第78話 見捨てられた不死人とそれを待つ地獄
「なんだよ、いわゆるお金持ちの『永遠の若さ』とやらを東和の専売特許にするための捜査か?アタシは御免だね」
かなめは真剣な茜を無視してそう言って腕組みをしてそっぽを向いた。
「かなめお姉さま。たしかにこれがお金持ちの道楽で済んでいるうちは何の問題もありませんわ。でもお忘れになりましたの?『不死の兵隊』を作ろうとした『同盟厚生局違法法術研究事件』を」
明らかに笑顔を作って茜はそう言ってかなめを見つめた。かなめの目が急に光を帯びるのを誠達も見逃さなかった。
「確かに日本語の文字の読み書きすらおぼつかない彼等ですが、そのようなものは軍事施設でいくらでも教育すればいい。そしてなんと言ってもその驚異的な生命力……通常の人間なら即死するような過酷な放射能に汚染された環境でも新鮮な酸素と水さえあれば平気で活動できる。去年もイスラエルとアラブ連盟の間で核戦争がありましたわね?その際に爆心地の調査に取り掛かるのに両軍はどれだけの時間を無駄にしたか……その点、三谷に住む不死人達を大量に動員できれば迅速にその結果を軍は知ることが出来る」
茜の非情な一言に全員の顔は緊張に包まれた。
「三谷の立ちんぼの女性達も吉原の女性達も教育次第では地球人では死んでしまうような宇宙放射線の強い地域に艦隊を派遣する際の艦船のオペレーターとして活用することも可能。これまで地球人では到達不可能と思われていた星系の調査が出来るようになる。そうなれば地球圏の国々による宇宙開拓競争が一気に加速する……今はお金持ちの趣味で済んでいる話もそう言った将来的なビジョンから考えてみると十分調査に値する事件だと思いますわよ」
それまで他人事のように構えていたアメリアさえ茜の言葉にようやく本腰を入れて茜の話を聞き始めた。
「なるほど、確かに地球圏の人間の考えそうなことですね。この国は自分達は辛いからやりたくない仕事を不死人達に押し付けてきた。そして同じように地球圏の人々は自分達では不可能なことを不死人達にやらせようとしている。そして、東和政府も替えの効く肉体労働者や風紀を乱すと取り締まっている立ちんぼや風俗店の女性の数が減っても歓迎こそすれ一切気をかけることもない……」
かえでの隣で黙って座っていたリンがそうつぶやいた。密売され、性のおもちゃにされた『ラスト・バタリオン』としての経験がこれから国からも見捨てられ新たな場所で過酷な運命に晒されることになる不死人達に対する共感がそう言わせているのだろうと誠は思った。
「渡辺さんの言う通り。今回も東都警察は一切関知しないと言ってきましたわ。あの人達にとってはあそこの住人は取り締まりの対象であって守るべき人では無いということですわね」
諦めた口調で茜はそう言った。




