第75話 微妙な二つの星系の関係と法術研究の漏洩
「ええ、島田君の事件……まあ、あちらの方は『特殊な部隊』の内部事情ですし、司法局もあまり重視していませんわ。でも、もう一つの方はかなり深刻な事件……法術研究の漏洩……しかも地球圏の軍関係から民間の一部の超富裕層の特定の人物へのそれが疑われる事件の可能性が濃厚ですわね」
茜が地球圏と言う言葉を使った瞬間に場の空気は一気に緊張した。
遼州圏と地球圏は決していい関係を持っていない。地球圏の国のすべてと国交があるのは遼州圏では遼州星系の一番外側を回る惑星を領有する『ラップ共和国』のみで、地球圏から遼州圏に入ろうとすればこの国を経由するのが普通だった。
また、国民の99%がイスラム教徒の『西モスレム首長国連邦』はイスラム文化圏として欧米のキリスト教文化圏の国々と対立関係にあり数十年に一度は核を使用した戦火を交えている地球のアラブ連盟加盟国とは国交を持っていた。
しかし、それ以外の国には地球圏の国々は実務上の必要がって連絡事務所を置く程度で国交樹立に向けての交渉をするつもりはどちらにも無かった。
その冷めた関係の地球圏が、遼州の経済の中心であるこの東和共和国に関心を示している。しかも、それが遼州人の持つ独自の力である法術の関係の事となれば否が応でも緊張が高まった。
しかし、そんな緊張感とは無縁な人物が一人紺色の長い髪の枝毛を気にしながらその話を聞いていた。
「でも、さっき聞いた話だとその被害者の人達はよりマシな暮らしをしているんじゃないの?仕事と言えばセレブのお嬢様のお相手をするだけ。しかも、これまで過ごしてきた少し前の隊長みたいな最底辺の生活から解放されるんだもの。例え、それがアンチエイジングの究極手段に過ぎないとしてもそれなりに良い暮らしが出来る。そもそもその人たちは『被害者』と言えるのかしら?」
誠はアメリアの明らかにやる気のない態度に驚きながらもその『アンチエイジングの究極手段』と言う言葉が気になった。
「確かにそう言う扱いを受けている可能性も否定できませんわね……でも相手は人権意識を21世紀に捨て去った地球人です。彼等がほぼ間違いなく地球に拉致されたのは間違いないんです。そしてその目的は……それが果たされたらその方々には存在の必要性が無くなります。むしろその存在自体が邪魔になる上に簡単に殺すこともできない……その先に彼等を待っている過酷な運命を考えると私は黙ってはいられません。それにそれは明らかに軍関係の研究者レベルでは常識であっても民間には流出していない情報を元にしたものと考えられますわ。そんな情報を手に入れて自らの欲の為に利用出来てその為に金を惜しまずにこの東和に人員を送り込める……かなりの政治的影響力を持つ超富裕層の人間が関係していることは明らかなんです」
茜はそう強い調子でやる気が無さそうなアメリアをにらみつけた。




