第258話 人格者の去り際
「あれ?高梨部長は?それと隊長も……どこにいったんですか?」
誠がかなめ達の騒動から解放されて一息ついて今度は鶏レバーに手を伸ばした時、高梨は席におらず誠とかなめ達のやり取りを見ながらニヤニヤ笑っているランの姿があるだけだった。
「まったく観察眼のねー奴だな。高梨さんなら……あそこだ」
ちっちゃなランは手酌で熱燗を飲みながら下座を指さした。
そこにはひたすら何度も頭を下げてビールを注ぐ菰田とそれを笑って受ける高梨の姿があった。
「神前よ、オメーはアタシの部下だ。いや、ただの部下じゃねー。替えの効かねー大事な部下なんだ。そして同じく、高梨さんにとっても菰田は大事な部下だ。まーそーいうこった」
隊の誰からも嫌われていて部下であるパートのおばちゃん達からも白い目で見られる菰田と酒を酌み交わす高梨の顔には本当の笑みが浮かんでいた。
「確かに菰田の野郎は嫌われ者だ。アタシも正直虫が好かねー。しかしな、そんなことじゃあ組織って奴は回っていかねーんだ。そしてその組織を愛することができる人間はその人柄を超えて人を愛することができる。高梨さんはそれが出来る人だったんだ。同じ苦労をし、時には菰田の嫌われぶりを庇ってやり、そしてその原因を菰田が傷つかない程度に教えてやる。最近だって菰田のオメーへのあからさまな嫌がらせが無くなって来ただろ?それも高梨さんのおかげだ……あの人が居なきゃ……もしかしたらアタシ等は空中分解していたかもな」
ランが来るときは必ず出て来るエイひれをつまみに酒を飲みながらランはそうしみじみとつぶやいた。
「本当に凄い人なんですね……高梨部長は」
涙を浮かべて頭を下げている菰田の肩を笑って叩く高梨を見ながら誠は感心したようにそう言った。
「そうだな。凄い人だ。ただ、そんな人をうちみたいなはみ出し者の集団にいつまでもとどめおくことは出来ねーんだ。それは高梨さんの為にはならねーし、アタシ等の為にもらなねー。アタシ等は高梨さん無しでもやっていけるようにならなきゃならねー。その道筋を高梨さんは作ってくれた。この恩……一生忘れるんじゃねーぞ。これを忘れた瞬間に、神前よ……オメーは人の道を外れた『外道』に落ちる。アタシはそんな『外道』をたくさん見てきた。この隊にはそんな『外道』は必要ねー。菰田は性格は悪いしどうしようもねー奴だがそこまで落ちちゃいねー。人それぞれ……人を思う心さえあれば人は生きていける」
ランはそのちっちゃい身体から出てきたとは思えない含蓄のある口調でそう言うとエイひれを一切れ口に放り込んだ。




