第259話 色ボケ隊長といつもの落ち
「でも、隊長は?」
誠はもう一人の不在の人物の名前を思い出してそう言うとランは大きくため息をついた。
「おい、神前よ。アタシにそれを言わせるのか?」
完全に呆れ果てたというところで春子と小夏が二人で追加のビールを運んできた。
「はい、ビールよ。誠君もたくさん飲んでね……ああ、西園寺さんのラムが少ないわね、小夏!お願い!」
まず、上座の誠の席にビールを二本置いた春子は小夏にそう声をかけた。
「あれ?お蔦さんもいませんけど……女将さん。お蔦さんは?」
誠はこの場に春子と小夏の二人しかいないことを不思議に思って春子にそう尋ねた。
「ああ、新さんと一緒に出ていったわよ……なんでも月が見たいんですって」
それだけ言うと意味ありげな笑みを残して春子は自分の嫌いなかなめの酒を取りに行くことが不服そうな小夏を連れて階下へと降りて行った。
「これって歓送迎会ですよね……しかも血のつながった弟で隊の存続を支えてくれた重要人物の……隊長にはそんなところを思いやる心はないんでしょうか?おかしいですよ」
誠はそんなことを口にしながら空のコップに手酌でビールを注ぐと再び豚串を手に取った。
「おい、神前。半年間オメーはあの『駄目人間』の何を見てきたんだ?アイツの一番好きなものが目の前にある。そうなったらあの『駄目人間』はどんな妨害があろうが平気でそれを突破する。その目的は……それをアタシに言わせる気か?」
ランは吐き捨てるようにそう言うと二本目の徳利に手を伸ばした。
「まさかこのまま二人でホテル……あの人……何考えてるんですか?確かに隊長がこういう席が好きじゃ無いのは知ってますけどそれにしても限度ってもんがありますよ!」
誠は豚串をくわえながらそう叫んでいた。
「ああ、あの調子じゃホテル以前で手を出す可能性があるな。公園のトイレとか……お願いだから県警のお世話にはなってくれるなよ。これ以上面倒ごとは御免だ」
不機嫌を通り越して怒りに震えながらランはそう言った。
そこにふらふらと近づいてきたのはアメリアだった。その顔は真っ赤で完全に出来上がっていた。
「ホテルに行きたいんだ?誠ちゃんも。丁度私もそんな気分なの……じゃあ、行きましょう」
先ほどのランと誠の話を半分くらい聞いていたらしいアメリアはそう言って誠の豚串を持った手を引っ張った。
「なにいってんだ!これは大事な歓送迎会だ!オメエにそんなことを言う資格はねえ!」
アメリアの居ないことに気付いたかなめがその後ろからアメリアの首筋をひねり上げる。
「苦しい……助けて誠ちゃん……」
助けを求めるアメリアに誠はただ呆れた顔を向けて笑うだけだった。
こうしてまたドタバタの歓送迎会は第二幕を迎えようとしていた。




