら嫌うのでまるで受けなかったそうっす……まあ、一応何かあった時のためにと思って文化庁や公安に連絡を取ってみたんっすが文化庁には一応宗教法人としての登録はあるのですが信者の数はほぼゼロ。公安も東和国民の信者がいないのに動く必要なんか無いと無視を決め込んでいるみたいっす」
そう言ってラーナが画面を切り替えるとラーナの言った内容がそのまま映し出された映像が表示された。
「信者が居ねえ?じゃあ、なんで最近あの車があっちこっちで走ってんだ?誰が運転してるんだよ。この東和じゃ自動運転の車は車検が下りねえから走れねえぞ。それにあの車を見るのはこの4か月前くらいからだ……連中は何がしてえんだ?」
そんなかなめの疑問に誠達も同意するようにうなずいてラーナを見つめた。




