第255話 父親の顔……一名例外アリ
そんな高梨の言葉に心打たれている誠の目にお蔦の顔が飛び込んできた。
「なあに、ギネス級がなんで並みだなんて家がしてるんだい?それより、ほら。焼鳥盛り合わせと豚串三人前。今日はあの茶髪の兄ちゃんが来てないんだから。アンタが食わなくてどうするんだよ」
お蔦のタイミングのいい闖入で誠はなんとか涙をこらえることができた。
「そうだね、隊長もいつも言ってるがこの部隊には涙より笑いが似合う。僕の言葉は心の端にでも止めて置いてくれ。君は……君達は決して一人じゃないんだから」
そう言うと高梨は満面の笑みでネギまを手に取った。
「ああ、高梨部長。ここのねぎはいいですよ。なんと言っても朝とってすぐにこうして店に出してるんですから。都内の高級店だってこんないいねぎは食べられないと思います」
誠は都内ではチェーン店の焼鳥屋死か言ったことが無いのに知った風にそう言って高梨に笑いかけた。
「そうか……なら、家族で着たいくらいだな。うちの娘はネギが好きでね。子供は普通ネギや野菜を嫌うものだと聞いているがうちの二人の娘はどちらも野菜が大好きなんだ……でもまあ、大根だけは食べられないらしい。うちの家内もそれには困らせられているよ」
そこには家庭の父と言う高梨のもう一つの顔があった。
ここで子持ちと言えば隊長の嵯峨もそうなのだが、見た目もその言動もまるで姉と弟にしか見えないので高梨のいかにも父親然とした姿に誠は実家にたまにしか帰らない誠とは似ていない丸顔のいかにも武人然とした剣道教師の父を思い出した。
「おい、神前。主賓を独り占めとは良い度胸してるじゃねえか……さあ、高梨部長、とりあえずビールが空いてるんで」
そう気を利かせて現れたのは意外にも普段は自分勝手で知られるかなめだった。
「ああ、西園寺君。君にもお世話になったね……しかし、野球部の方は調子がいいみたいじゃないか……本当に今年はいい成績……もしかしたら初優勝なんてこともあるかも知れないからね……彼等が加わればレギュラーメンバーが抜けても菱川重工、千要マート、豊川市役所の三強以外なら間違いなく勝てるだろうしね」
高梨はかなめからビールを注いでもらいながらそんなことを口にした。
「彼等?レギュラーメンバーが抜けても大丈夫?だってうちの出動した時の留守の技術部の人って一人も野球経験者は居ませんよ」
誠は高梨の言葉の意味が分からずそんなことを口にしながらついでと言うように瓶を向けてきたかなめにビールを注いでもらった。




